ド変態にございます。

温かいハーブティー。

私の隣にはシアが、正面にはハルトくんが座っている。


お茶を淹れていたシアには、軽く説明した。ハルトくんの趣味について……。


「裸体が好きだなんて、変態みたいですよね」


これまでずっと秘密にしてきたからか、ハルトくんはオタバレに目を泳がせている。


気持ちが痛いほどわかる私は、ぐっと拳を握りしめて訴えた。


「大丈夫よ!芸術は誤解されやすいだけ。私たちの愛は、人よりも熱量が高いだけなの。マティアス様だって剣の鍛錬に関してはオタクだし、レオナルド様だってエレノアオタクよ!大丈夫、人は誰しも変態なの」


自信を持ってそう言うと、ハルトくんは目を潤ませていた。


「ねぇ、シア。あなたも最近絵を描き始めたからわかるでしょう?」


シアにも同意を求める。

彼女は近頃、イザルド×ガークのカップリングに心酔しているのだ。


そう、レオリー様の影響でお腐りになられたのだ。


私はそこまで腐に関する情熱はないけれど、マティアスオタクとして「好きなものに懸ける情熱」を否定するつもりはまったくない。


シアも深く頷き、私の言葉に同意した。


「はい。皆、それぞれに推すものがあって当然です。そもそも裸の絵を描くハルクライト様が変態なら、夫の石像まで作っておられる若奥様はド変態にございます」


「「ド変態」」


二人の視線が痛い。


やめて。そんな目で見ないで!!

おのれ、シア。

最近、遠慮がなくなってきたな。


じとっとした目を向けると、キラキラした目を向けて微笑まれる。

親愛の情はあるらしいから許すとしよう。


ハルトくんは温かいお茶を飲むと、一息ついてから話し出した。


「昔、絵を描いていたのを友人に見られてしまって。そのとき笑われたんです。『おまえ、変態だったのか』って言われて……それからは誰にも見られないように隠してきました。でも」


三人部屋に一人きり。

解放的空間で、居眠りして私に絵を見られるという凡ミスをやってしまったわけね。


「まさか義姉様に見つかるとは思いませんでした」


苦笑するハルトくん。

ただ、その顔にもう悲哀はない。


「そのご友人は失礼ね!海や山を描く人がいるように、裸を描く人がいてもいいじゃないの!誰にも迷惑かけてないんだし」


私よりも画力は上な気がする。

芸術以外の何ものでもないハルトくんの絵を否定するなど……!


そういえば前世でも散々友達に言われたなぁ。

この歳でまだそんな絵を描いてるの?アニメとか見てるんだ?って。


自分の時間は自分のもの、何に使おうがこっちの勝手なのに。


「私はハルトくんの情熱をバカにしたりしないわ!」


「さすが義姉上、解釈が寛大です」


ハルトくんは、ははっと軽く笑みを見せる。

しかし、兄や家族にはこれを内緒にしてほしいとお願いされた。


「騎士の沽券にかかわると思うんです。さすがに公にはしたくないといいますか」


わかる。

わかるよ、ハルトくん!


私だってマティアス様に黙ってたもん。


「わかった。誰にも言わない。けれど、マティアス様は私が描いているものも全部ご存知よ?」


「うええええっ!?」


ハルトくんが目を瞠って叫んだ。

だよね、驚くよね。

私もびっくりした。


「恐ろしい。愛って恐ろしいものですね……!」


「ええ、愛はオタクを見逃せるの」


「お、たく?というのですか。私たちは。そうか、オタクという仲間なのですね」


「そうよ。私たちは同士。魂で繋がった仲間よ!」


「フォルレットお義姉様!」


「ハルトくん!!」


私たちはテーブルの上で、がっちりと両手を握り合った。

見た目は美少年なのに、手はゴツゴツしていて男の子だった。意外。このギャップは萌える!!


「そうだわ。今度みんなで温泉にでも行きましょう。マティアス様の筋肉を観察させてもらったらいいわ。そして、それを描いて私に見せて」


シル様の国には温泉があるから、観光ついでに会いに行ったら喜ばれるだろう。


あ、肝心なことを忘れていた!!

あさっての茶会のことを伝えねば。


「ハルトくん!実はうちでお茶会を開くことになったんだけれど……」


私は勢いでハルトくんを丸め込んだ。

シル様が自分を推しているとも知らず、彼は茶会への参加を快く了承してくれた。


ふっ、ちょっと予想外の出来事はあったけれど、無事にシル様とハルトくんを会わせることができそう。


あぁ、私も絵が描きたくなってきた!!


ハルトくんには私の作った画材を後日あげると約束し、互いに神絵師を目指そうということで意気投合するのだった。


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