隠しキャラを思い出す1
ハルトくんから、馬車の中でエレノア失踪事件について話を聞くことに。
「エレノア様が忽然と姿を消したのは、朝の散歩中です」
エレノアは今、レオナルド様の婚約者として王城の離宮に住んでいる。
毎日王太子妃教育を受けていて、成果は上がっているかというと微妙だけれど、本人が打たれ強いので少しずつ前に進んでいるという状況だ。
朝は散歩が日課だそうで、朝食を食べた後に王城の一角にある庭園を散歩していたらしい。
「当然、城内でも護衛はついています。今朝も、三人の護衛騎士を連れていました」
「レオナルド様が、エレノアを一人にさせるわけないものね」
ハルトくんの説明に、私は頷く。
「でも、東の薔薇園を歩いていたとき、強い風が吹いてエレノア様の帽子が飛ばされ、そのときに一瞬だけ護衛の視線が外れたそうです」
今度はシル様が驚いて声を上げた。
「一瞬って、まさかその間に!?」
「そう、聞いています」
そんなことがあるんだろうか?
私とシル様は顔を見合わせる。
「神隠しみたいね」
ぽつりと私は呟く。
ゲーム世界とはいえ、人を一瞬で移動させるような魔法はなかったはずだ。
そんなものがあったら、マティアス様の死亡フラグはもっと簡単に折れたはず!
魔法がまったくないわけじゃないけれど、それは地下から水をくみ上げたり、温かい空気を出して部屋を過ごしやすくしたり、その程度のものである。
それに人体から魔法が放たれるわけじゃなくて、そういう効力のある宝石があって、それを機械に組み込んで使っているだけだ。
いわゆる「魔法使い」がこの世界にいるわけではない。
ところがここで、シル様が「あ」と小さな声を上げる。
一人で考え込んでいた私はパッと隣を見て、何かわかったのかと目で問いかける。
「ねぇ、隠しキャラがいたんじゃない?こっちって」
シル様のいう「こっち」とは、エレノアがヒロインのこのゲーム世界のことだ。
シル様は続編のヒロインだけれど、前世でこっちの世界のシナリオもコンプリートしたとは聞いていた。
「隠しキャラ……」
私は記憶を掘り起こす。
う~んと唸って懸命に思い出そうとするも、ぼやけたキャラデザが思い浮かんだだけだった。
「あ~、何でしたっけ?ヴァンパイア?」
少し長めの黒髪、切れ長の目。俺様タイプのヴァンパイアがいたような。
唸る私を見て、しびれを切らしたシル様が前のめりで私に詰め寄る。
「なんで覚えていないのよ!?あんたの世界でしょう?」
「そんなこと言われても」
「ヴァンパイア王よ、城の地下で1000年眠り続けていた!超絶イケメン!孤独な王」
詰め寄られて、私は反論する。
「だって仕方ないじゃないですか!隠しキャラ出てくるタイミングでは、すでにマティアス様は……!だからもう私にとっては、隠しキャラの攻略なんて全員のNew衣装とスチルを解放するためだけの消化試合だったんですー!」
さすがにハルトくんの前では、ゲームの世界の話でもマティアス様が死ぬということは言えなかった。
「でも、もしかしてそのヴァンパイア王がエレノア失踪と関係があるってことですか…?」
真剣な顔で考える私。
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