第6話「心の距離」
「んで、結局アンタはどうしたいわけ?」
「えっと、陽真君との距離が遠くなった気がするから、もっと近づきたくて……」
私は同じクラスの
「それはさっき聞いた。私は別にアンタ達そんなに遠くないように感じるわよ? 同じ部活で普通に頻繁に会ってるし、帰りも一緒に歩いて帰ってんでしょ?」
「物理的な距離じゃなくて、えっと……心の問題というか……」
「はぁ? 何それ? 曖昧過ぎるわよ……」
哀香ちゃんは普段通りの少し乱暴な口調で話すけど、私の相談を真剣に受けてくれている。優しい。臆病で引っ込み思案な私を、彼女はいつもグイグイと引っ張ってくれる。哀香ちゃんが一緒じゃないと、私は購買の焼きそばパンを買えない。
「心の距離ねぇ~」
哀香ちゃんはぽりぽりと頭を掻く。今まで彼女には、陽真君との関係のことで何度も相談をしている。以前はお互いが暇な時に行ける陽真君とのお出かけに、着るべき服を選んでもらった。
彼女は「デートじゃん」と言っていたけど、私達は恋人として付き合ってるわけではない。
スポーツをする人(もっと具体的に言うと、陸上部などで走る人。つまり陽真君)の体に健康的な料理のレシピを教えてもらったりもしたなぁ。私は料理に自信はないから。
とにかく、私は陽真君に関することで悩む度に、哀香ちゃんに相談していた。でも、流石の彼女も、今回ばかりは具体的なアドバイスができないみたい。
「うーん……。あっ、いいところに! レンタカー!」
「ブーン、って、誰がレンタカーだ! あ、ちょっと哀香!」
緑髪の男の子が、哀香ちゃんの横を他人顔で通っていこうとした。車の真似をしながら。案外ノリノリだった。哀香ちゃんは彼の制服の袖を引っ張り、無理やりこちらへ近づけた。
「引っ張らないでよ……」
「丁度いい、ちょっと相談したいことがあるの」
彼の名前は
陽真君が忙しい時は、私は哀香ちゃんと蓮君の三人でよく一緒に行動している。蓮君に陽真君との関係について相談することも、たまにある。
「何? また陽真君についての相談?」
「そう、レンタカーも協力してちょうだい」
「レンタカー言うな!」
私は彼のことを「蓮君」と呼ぶけど、哀香ちゃんはよくふざけて「レンタカー」と呼ぶ。ずいぶんと仲が深いみたいだ。二人は中学生の頃からの幼なじみだから。
でも、小学生の頃からの幼なじみである私と陽真君は、目の前の二人のような距離感がまるで感じられない。哀香ちゃんと蓮君のように、私も陽真君とじゃれ合いたいな……。
「うーん、心の距離が遠くなった気がする、ねぇ……」
「具体的な策はないわけ?」
蓮君も相談に加わり、三人で唸る。改めて陽真君と更に心の距離を近づけるには、どうしたらよいのだろう。どれだけ考えても、良いアイデアが思い浮かばない。陽真君というとてつもない人気者を相手にしているのだから尚更だ。
『うーん……』
そう、陽真君は高校生になって、誰もが認めるほどの超絶イケメン男子に育った。私の背丈を遥かに追い越して、相変わらず運動神経抜群、成績優秀な完璧超人に成り果てた。学校では女の子達にモテモテで、キャーキャーと黄色い声を浴びる生活を送っている。
幼なじみだからという理由で、陽真君は今も私と接してくれる。だけど、メガネをかけた芋臭い私は、彼のファンである女の子達から、時に冷たい視線を浴びせられる。こんなパッとしない女の子が、陽真君の幼なじみでごめんなさい……。
ダメだ。どうしても後ろ向きな考えしか浮かばない。
「とりあえず、ゆっくり話をしてみるとか」
「お話聞いてくれるかなぁ?」
「うーん……心の距離……うーん……」
私達は相談内容が意味不明過ぎることに、今更頭を悩ませる。何? 心の距離を近づけたいって。一体何が言いたいのよ、私……。
「心とは一体何か……」
「哲学……」
「バカロレア……」
「馬鹿……馬と鹿……。一生に一度でいいから馬に乗ってみたいわね」
「乗れたらカッコいいよね」
二人が謎の会話を始める。時間が刻一刻と過ぎていくだけで、明確な解決策が見つからない。そもそも、私は陽真君に何がしたいのか。二人の無駄話も終わって、沈黙がしばらく続いた後、ふと哀香ちゃんが口を開いた。
「あっ! こういうのはどう?」
凛奈が誰もいなくなった放課後の教室に、陽真を呼び出す
↓
その場で凛奈が制服を脱いd……
「ちょっと待って! 凛奈に何させてるんだよ!」
「ちょっと! まだ途中なんだから黙ってなさい! レンタカー!」
「レンタカー言うな!」
「続けるわね」
その場で凛奈が制服を脱いで下着姿になる
↓
陽真が凛奈のパンツやブラジャーに興奮し、彼女に襲いかかる
↓
二人だけの放課後の居残り学習(意味深)が始まる
↓
既成事実ができて二人は結ばれる
「はい! これで二人は心も体もゼロ距離になってハッピーエンド!」
哀香ちゃんのハチャメチャな考えに、私は思わず赤面する。陽真君に下着姿を見られる様を想像すると、とてつもなく恥ずかしい。小学生の頃にお泊まり会で、彼と一緒にお風呂に入ったりもしたけど、今の私達は高校生だ。ドキドキして心臓が爆発してしまう。
「あのねぇ……」
蓮君はもちろん呆れ顔だ。彼が常識的な性格で良かった。思考も行動も暴走する哀香ちゃんに、いつもつっこんだり制止したりしている。
「大丈夫よ。男なんてパンツとか見せとけば、狼になって襲ってくるに決まってるわ。この際体の関係をつくってしまえばいいのよ!」
哀香ちゃんが私を指差しながら、自信満々に告げる。体の関係というのは、その……えっちな……アレで……///
「凛奈はナイスバディなんだから、それを生かさなきゃ」
「ひうっ……///」
哀香ちゃんは大きく膨らんだ私の胸を指差す。確かに、クラスメイトの女の子達から胸が大きいことを羨ましがられるけど、毎日肩が凝るだけで特に良いことはない。男の子には変な目で見られるし。
陽真君は……どう思ってるのかな……。
「その巨乳があれば、どうせ陽真も落ちるわよ! さっさとヤって結ばれちゃいなさい♪」
哀香ちゃんが他人事のように言う。でも、もうそこまでしないと陽真君との距離は取り戻せないのだろうか。だったらやるしかないのかな。高校生だからって、恥ずかしがってたら手遅れになっちゃうかも。
いつも「私なんか……」なんて思うから、今のようにどんどん距離が遠くなっていくんだ。陽真君の人気は想像以上で、地球上の女の子全員がライバルと言っても過言ではない。誰かに取られるのも時間の問題だろう。
「凛奈?」
もう陽真君を誘惑するしか道はない。恥ずかしいけど、やらないと陽真君にふさわしい女にはなれない。今日の下着、何色だったかな……可愛いの着てきたっけ……。
「お~い、凛奈~?」
「は、恥ずかしいけど……陽真君になら、その……パ、パンツ……見られてもいいから……///」
私は更にその様を想像してしまい、頭から湯気が出る。恥ずかしさがこみ上げ、頬が真っ赤に染まって涙目になる。見られてもいないのに、両手で制服のスカートを押さえる。私が陽真君と……え、えっちなことを……うぅぅ……///
「凛奈……」
哀香ちゃんが私の肩に手を乗せて言う。
「分からない? 冗談よ……?」
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