第17話 ここから


冤罪えんざいのキルステンとのあいだで、そんなやりとりがあったことさえもるよしもない甲板かんぱんにいる人々ひとびとは、危機ききいのちたすかったこと素直すなおよろこきあっていた。


そんなかれ人間アダムの子てディエールは、冤罪えんざいのキルステンが最後さいごのこした言葉ことば引っかかりをおぼえながらも、とりあえず、ふね船員せんいん船客せんきゃく、をすくえたことしとした。それにレオをすくえたこと、これらはせい天使てんしとしての最低限さいていげん成果せいかであろう。


しかしそのレオにかんしてディエールにはある懸念けねんがあった、それはいまのレオの心情しんじょうとも言葉ことばかせたこと、そこにはすくなからずリスクもあった。


そのリスクとは、ともうしないその死真相しんそうり、きる活力かつりょくになってたであろうその復讐ふくしゅうたれる、それは、とも言葉ことばとはいえレオのきる活力かつりょくうばいかねない、いまレオのいのちすくえてもそのしのぎにすぎず、レオにこれからのきる意味いみいだせなければすくった意味いみがない、ディエールはそんな予期不安よきふあんさいなまれながらもレオをやった。



そのディエールがいだいた不安ふあん予想よそうどおりであった……。


懸念けねんしていたとおりディエールをかいしたスティーヴの言葉ことばは、レオをふたたかなしみのそこへととしていた、レオのこころかなしみのあらしれていることがディエールにはわかった。


ひとつよさとよわさは紙一重かみひとえ

それはおさまったわる風邪かぜがぶりかえしたかのようである、ディエールの本当ほんとうこころいやしはここからだった。

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