3.

「こちらです」

カストルはちらかった研究室に、騎士団長マルス、宰相カシオ、勇者レオ、そして国王ポールを招き入れた。

部屋の正面の壁から少し離れた手前にはピンク色のドアが据えつけてある。


「なんじゃこのドアは?」

興味深々の国王はドアの表裏をきょろきょろと見回しながらたずねた。


「ドアそのものはどこにでもあるものでして、

 こちらから入ればそのまま向こうに抜けてしまいます。

 しかし、このドアに特別な術式を施すことで、異界とつながることができるのです」

「どこにでもあるドア、じゃな」

国王はなにかを納得したようにうなずいた。


「さっそくだが、やってくれるか」

カシオは覚悟を決めた表情でカストルをうながした。


「わかりました・・・」

カストルは呼吸を整えると奇妙なインク壺を持ち、羽飾りのついたペンでドアに魔方陣のような模様を書き始めた。

そして模様の内部には見たことのない文字で手紙のような長文を書き連ねていく。


「何と書いてあるのじゃ?」

「王、ご静粛に」

マルスに止められ、国王ポールはくちをとがらせながら一番奥へ退いた。


「ふぅー、できました。

 あとは祈るだけです。うまくいけばこちらのドアが開いて異国の住人が現れるはずです。

 神が聞き入れてくれたら の話ですが」

「気が進まぬと思うが、しっかり頼むぞ」

「神との約束事です、小細工はできません」

カストルが意にそぐわない行動をとることをカシオは警戒していたが、任せるほかなかった。


カストルは胸の前で手を組み、ひざまづいて呪文を唱え続けた。

他の者たちも誰からとなく同じようにひざをつき、事の成り行きを見守っている。

国王だけは立ったまま小袋からとり出したアメをぱくりと口に放り込んだ。





「ガチャッ」

ドアノブが動く音にカストルは電気が走ったように驚き、顔を上げた。

「ま、、、、まさか・・・」

少しだけ開いたドアの隙間から強い光が漏れ出す。



「ばたんっ!!

 おーーっす!!!

 お、なんだ? みんな深刻な顔しやがって!!!

 わっはっは!」

いきおいよく開いたドアから 田舎くさい若者が飛び出してきた。


「うぷっ!」

おどろいた国王の口から飛び出したアメはとなりでしゃがんでいたマルスのパンチパーマの中へ消えた。




「お前ぇがオラのこと呼んだのか?」

若者はボサボサの髪をかきむしりながらしゃがんでカストルの顔をじっと見つめた。


「は、、はい。

 わたくしカストルと申します。

 このたびは・・・なんと言うか・・・」

「さっき聞こえた声とちょっと違ぇな。

 オラは サジタってんだ。

 よろしくな!!」

サジタは目にいっぱいの涙を浮かべたカストルの手を握り立ち上がった。

カストルは顔を伏せ、両手でサジタの手をつよく握りしめた。何も言葉が出てこない。



「勇者様、くわしくは私から話させていただこう。

 カストル、ご苦労であった」

カシオはカストルの背中を軽くたたいて場所を代わった。


そのまま顔を上げることなくふらふらと研究室を出て行くカストルを横目に、サジタは笑いながらカシオに尋ねた。

「勇者ぁ? それってオラのことか?

 そんなカッコいいもんじゃねぇって!

 わっはっは。

 何か頼みごとがあんだろ?」

 

カシオはサジタにドラゴン討伐を依頼した。

当然のことながら呪いについてはいっさい口にしなかった。


「ドラゴン退治かあ

 アレはいくら殴っても効かねえからなぁ・・」

「な、殴るですと?」

「ああ おらの畑にイノシシさやって来んだけんどな、それを食いにたまにドラゴンが飛んで来やがんだ。

 あれがくると火ぃ吹いたりして畑がえらいことさなるんだわ。

 だもんでボコボコに殴って追い返すんだ。

 がっはっは!

 まあ追い返しただけだとまた来ちまうんだけどな。

 アレをやっつけるってのは難しいぞぉ~」


「実はドラゴン退治の剣というものがありましてな」

 カシオが目で合図をすると、レオはいつも背中にしょっている勇者リトの剣を手に持ち、サジタに手渡した。

 レオが勇者の血をひく者であることは秘密である。勇者リトの剣も「ドラゴン退治の剣」と呼ぶことになっている。


「ほえー

 こんなかっこいい剣さはじめて見ただ!」

さやから抜いた剣をなめるように見た後、サジタは剣を軽く振ってみた。


「ぶんっ

 ドカッ!!」

剣から発せられた斬撃が国王ポールの顔面に直撃した


「お、王っ!?」

「い、痛い」

「で、ででで、でえじょうぶか!??

 何か出てきたぞ、この剣!?」

あわてふためくマルスとサジタにレオは驚きながらも冷静に解説した。

「このドラゴン退治の剣は普通の剣ではありません。

 特別な者が使えば魔法のように剣の威力を飛ばすことができるのです」

「ふぇ~~

 あのじいさん大丈夫だか?」

「大丈夫です。この魔法の力は人間には大して効果がありません。

 ですがドラゴン相手であれば絶大な威力を発揮するのです」

「あ、、アメを・・」

不慮の事故であることを理解し、怒ることなく痛みを甘さでガマンするポールはやはり王の器の持ち主と言えよう。


「いきなりドラゴン退治の剣を使いこなすとは・・・

 やはりそなたは勇者の素質があるのじゃな」

カシオは王に目もくれずひたすら感心していた。


「私から教えることは少ないかもしれませんが、

 ドラゴン退治の前に城の近くにいるモンスターを相手に練習いたしましょう」

レオは異界の勇者の指南役を引き受けていた。

サジタがドラゴンを倒せなければそもそもこの計画は無意味なものになってしまう。

ドラゴン討伐を実行するかどうかを見極めるのはレオの役目なのだ。

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