アンゲロイ〜天使転生〜

第13話 負の正体

それは夕日（ゆうひ）が落（お）ちていく西（にし）の空（そら）から聞（き）こえた…

「アルテミス君（くん）捕縛（ほばく）した2人（ふたり）をこちらへ」

そう呼（よ）ばれ、レオからお株（かぶ）を奪（うば）った黒髪（くろかみ）の男（おとこ）は、西（にし）の空（そら）へと飛（と）んでいった。

どうやら黒髪（くろかみ）の男（おとこ）はアルテミスという名（な）らしい

そんな飛（と）んでいくアルテミスをレオは疑視（ぎし）している。

お株（かぶ）を奪（うば）われた事（こと）が相当（そうとう）悔（くや）しいみたいだ。

アルテミスが飛（と）んでいった西（にし）の空（そら）は、時化（しけ）により荒々（あらあら）しくなっていて、波（なみ）も龍（りゅう）のうねりの様（よう）に蠢（うご）めいている、そんな西（にし）の空（そら）から先（さき）ほどの声（こえ）の主（ぬし）が、姿（すがた）を現（あらわ）す。

「アルテミス君（くん）、先行（せんこう）ご苦労様（くろうさま）です。捕縛（ほばく）したその者達（ものたち）は、あとで尋問（じんもん）にかけます」

…それは、フランスの教会（きょうかい）に現（あらわ）れた権天使（けんてんし）ディエールと、その供（とも）3《にん》（アルテミス含（ふく）む）であった。

そうアルテミスに言（い）い伝（つた）えるとディエールは、一団（いちだん）には目（め）もくれず峻厳（しゅんげん）な気（き）だけを、一団（いちだん）にあてがった。

そのディエールから発（はっ）せられた、異様（いよう）な圧（あつ）を感（かん）じたのか一団（いちだん）は、襲（おそ）っていた人達（ひとたち）から離（はな）れ始（はじ）めた。

そして当（とう）の襲（おそ）われた人達（ひとたち）は、ディエールを見（み）た瞬間（しゅんかん）から奇妙（きみょう）な感覚（かんかく）に囚（とら）われていた。

それは…この男（おとこ）の、蒼（あお）い瞳（ひとみ）、金色（きんいろ）に輝（かがや）く絹（きぬ）の様（よう）に美（うつく）しい髪（かみ）、まるで絵画（かいが）から出（で）てきたと思（おも）わせる風貌（ふうぼう）、そこから発（はっ）せられる慈愛（じあい）に満（み）ちたオーラ、そのオーラに触（ふ）れ人々（ひとびと）は安堵（あんど）し、癒（い）やされ、感嘆（かんたん）の涙（なみだ）を流（なが）し、そして……

乳飲（ちの）み子（ご）が、母（はは）の胸（むね）に|包（つつ）まれ愛（め）でられる、そんな感覚（かんかく）をおぼえた。

言葉（ことば）がわからなくても不思議（ふしぎ）と

　　　　　「害（がい）はない」

「この金髪（きんぱつ）の男（おとこ）は私達（わたしたち）を救（すく）ってくれる」

という確信（かくしん）と安堵感（あんどかん）を、なぜかディエールには持（も）てた。

「君達（きみたち）2人（ふたり）は、怪我（けが）しているアダムの子等（にんげんたち）の治療（ちりょう）を……私（わたし）はあいつと話（はな）しがあります…」

※アダムの子孫（しそん）である人間（にんげん）は、天使（てんし）の間（あいだ）で、アダムの子（こ）、もしくは複数形で子等（こら）と呼（よ）ばれている。

ディエールは残（のこ）りの2名（にめい）にそう指示（しじ）し、自（みずか）らはあいつと話（はな）しがある、と述（の）べ一団（いちだん）の方（ほう）に気（き）だけじゃなく今度（こんど）は視線（しせん）も送（おく）りつけた。

しかし、ディエールのその視線（しせん）は一団（いちだん）の、その先（さき）を見（み）ているかのようだった。

ディエールに視線（しせん）を向（む）けられ困（こま）ったのか、一団（いちだん）の多（おお）くは、ディエールから目（め）を反（そ）らした。

そしてその一団（いちだん）の1人（ひとり）が、おずおずと如何（いか）にも、その重（おも）たそうな口（くち）を動（うご）かす。

「あぁ……ディエール氏………こ、これは…」

※天使（てんし）は目上（めうえ）の階級（かいきゅう）の者（もの）には尊称（そんしょう）で、名（な）の最後（さいご）に「氏（し）」を付（つ）けたりする。

という事（こと）は、この一団（いちだん）はやはりディエール達（たち）と同（おな）じ天使（てんし）なのか?

一団（いちだん）の1人（ひとり）がなにかディエールに言（い）いたそうにしている。

…だが、捨（す）てられた子犬（こいぬ）の縋（すが）る様（よう）なその声（こえ）をディエールは

「今（いま）はあなた達（たち）と話（はな）しをしている時（とき）ではない」

と冷（つめ）たく切（き）り捨（す）てた。

どうやら、話（はな）しがあるのは彼等（かれら）の中（なか）にはいないようだ。

ディエールはなおも続（つづ）いた。

「私（わたし）が話（はな）しがあるのは、あなた達（たち）の後（うし）ろでコソコソしている者（もの）です…」

　　　　　！！！！！！！！！！

「いいかげん…隠（かく）れてないで出（で）てきたらどうです?たとえ……どんなに姿（すがた）を隠（かく）しても、お前（まえ）の、この世（よ）の不吉（ふきつ）を孕（はら）んだニオイだけは隠（かく）しきれませんよ……罪深（つみぶか）き者（もの）よ…」

！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！

ディエールのその言葉（ことば）でこの場（ば）には一瞬（いっしゅん）、緊張（きんちょう）が走（はし）った。

ディエールの、まるで心（こころ）の奥底（おくそこ）にある影（かげ）を抉（えぐ）りとるような問（とい）かけは、裏（うら）で糸（いと）を引（ひ）く黒幕（くろまく）を引（ひ）きずり出（だ）す事（こと）に、十分（じゅうぶん）であった……。

そしてそれは姿（すがた）を現（あらわ）す‥。

「くっクっくッ…サすがヨのぉ生（せい）の天使（テンし）」

※生（せい）の天使（てんし）の記述（きじゅつ）については、また後（あと）でくわしく。

一団（いちだん）の後（うし）ろから、それはゾロリと出（で）てきた…

粘着性（ねんちゃくせい）のある異質（いしつ）さを身（み）に纏（まと）う、その姿（すがた）は、オーストリアの教会（きょうかい）に現（あらわ）れた異質（いしつ）なる者（もの）。

そして、その教会（きょうかい）に現（あらわ）れた時（とき）は、暗闇（くらやみ）でよくわからなかったが、夕刻（ゆうこく）の今（いま）では異質（いしつ）なる者（もの）が何者（なにもの）かがよくわかった。

この者（もの）の身（み）なりは黒（くろ）い霧（きり）のようであり、それは人（ひと）の体（てい）を成（な）していない、いわゆるバケモノである。

「我（ワれ）はアダムかラ生（う）マレシ罪（つミ）ノ王（おう）、原罪（げンザい）の一族（いちゾク）………冤罪（エンざい）のキルステン……。まぁ天使共（テンしドも）は我（ワレ）らを、ヒト括（くく）りニ罪深（ツミぶか）き者（もノ）と呼（よ）ブガな…」