推し未亡人、巻き込まれる

城内に入ると、私たちはすぐにレオナルド様への謁見を申し込んだ。

すぐにでも私室へ来いとの回答を得て、私たちは言われた通りに移動する。


途中、エレノアがいなくなった庭園を見つけ、シルさまが興味を引かれた。


「ねぇ、ちょっと見ていかない?あのアーチがある場所でしょう?」


シル様は薔薇のアーチがある方を指差す。

ここはオープニングで攻略キャラが並んでいる場所でもあり、私も侍女時代に初めてきたときは大興奮だった。


「シル様、謁見が先です」


私は申し訳なさそうに言うと、シル様は不服そうに言う。


「えー、別にエレノアが命の危機ってわけじゃないんだからいいじゃない」


「それを知ってるのは私たちだけですよ、レオナルド様からしたら気が気じゃないはず」


婚約者が行方知れずなのだ。

私だってマティアス様がそうなら、発狂しそうになっていると思う。


そう言ってシル様を宥めていたそのとき。

突然、私たちの足元が光りはじめた。引っ張られるような感覚が足元にあり、驚いて息を呑む。


「──っ!?」


「何!?」


「義姉上!」


ハルトくんが焦った顔で私の腕を掴む。

光っているのは私とシル様の足元だけで、彼は動けるみたいだった。


「「きゃぁぁぁ!」」


ただし、どうすることもできなくて私たちは一瞬にしてその場から消えた。




目を瞑り、首を竦めていたら、周囲の空気が変わったことに気づく。


「……?」


目を開けると、豪華なパーティー会場のような広い空間だった。

天井にはシャンデリア、目の前にはテーブルセットがある。


「フォルレット様!」


「エレノア!?」


今まさに、そのテーブルセットに座ってお茶を楽しんでいたであろうエレノアが、私を見てうれしそうな声を上げた。


派手なパステルピンクのドレスは王妃様が選んだもので、この無神経にも元気な声はまさしくエレノア!


彼女は立ち上がり、私に駆け寄って飛びついてくる。


「フォルレット様―!会いたかったです~!」


いや、それどころじゃない!

抱き着いてきたエレノアを乱暴に放り投げると、私は叫んだ。


「ヴァンパイア王は!?」


どうやら私たちは、地下の王宮に連れて来られたらしい。エレノアが失踪したときと同じってこと?


エレノアがさっきまで座っていたテーブルセットには、今も落ち着いた顔つきで茶を飲んでいるイケメンがいる。


少し長めの黒髪、切れ長の目。

長い手足!

フロックコートのような紫色の上着に、シャツとベスト、トラウザーズ……


私は、隣に立っていたシル様とほぼ同時に叫んだ。


「かっこいーーーーーーーーーーーー!!!!」







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