勇者は来ないと思っていたのに

鈴木KAZ

1.

「何? 死神と契約した?」

騎士団長マルスは部下をにらみつけた。


「間者(スパイ)の入手した情報によると、

 アルタイル国の魔道士ホークアイは魔術により死神と契約することに成功した模様。

 死神の呪いが封じ込められた敵を殺すと、殺した者が道連れになるという恐ろしい話でございます」

「報告に私見は不要だ。事実だけを述べよ。

 要は相討ちになるということだな。

 呪いがかかった敵の数はわかっておらんのか?」

「ブラックドラゴンにその呪いが封じ込められたという報告があります。

 他にはございません」

「竜か・・・、相応の戦力を差し出せということだな」

マルスは作戦室の壁にかけられた地図に向かいながら眉間に深いシワを寄せた。


「相応の戦力とはどういうことじゃ?」

国王ポールは革張りの大きなイスに小さな老体をしずませ、焼き菓子をほうばりながら議論に首をつっこむ。


「必ず相討ちになるということは、こちらの兵士を1人失うということにございます。

 犠牲となる者を選び出さなければなりませぬ。

 もし戦力を惜しみ下級兵士をドラゴン討伐に充てれば相手を倒すこともできずに兵を失います。

 ドラゴンを倒せるような強者を選び出し、そして必ずその者を失うという苦渋の選択が必要になるのです」

「それは恐ろしい話じゃな」

さきほど報告をした部下はチラリと王を見た。


「ドラゴン退治となれば勇者レオが適任でありましょう。

 しかし彼を失うことなど到底受け入れられることではありませぬ」

マルスは作戦室を端から端までじろりと見まわしたが、ほとんどの者はうつむいて目を合わせようとしなかった。


「ワシに少し考えがある。

 召喚士を連れてまいりましょう」

アゴの長い白ひげをさすりながら立ち上がったのは宰相カシオだ。


「おまちください。

 ドラゴンに対抗できるほどの召喚獣を呼べる者など我が国には・・・」

マルスが困惑した様子で呼び止めると、

カシオはアゴに手をあてたまま振り向いた。


「面白い研究をしている者がおるのじゃ。

 それよりマルスよ、勇者レオをこちらに呼んでくれ」

「ゆ、勇者ですか・・・?

 彼を犠牲にはできませぬぞ」

「わかっておる」

手を振りながらよろよろと作戦室を出ていくカシオの姿を横目に、王はこう切り出した。


「召喚獣・・・前々から近くで見てみたいと言っておったハズじゃが・・」

「危険です。城からご覧くだされ」

マルスにいさめられた王は とがらせた口で紅茶をすすりながらくるりとイスを回した。


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