5.(終)

「来たぞ!!!」

作戦室の一同にブラックドラゴン来襲の知らせが入った。


「いよいよだな」

マルスはレオ、そしてサジタに決意の視線を送る。

ドラゴンの元へ向かう3人に もはや言葉は不要であった。


国王ポールとカシオは作戦室に残り報告を待つ。

カストルはサジタを呼び出した日以来、重責に耐えかねているのか姿を見せていなかった。



城の西側で騎士団をはじめ多くの兵がドラゴンの足止めをしていた。

そこへ駆けつけたマルスの一行はあらためてブラックドラゴンの放つ禍々しいオーラに圧倒されていた。


「うぬ、たしかにただのドラゴンとは違うな。

 勇者殿、やれるか!?」

「ああ、なんも問題ねえべさ」

レオの熱心な指導のおかげで、サジタには微塵も不安はなかった。


「頼みます」

深々と頭を下げるレオはサジタの顔を見ることができない。


そのとき後ろからひとりの青年が声をかけた。

「サジタさん、ボクも応援しています」

カストルが危険な戦場に姿を現したのだ。

自分のしてしまったことから目を背けてはいけない。

カストルは一部始終を見届け、それを一生背負って生きていく覚悟であった。


「おっ、お前ぇも来たのか。

 よーく見てろよ、あんなの一発で仕留めてやるさ」

サジタはドラゴンを見据え、ドラゴン退治の剣をさやから抜いて構えた。


「あ、そうだ。

 あんちゃん、おいらアレからずーっと考えてたんだけんどよ、

 ほれ、あの サンダーなんとかっての。

 ああいう掛け声があったらよかんべと思ってな」

サジタはドラゴン退治の剣をまっすぐ上に掲げながら叫んだ。


「スーパーストロング リトアタック~!!

 な、雰囲気出るべ!?」


レオとカストルは目を丸くしたまま顔を見合わせた。

誰かが「勇者リト」についてサジタに教えたのか?

レオは無言のまま首を横に振った。


「あ、リトってのは ウチで飼ってるべこ(牛)の名前ぇだ。

 ほれ、剣のここんところの模様がべこの顔みてぇだろ?

 こいつは リトの剣 だな」


レオとカストルは呼吸が止まっていた。



「んだば、ちゃちゃっと済ませてくっから。

 待ってろ!」

サジタはブラックドラゴンの元へ駆けていった。


呼吸を取り戻したカストルは口を開けたままのレオを揺さぶった。

「ちょちょちょちょちょちょ、ちょっと待ってください!」


「もしかしたら、神様がよこした異界の住人というのは、

 数百年前の 勇者リト本人だったのかもしれません!!!!」

「な、なんだってぇ~~~、

 あんなのが勇者リトだってのか?」

かけはなれたイメージに衝撃を受けるレオ。


しかしカストルは重要なことに気が付いていた。

「もし、彼がドラゴンを倒して死んでしまったら・・・・

 勇者リトの子孫は生まれないことになってしまいます」

「へ? 子孫って、オレは?」

レオはまだピンと来ていない。


「あなたも、あなたのお父さまも、ここで勇者リトが死んでしまったらいるハズがないんです」

「じゃあ、オレはどうなるんだ?」

「まったくわかりません。

 もしかしたら存在が消えてしまうのかも!!」

「き、消えるって、ちょ・・・・

 サジタが死んでオレも消えたら なんにも意味がないじゃないか!!」

パニック状態の二人はあわててサジタを呼び止めたが、騒然とした戦場でその声はかき消されてしまった。


「ちくしょう、はじめからオレが行けば・・・!」

レオはサジタの後を走って追いかけた。


「でっけえな・・・

 黒いドラゴン!

 これ以上畑を荒らすんでねぇぞ!」

サジタはドラゴン退治の剣を構え、技を繰り出す態勢に入った。


「くっ・・、間に合わない!」

レオはサジタに何か合図を送る手段を考えた。



「スーパーストロング リトアタック~!」

「サンダーストーム!! 弱!!」


両者の掛け声はほぼ同時であった。



「うぎゃっ!」

小さな雷撃に包まれ、黒こげになったサジタはその場に倒れた。


しかし、サジタの放った斬撃は既にブラックドラゴンの心臓を貫いていた。


「ギャアォォォォ・・・・・」


走り寄るレオの眼前でブラックドラゴンの巨体はゆっくりと沈んでいった。



「サジタさん!!

 逃げましょう!!」

黒こげのサジタを背負ってドラゴンの亡骸に背を向けるレオの足元に黒い霧が立ち込めた。

「あ、あんちゃん。 いってぇ どうなってんだ?」

電撃を加えたレオに背負われ状況がつかめないサジタ。


そのとき二人の目の前に鈍い光を放つ刃が現れ行く手をふさいだ。

ふりかえると黒いローブに身を包んだガイコツが立っている。手に持っているのは巨大な鎌であった。


「死神・・・か」

レオだけがすべての事情を把握していた。

死神から発せられる黒いオーラは霧のように足元に立ち込め、レオの動きを封じていた。

逃げることはできない。



『ドラゴンを殺した者の魂を持ちかえる約束だ』

死神が二人に話かける。


『殺したのは背中の黒こげの方だな』

サジタはさきほどの死神のセリフでおおよその事情は理解した。

自分の魂がとられようとしている。

しかし、レオがそのことを承知していたとまでは思わなかった。


「お前ぇだけでも逃げろ・・・」

死神がどうやって魂を奪うのかは分からなかったが、ドラゴンを殺していないレオが巻き添えになることは避けたかった。

しかし、レオは黒い霧のせいで身動きがとれない。


死神は身に着けたローブの袖口から銀色の小さな板を取り出した。

そして、骨になった指先で板の表面を何やらこすり始めた。


『んー、お前の名はサジタだな』

銀の板から顔を上げると、目があったハズの空洞をサジタの方へ向けた。


『んん? 何だこれは?』

死神は思わず銀の板を二度見した。

サジタと銀の板を交互に見くらべ、首をひねっている。



『どうしたことだ、そちらの黒こげはとうの昔に死んでいることになっているな?』

死神は魂の管理帳でも見ていたのだろうか。

サジタが勇者リト本人であればたしかに数百年前に死んでいるハズである。


『なんかバグってんのかな? 』

ガイコツは焦った様子で銀の板を骨の指先でつつきまくっている。

黒い霧はいつのまにか消えてしまった。



『・・・・・おほん。

 既に魂が刈り取られている記録がある以上、むやみに奪い取るような真似はできない。

 騒がせてしまったな』

ガイコツなので表情はわからないが、少し恥ずかしげな口調で結論だけ述べた死神は、空中に紫の煙の壁を呼び寄せると、その中へ入っていった。




「・・・・」

「助かった・・・のか?」


「ぎゃっはっはっは!!!!」

茫然とする二人はやがて顔を見合わせて大爆笑した。


特にレオはサジタの頭部を指さして腹をかかえている。




サジタの頭髪はレオの電撃でチリチリパーマになっていたのだ。



勇者リト伝説の始まりである。





--- END -----

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勇者は来ないと思っていたのに 鈴木KAZ @kazsuz

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