2.
「あ、どうも。よろしくお願いします」
正式な挨拶など知らない青年は王を前にしてとりあえず深々と頭をさげた。
作戦室に呼ばれたのは召喚士のカストルであった。
「まあ、こちらに座りなされ」
カシオにうながされ作戦テーブルの端に座らされたカストルはそうそうたる面々の視線に耐えられず持ちこんだ研究ノートの表紙をじっと見つめていた。
カシオはさっそく本題に入る。
「お主の研究に王がとても興味をお持ちになられてな」
「え! ワシが?」
「王はお静かに」
マルスに口を封じられた王はとりあえず焼き菓子に手をのばした。
「なんでも異界の住人を呼び寄せることができるそうじゃな」
「あ、、はい!!」
カストルは鼻息を荒くしながらノートをパラパラとめくりはじめた。
「勇者を呼ぶことはできるか?」
「ゆ・・・勇者、ですか??」
ノートをめくる手を止め顔をあげると、全員の刺さるような視線がカストルを襲った。
「勇者・・・というのは職業ではありません。
どのような条件か、もうちょっと明確にしないと・・」
「ドラゴンを倒せる者だ」
身を乗り出したマルスとそのパンチパーマの迫力にカストルは圧倒された。
「ドラゴンですか・・・。
ボクらの世界に近いところになりますね。
他に条件はありますか?」
カシオは眼をとじて一考した後答えた。
「うむ・・、なるべく若い者がいいじゃろうな」
「未亡人を増やすのはつらいからのぅ」
「王! 黙って!!」
マルスに怒鳴られイスから数センチ飛びあがった王は震える手でティーカップを持ち上げた。
「未亡人?? どういうことです?」
目を丸くしているカストルのとなりで目をつむり腕を組んでいた勇者レオは、立ち上がりあきらめたように声を出した。
「やはり彼にも全て話すしかないでしょう。
国のためです。 罪もかぶってもらうしかない」
「つ、つつつ罪ぃ??」
ノートを抱きかかえ、カストルはきょろきょろと皆の顔を見回した。
「ワシから話そう」
カシオは無念の表情で、ブラックドラゴンの呪いについて、そして犠牲となる者を選ばなければならないことについて語った。
「ボクの呼び出した勇者が犠牲になる、ということですね。
妻や子供のいる者は避けたい、と」
カストルはすぐに理解した。
「わかりました。やってみましょう」
意外にあっさりと承諾したカストルは自身の研究について語りだした。
「異界の住人を呼び出すといっても、強制的に誰かを引っ張り込むのではありません。
簡単に言うと、ポアソンという神様に友人を紹介してもらう、ということです。
自分は異界の見聞を広めたいと願い、神様と契約を結ぶことで過去に幾人かの友人と出会うことができました。
今回のような思惑があれば 神様はそれもきっとお見通しのはずです。
勇者を連れてきて来てくれるかどうかは神様次第です」
マルスは計画が神頼みになってしまったことで、天を仰ぎ大きくため息をついた。
「まあ、そのときはそのときです」
勇者レオは頭を掻きむしりながらマルスの方へ向き直った。
「もしダメだったらやっぱりオレが行きます。
勇者を名乗る以上、本当ならオレが戦うべきなんだ。
でなきゃ伝説の勇者リトに向ける顔がない」
国王ポールが治めるこのカレイド王国はその国の発祥に勇者リトの活躍があったという伝説が残されている。
勇者リトの子孫は代々勇者としてこの国を守ってきた。レオもその血を引いているのだ。
ドラゴン退治は家業であり使命でもある。
カストルが作戦室に来るときまで、異界の者にドラゴン退治をさせると聞かされたレオがどれだけ抵抗したかは疲れ切ったマルスの顔が物語っていた。
「異界の者に この勇者リトの剣が使えるのか・・?」
レオは背中から剣を抜き、輝く刀身をじっと見つめた。
先祖代々受け継がれてきた家宝とも言える剣である。
「スーパーストロング リトアタック、じゃな」
「え、、ええ・・・」
国王は焼き菓子の粉を口からこぼしながら真剣な表情でつぶやいた。
勇者リトの剣を操る者がドラゴンとの戦いで繰り出す技の名前である。
このクソダサい技名を律儀に使っているのは国王くらいであった。
レオの中ではこの名前はなかったことになっている。
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