私にもお友達ができました
数日後、私はこっそり騎士団の演習場にいた。
使用人たちは私のオタバレを優しく受け止めてくれて、「そんなに若旦那様のことがお好きなのですね……!」とむしろ好意的な目で見られている。
異世界の人は、オタバレに耐性でもあるんだろうか。寛容すぎて怖い。
そして、今この場には私を含めて五人の夫人がいた。
「きゃあっ!フォルレット様、マティアス様がおられますよ!」
「どこっ!?」
私は首がもげる勢いで、友人であるレオリー様が指差した方向をガン見した。
「まぁぁぁ!さすがはわたくしの夫、見事にマティアス様と連携を取っていますわ!」
「そうね。なんていう素敵な友情かしら……!」
この友人は、年若い夫人たちが集まるパーティーで知り合った子たちである。
私を筆頭に結成された「夫大好き奥様ギルド」のメンバーだ。
みんな騎士の妻で、5人中4人が政略結婚なのに、夫が好きすぎてこうして訓練をこっそり見学している。
この催しは、夫の勇姿をひたすら眺めるというだけ。とてもクリーンなおでかけだ。
私の隣できゃあきゃあ声を上げるのは、儚げな美女・レオリー様。
マティアス様とよく一緒にいる騎士、イザルド様の妻だ。
「はぁ……それにしても本当に幸せですわ。フォルレット様といると、嘘や建前ばかりで固めなくていいんですもの。社交界で話題になるドレスや宝石、他人のゴシップはもう飽き飽きだったんです。ただ夫を愛でて、盛り上がるこの会がどれほどわたくしの心を慰めてくれるか……!」
うん、私もそれは思ってた。
キラキラした宝石やドレスは好きなんだけれど、素材とか産地とか言われてもねぇ。
そこまで興味はない。
それより、夫がよりかっこよく見える角度とかシチュエーションについて語り合いたいのだ。
夫婦で楽しめるおでかけスポットなどの情報交換も楽しい。
私が今持っている特注オペラグラスを作ろうと言い出したのも、私と並ぶ夫大好き妻のレオリー様だ。
世間の奥様が舞台鑑賞に使う望遠レンズを、私たちは夫を見るために使っている。「家で見られるよね」というご意見は受け付けない。だって、演習場には演習場の夫の魅力があるのだから。
「まぁ、大変!そろそろ訓練が終わりますわ」
「そうね、移動しましょう」
私たちはこっそりと壁沿いに移動し、騎士団の休憩室の付近へ向かう。
あぁ、今日もマティアス様はかっこよかった。ときめきすぎて心筋梗塞になったらどうしてくれよう。
侍女のシアは積極的に私たちを手引きしてくれて、騎士団の施設を熟知している。この時期の見どころは……と、ポイントをよく抑えているからとてもありがたい。
ところが私たちが幸せいっぱいで移動していると、角を曲がったときにまさかの人に見つかった。
「どこにおでかけですか?ご夫人方?」
「ひぃっ!!」
そこには、美しすぎる笑みを浮かべた第一腹黒プリンス・レオナルド様がいた。従者を二人連れていて、近衛も三人いる。
「こ、これはレオナルド様」
私たちは慌てて礼を取る。
なんでこんなところに……と全員冷や汗が止まらない。
別に妻が来ちゃいけないというルールはないし、見学者はたまにいる。(ただし、それは騎士に憧れるこどもたちであり大人ではない)
「あぁ、いいよ。ラクにして」
「はい」
全員がシュバッと顔を上げた。
「早いね。そういうところは好感が持てるよ」
レオナルド様は建て前や対面を取り繕うという、めんどうなことが嫌いな人だ。ラクにしてと言われたのにまだ礼と取っていると、うっとおしいと思われかねない。
「き、今日はどのような……」
思わず私の声が上ずる。
「ふふっ、君たちがいるのが二階の窓から見えたからね。母上が、お茶でもいかがかと」
「それでレオナルド様が直々に来られたんですか!?」
「悪いかい?」
悪いです。できれば会いたくなかったです、とは言えない。
「それはありがとうございます。光栄ですわ~」
「まったく心がこもっていないところが、フォルレット嬢らしいよね」
「おほほほほほほ」
「ははははははは」
乾いた笑い声が秋の空に響く。
「大丈夫だよ。君たちの夫にも声をかけておいたから、すぐに母上の部屋に来るだ」
「行きます。すぐに行きます!」
レオナルド様は苦笑した。
「君たちは清々しいほどに自分の夫にしか興味がないね。めんどうなことが起きなくて何よりだよ」
野心ある妻ならば、レオナルド様のお母上、つまり王妃様に取り入ろうとするだろうな。
でも私たちはそんなことをしない。とてもクリーンで安全な妻たちなのだ。
そしてさらに言うと、レオナルド様にいらぬ誘惑をしかけてくることもない。
いくらエレノアと婚約したからといって、王太子となった彼をどうにか誘惑しようとする令嬢は多いのだ。
「では、後のことはここにいるディオに」
「「「「「「はい!」」」」」
マントを翻して颯爽と去っていくレオナルド様。
その姿は間違いなくメインヒーローにふさわしいかっこよさなのだが……
「さぁ、早く王妃様のところへ参りましょう!」
私たちに彼の魅了は効かない。
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