隠しキャラを思い出す2
隠しキャラは、攻略対象を3人クリアしたら出てくるって条件があったはず。
ヒロインと隠しキャラの出会いは────
「「薔薇園!!」」
私とシル様の声が重なる。
あぁ、もう絶対にそうだ。
エレノアは、地下に召喚されたんだ!
「ヴァンパイア王の眠りを覚ます運命の乙女」として……!
「あの、隠しキャラ?とは一体?それにヴァンパイア王っていうのは何のことです?」
正面に座っているハルトくんが、私たちを見て戸惑っていた。
どう説明したものか……
エレノアは多分、薔薇園にある「鍵」を拾ったんだわ。
その名前の通り、見た目は小さな鍵。宝箱を開ける、いかにいも~な感じの鍵だ。
それを手にすると、ヴァンパイア王のいる地下王宮へ召喚されてしまう。
散歩中に一瞬で消えたのは、鍵を拾ったことで、この世界の人の概念にない召喚魔法陣が発動したことが原因だ。
シル様は、まっすぐにハルトくんを見て告げる。
「ハルト様。緊急事態ですので、どうか何も言わずに私たちを信じてついてきてくれませんか?」
その口調から、ハルトくんは真剣な顔つきになる。
しばらく悩んでいたけれど、彼は「わかりました」と頷いてくれる。
「エレノア様は、王城の地下にある伝説の王宮にいると思われます」
「伝説の、王宮ですか?」
ハルトくんはシル様の言葉に驚いていた。
いきなり伝説の~とか言われても、こうして信じているのがハルトくんの素直さでありかわいさだわ。
シル様は深刻な顔で話を続ける。
「この城の地下には、ヴァンパイア王が眠っています。1000年前に起こった悲劇がきっかけで、眠りについているのです」
「1000年、ですか」
「ええ、ヴァンパイア王は過去に大切な友人を失っていて、1000年眠り続けました。そこにエレノア様が偶然鍵を拾って召喚されてしまったんです!」
「しょ、召喚?」
ハルトくんの頭に「???」がたくさん見えるような気がする。
それはそうよね。いきなりヴァンパイア王とか召喚とか言われたらそうなるのはわかる。
「ハルトくん、とにかくエレノアは地下にいますということをわかって」
私がそうまとめると、彼は素直に頷いた。
でもその顔はまったくわかっていなさそう。
「あの、エレノア様が鍵?をっていうのは、なぜなのでしょう?」
おおっ、ハルトくんがいい質問をした。
私とシル様は、即座に声を揃えて答える。
「「ご都合主義です」」
「はぃ?」
なんでそこに鍵が落ちていたかって、理由なんてゲームでは明かされなかった。
そこに鍵があってストーリーが始まる、っていう最初の「設定」なのだから、なんでそこに落ちてたのかなんてご都合主義としかいいようがない。
シル様は、メイド服で腕組みをして悩み始める。
「んー、どうやってエレノアの後を追おうかしら?ちなみに、今ってエレノアがいなくなったことは公にされていないのよね?」
ハルトくんは「はい」と答える。
王太子の婚約者が城内で行方不明なんて、どう考えても口外できない。
護衛騎士の恥、王家の醜聞、そんなものに繋がりかねないからだ。
「レオナルド様に謁見した後で、薔薇園に行ってみましょう。公になっていないのなら、立ち入り禁止ではないでしょうし」
シル様の提案に私たちは頷く。
城についた後のことは決定したが、ハルトくんの混乱は継続中だ。
「あの、なぜシルフェミスタ王女が我が国のことをそこまでご存じで?」
その言葉に、私はどきりとする。
前世でゲームを~なんて通用するとは思えない。
しかしシル様はメンタルが強かった。
「ミッドランドの王家には、古文書がございますの。わたくしはそれを読んで、こちらのことを知っていたのです!」
隣国の王女という希少ジョブで押し切った!
作り話でも、シル様の身分と権力でどうにもできる。
ハルトくんは騙されてくれたようで、「なるほど」と小さく呟く。
「確かに、我が国とミッドランドは長い間友好関係が築かれています。あり得るか……」
しかしここで、彼は重要なことに気づく。
「あれ、でもミッドランドって500年くらいの歴史では……?」
どきーんと心臓が跳ねた私は、慌てて窓の外を指差す。
「ほら!ほら!ハルトくん、もう到着するわ!!」
「あ、本当ですね!」
ハルトくんの意識を逸らし、私たちはホッとする。
馬車は通用門を抜け、私たちを城内へと運んでくれた。
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