賓客は珍客
あっという間に、我が家での茶会の日がやってきた。
使用人達には本当に無理をさせたと思う。
特別ボーナスをと思っていたら、なんとシル様から事前に届けられた菓子の箱に、金の板(巨額紙幣の一種)が忍ばせてあった。
何これ、文化の違い?
んなわけない。
シル様なりの気遣いだろうけれど、悪代官と商人じゃあるまいし……これはお返ししておいた。
そして昼過ぎの定刻、隣国の王女様はそれこそ大名行列か参勤交代かのような状態でうちにやって来た。
ヤンキーでアイドルで転生者でってキャラが混在していて忘れがちだけれど、シル様は間違いなく王女様なのである。
「さすが王族のおでかけですね。馬車三台と騎兵が20人、それにレオナルド様がつけた護衛が10人」
私の隣で、ハルトくんが声を上げる。
ん?
馬車が三台ってなんだろう。
シル様と侍女が載っている馬車と、荷物で二台はわかる。なぜもう一台?
すべての馬車に隣国の紋章があるので、エレノアが突然来たわけではなさそうだ。
「まぁ、エレノアじゃなければ何でもいいわ」
「そうでございますね」
私の呟きに、シアが共感を示す。
しかし、出迎えてみるとその発言が間違っていたことに気づいた。
颯爽と降りてきたその人は、キラキラの笑顔で私の手を取り、甲にキスをする。
「やぁ、フォルレット・オーガスト伯爵夫人。ごきげんはいかがかな?」
最悪です。とは言えない。
「これは……ガジェット様。お、お久しぶりにございます」
聞いてない。
シル様の兄で王太子のガジェット様が来るなんて聞いてない!
黒髪・黒目で健康的に日に焼けたイケメンは、ずっと私の手を握って微笑んでいる。
怖い。
パリピな陽気王子様、怖い。
「妹がこちらに伺うと知り、予定を変更してついてきてしまったよ。あなたの美しさを再び見つめることができて、とてもうれしい」
「ま、まぁ……お褒め預かり光栄ですわ。おほほほほほ」
私が引きつった笑みを浮かべていると、シル様が兄王子の背後から現れて、私たちの手に手刀を落とす。
「お兄様、フォルレットは人妻です。口説くなら別の方にしてくださいませ」
バシッと手を叩かれたガジェット様は、にんまり笑顔で一歩下がった。
「美女を口説くのは万国共通だ、シル。私は平等だから、既婚未婚問わず声をかけるのだよ」
そこに倫理観はないんかいっ!と突っ込みたくなる発言だ。
でも私は華麗にスルーして、シル様たちを邸の中へと案内する。
「ようこそ、オーガスト家へ。ぜひごゆっくりなさってください。ガジェット様、シル様。弟のハルクライトがご案内いたします」
予想外の来客もあったが、私は予定通りハルトくんを紹介して二人をサロンへ案内させる。
やや緊張気味のハルトくんを見て、シル様はカッと目を見開き、そして扇で顔半分を隠した。
どうやら興奮しすぎているらしい。
わかる。
私もマティアス様と初めて会ったとき、目眩がしそうだった……!
二人の初対面をニヤニヤして見守った私は、ひとり満足してサロンへ先導するのだった。
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