オタク魂と書いて探求心と読む

ハルトくんはぽかんとした顔をして、ヴァンパイア王を見ている。

突然ここへ連れて来られたことが理解できていないみたい。


ヴァンパイア王はこちらを見て不思議そうな顔をする。


「エレノアが友を呼びたいと言ったから召喚したが、はて……?3人か」


彼はゆっくりと立ち上がり、こちらへ歩いてきた。

真正面に立つと、まじまじと考えこむ。


「おまえたち、少し『色』が違うな?」


その言葉に、私たちは首を傾げた。


「色?」


「あぁ、この世界の人間とは少し違う」


「それって」


もしかして、前世で一度死んでこの世界に来たっていうのと関係あるのかしら?

シル様も同じように思ったらしく、私と二人でちらりと目を見合わせる。


「まぁ、よい。歓迎するぞ」


ヴァンパイア王はそう言って微笑み、指を鳴らすとテーブルにティーセットや菓子などが並ぶ。


ゲームではヒロインに対して

「さっさと帰れ」とか言ってそっけない感じだったのに、随分と歓迎してくれている空気を感じる。


着席を促すヴァンパイア王に対し、シル様がスッとスカートの裾をつまんでカーテシーをして挨拶をした。


「はじめまして。わたくしミッドランド国の王女、シルフェミスタと申します」


優雅なその姿は、間違いなく王女様の気品だ。着ているのはメイド服だけれど……。

私も慌てて同じように挨拶をする。


「フォルレット・オーガストと申します」


「あ……、ハルクライト・オーガストです」


私たちに続いてハルトくんも名を名乗る。


エレノアはさっき私に投げられたのに、またそばに来て腕をとってきた。


「さぁ、お茶にしましょう!」

「あなた何でそんなに自由なの?寛いでるんじゃないわよ、皆大騒ぎになってるのに!」


呆れてそういうと、エレノアはやっと事の重大さに気づき、口元に右手を充てる。


「やだ、どうしましょう!」


「どうしましょうって言われても、何があったのかとにかく話して」


私たちはテーブルにつく。


エレノアはヴァンパイア王の隣に座り、何があったのかを話し始める。


「散歩の最中に、鍵を拾ったんです。それで気づいたらここへ……」


迷子になったのだと思ったエレノアは、自分の状況を楽観視していた。

地下とは思えない美しい王宮が目の前に広がっていたから「ここは城の中のどこかかしら」と思っていたらしい。


「奥へ進んでいくと、ガラスケースに入ったベッドがありまして。その中には、こちらにおられるジェラール様が眠っておられました。拾った鍵がどうやらそのケースの鍵だということはわかったので、それで……」


隠しキャラ攻略のオープニングとまったく同じだ。

1000年の眠りから、ヴァンパイア王・ジェラールを目覚めさせたヒロイン。私とシル様は顔を見合わせる。


((やっぱりこの人がヴァンパイア王なんだ……!))


エレノアは彼の方を見て、心配そうに言う。


「ジェラール様はすぐに目を覚まされました。ずっとここに一人でいらしたとおっしゃるので、私が話し相手になれればって思ったんです」


ここでヒロインらしさを発揮してた!

そうよね、「じゃあ私はこれで」って去っていけるほどの冷淡な女の子じゃないわよねエレノアは。


それに確か、ヴァンパイア王は孤独なイケメンっていうだけで、ただのクールキャラだった気がする。別に人間の血を吸うとかもなく、ただただかっこよかった。


私とシル様は、このキャラは安全だと判断する。


「それにしてもリアルなジェラール様って本当に素敵ね」


シル様がうっとりした表情でそういう。

ハルトくんが最推しであっても、イケメンは大好きなのだ。


ジェラール様は、クールな態度を崩してちょっと照れた仕草を見せる。


ツンとした態度に垣間見えるかわいさ、ありがとうございます!!


私とシル様は声を揃えて言った。


「「生きていてくれてありがとうございます!」」


しかしここで彼は不思議そうな顔をする。


「ヴァンパイアに生きているも死んでいるもないが」


え、そうなの?

私はきょとんとしてしまった。


しかしここでエレノアが淋しそうに口を開く。


「ここにずっとお一人で眠っておられたなんて、とてもかわいそうなお方なのです。だから一緒に城へ行きましょうと声をかけたのですが……」


ジェラール様は断ったらしい。


「城は好かぬ」


エレノアは困った顔で首を傾げていたが、私たちにはジェラール様が嫌がる理由がわかっていた。

彼はかつて友人であった聖女との思い出が詰まった城に、行きたくないのだ。


ただし、その話を聞いて同情したヒロインと恋仲になる…………と、非常にまずい。

今、エレノアはレオナルド様の婚約者なのだ。

その状態でジェラール様とも、ということになると非常にまずいわ!


ジェラール様とレオナルド様が争う、なんてことになれば

それは護衛のマティアス様のピンチにもつながって、死亡フラグがどーんと立ってしまう!


狼狽える私の前でエレノアが余計なことを尋ねた。


「城へは行きたくない、とは、何か事情でもあるのですか?」


うるうるとした目で見つめるエレノア。

まずい。ヒロインがヒロインらしく、純真な眼差しで見つめている。


ここで私は慌てて二人の間に割って入った。


「ああああ、あの!とりあえずエレノアが無事だということを婚約者の王子様に報告したんですがよろしいですか!?そう、婚約者のレオナルド様に!!」


婚約者、を声を大にして強調する。

この子はすでに相手がいるんですよ、と暗に伝える作戦だ。


ジェラール様は私の言葉に「あぁ」と頷き、いったんエレノアを城へ帰すことを許してくれる。


「婚約者を心配させるのはよくない。エレノア、もう戻れ」


私はホッと胸を撫でおろす。


「ジェラール様のお力を借りれば、城へエレノアとハルトくんを送ってもらえますよね?」


「それは構わぬが、一度に三人までしか送れぬからそなたらの誰か1人はここに残ることになるぞ」


「わかりました」



私は、ハルト君にエレノアの護衛を頼む。


「エレノアと一緒に、レオナルド様のところへ行って。私とシル様は、ここに残るから」


「でもっ」


ハルト君は私が妊婦であることを心配していた。

大丈夫。むしろジェラール様のかっこよさで健康状態はすこぶるよし、だから。


「こっちに戻って来るときに、マティアス様を連れてきて?お願いね」


話がまとまったのを見て、ジェラール様はハルト君に鍵を渡す。


「持って行け。準備ができたら私の名を呼べばいい」


「わ、わかりました……」



ハルトくんとエレノアは、心配そうに私たちを見つめながらも、おとなしく席を立つ。

二人並んだところで、ジェラール様が右手を翳して二人を城へと送ってくれた。


ほんのわずかな風が巻き起こっただけで、一瞬にして二人の姿はそこから消えてなくなっている。


「すごい。魔法って初めて見ました」


さすがは隠しキャラ。

呆気に取られる私を見て、ジェラール様は笑って言った。


「さて?何か話したいことでもあるのか?あの者たちだけ帰したのには、理由があるんだろう?」


全部お見通しだった。

私とシル様は、二人だけで彼と話したいと思っていたのだ。


だって────


「ヴァンパイアってどんな種族なんですか!?」

「1000年も眠りについた理由は?」

「魔法ってどんなものを使えるんです!?」

「そのお体は不老不死なんですか!?」


オタク二人は、それからしばらくジェラール様を質問攻めにした。





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