7月26日
アヤは今日は髪の毛を下ろしていた。今日もアヤと沢山お話しをした。その間、なんでこんなに肌が白くてきれいなんだろうとか、下ろした紙がつやつやだなとか、そんなことを考えたりしていた。あと、アヤのピアノは本当に上手かった。といっても、実際に弾いているところを見たわけわけではなく、コンクールの映像を見せてもらっただけだけど。ドレスは誰よりも似合っていたし、ピアノの音色は、誰もが魅了されるものだった。
「今度は、いつコンクールがあるの?ぜひ聞きに行きたいな。」
「んー...。聞きたい...?」
「うん。なんかアヤのピアノは、元気が出るってゆうか、見惚れてしまうというか...。」
ここまで言って、恥ずかしくなってしまった。
「あっいや、なんでもないんだ。いや、でも本当に素敵な音色で...。」
「そこまで言われちゃったら弾くしかないね。...実はピアノはもうやめたんだ。でも、特別に弾いてあげる。」
ピアノを、やめた...?
「何弾いてほしい?作曲だってできちゃうよ。」
アヤは得意げにそういった。
蝉が鳴いた。
僕は、アヤが「夏の音がするね。」と言うと思ったが、言わなかった。アヤは、僕の視線のほうに目をやり、代わりにこう言った。
「蝉はさ、幼虫でいる時間は長いのに、鳴いている一番輝かしい時間は短いよね。」
「やっぱり、鳴くのはエネルギーが必要なのかな。」
「そう。ホタルも同じだよ。輝いていられる時間は短い。」
アヤがこんなに真剣な表情をしたのは始めてだったから、次になんと言えば良いのかわからなかった。
「でも、他の生き物よりずっと美しいし、人を喜ばせることが出来ているんだから立派だよ。」
瞬時に選び抜いた言葉だったが、なんだか、アヤに対して言っている気持ちになった。
「そうだね。」
アヤは微笑んだ。髪に隠れて良く見えなかったが、やはり美しかった。
今日はやたらとアヤと目が合った。意識しすぎなのかもしれないが、話すときにはよく僕の口元を見た。真剣に話を聞いてくれる素敵な子だと思ったが、少しむずむずした。
今日も、また会う約束をした。今回は僕から誘ったのだが、アヤは少し不安そうな顔をみせた。たまにするアヤのこの表情には、どんな思いが込められているのだろうと毎回悩んだ。今回は、”別れるのが寂しい”ということにしておいた。
僕は、綵が寂しいのだと勝手に思い込んでいました。僕が一緒にいてあげよう、とまで考えていました。もちろんそれはただの誤魔化しです。綵と会えなくなるのが嫌でした。この夏が終わるのが嫌でした。
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