目覚めてそして2
「ユーナ、大丈夫か。気分はどうだ」
「ユーナ、まだ体を起こしてはいけませんよ」
「そうだ、まだ寝ていなさい。眩暈がするだろう」
精霊王とギルがユーナに寝ている様言っているのに、ユーナは半分意識が飛んでいる様な顔で体を起こしてからふらりと倒れ込んだ。
「ほら、だから言ったというのに」
慌てててユーナの体を抱き止め、青白い顔をしたユーナを寝かせる。
「ヴィオさん? ああ、あれは夢だったんですね」
精霊王が作った草のベッドに横たわったユーナは、ぽろりと涙をこぼした。
「どうしたユーナ」
「……なんだか世界が回っている感じがします」
泣いていると気が付いていないのか、ユーナは涙を拭う事もせずにぼんやりとした顔で呟く。
これ、大丈夫なのか?
「ユーナ、私達の言葉が聞こえますか」
「……はい、聞こえています。ここは精霊の国ですか?」
「そうだよ。ユーナは魔素を短時間で大量に吸い過ぎて魔素酔いになって意識を失ったんだ。迷宮で倒れたらしいが覚えているか」
精霊王の声にユーナは顔を動かし俺達の方を向く。
その顔が悲しそうに見えるのは涙のせいなんだろうか。
「倒れた。覚えて……そういえば沢山魔物を狩って……あれ、私その後どうしたんでしたっけ?」
「熱を出して立っていられなくなったんだよ」
「熱、ですか? 熱、熱?」
まだ魔素酔いの状態が若干続いているんだろうか、ユーナの話し方が少しぼんやりとしている気がする。
「ユーナ、ポポ魔素吸う?」
「魔素?」
「そうだな、もう少し魔素を吸いだした方がいいかもしれない」
「ユーナ、じっとしてて」
ぼんやりしているユーナの額にポポは自分の額を近づけると、また光がポポを包み込み始める。
「何かが出てく。ポポちゃん」
「ユーナ、魔素いっぱい、魔素沢山いっぱい」
「沢山? いっぱい?」
「ユーナ、ポポに魔力を渡す時の様に出来ますか」
「ポポちゃんに魔力を、はい」
ぼんやりとした声でユーナはギルの言う通りに魔力をポポに渡し始めたのか、ポポを包む光が強くなってきた。
「ユーナ、ポポお腹いっぱい。もう無理、もう魔力も魔素も無理だよぉ」
そう言うとポポはころりとユーナの体の上から転げ落ち、草のベッドからも落ちてしまった。
「ポポっ」
転げ落ちたポポは何て言うかまんまると一回り大きくなってしまった様に見える。
両手で持ち上げると、やっぱり少し大きく感じる。
ふわふわの羽がさらにふわふわのもこもこになってしまった。
「精霊王、ポポはまた魔力を使った方がいいのか」
「そうだな。ポポこちらにおいで」
「はぁいいぃ」
なんだかポポは重そうに、ふらりふらりと精霊王のところに飛んで行った。
魔素を吸い過ぎて体が重くなるなんてあるんだろうか、本当に重そうだ。
「ふむ、ギルは先程魔素を魔力を渡す時の様にという意味で言ったのだと思うが、ユーナは魔力を渡してしまったようだな」
「魔力と魔素でいっぱいぃ」
両手でポポを掴み精霊王はじぃっとポポを見ながら笑う。
精霊王の手の中でもポポは淡い光に包まれたままだ。
「この光はポポの魔力の器を超えた魔力が放出されているものだ。ユーナ、覚えておきなさい。これは魔力を与えすぎの状態だ」
「与えすぎ」
何となくユーナはまだぼんやりしている感じだ。
魔素酔いが原因で何か病気になったとかじゃないんだろうか、それとも俺みたいに酩酊になっているのか?
「ポポ、体内の魔素を魔力に変えられるか」
「ポポ出来るよぉ」
「では魔素を全部魔力に変えて、清めの雫をユーナに使いなさい」
清めの雫っていうのは精霊魔法か? 俺の知らない魔法だ。
浄化の光を状態回復魔法として覚えていた筈だが、それではなく清めの雫というのを使うのか。
ポポは羽をふるふると震わせながら、小さな目をぎゅうっと瞑る。
「清めの雫というのは」
「状態異常の回復ですね、穢れも払えます。人族の魔法で言えば聖属性の魔法の様な扱いですね。中級魔法程度の難しさでしょうか。最初ポポが覚えていた浄化の光が下級魔法ですからその上になりますね」
精霊王ではなく、ギルが説明してくれる。
下位精霊として生まれたばかりのポポが中級魔法が使える様になったのかと思うと感慨深いものがあるな。
「ポポはユーナを守ると約束したから強くなろうとしたそうです。最終契約は精霊の強い思いが能力を授けると言われています。ポポは攻撃には適していないというのにポポはユーナを守りたいという強い思いで攻撃魔法を覚えてしまいました。ポポの格ではまだ清めの雫も覚えられない筈ですが、ポポはそれも覚えてしまった様ですね」
「ポポの強い思い」
ギルがさっき魔素を消費するためにポポを連れてトレントのところに行っていた、その時にでも聞いたんだろう。
ポポが、攻撃魔法を覚えた経緯を教えてくれた。
ポポのユーナを守るという強い思い。そう言われて思い出すのは、ポポを精霊王に預ける前のユーナだ。
俺がユーナの前で初めて魔物寄せの香を使い、大量のトレントを狩った。
トレントキングを呼び出せるぐらいまで、トレントを狩り続けたせいでユーナは驚いて泣き出したんだ。
「そうか、ポポはユーナを守る為に」
あんなに小さくて弱々しかったポポが、ユーナを守る為に攻撃魔法を覚えた。
ユーナは弱そうに見えて実はそうじゃないから、大人しく守られていられてはいないだろうが、それでもポポのその気持ちをユーナは嬉しく思うだろう。
「詠唱も申し分ない様ですね」
ポポが何か呟いているが、俺にははっきりした言葉が聞こえない。
だがギルにはポポが何を言っているか分かるようだった。
「……ユーナ? 大丈夫?」
「ううん、少し弱かった様だね。ポポもう一度。その後癒しの風もだ」
「わかったヨ」
一度の清めの雫だけでは足りなかったのか、それともポポの魔法の威力が低いのか分からないが精霊王はもう一度ポポに清めの雫を使わせ、その後に癒しの風まで使わせた。
魔素酔いの状態だった時は魔法や回復薬では駄目だと言っていたのに、今度は魔法が大丈夫というのは理由が分からない。
ユーナが吸い過ぎた魔素はもう体から抜けていると言う事なんだろうか。
「……あれ?」
「ポポ、それでは清めの雫の威力が弱い。もう一度だ、それに癒しの風は発動すらしていない。集中して」
「発動? ユーナ、待ってて」
やはりポポの魔法は威力が弱いらしい、まあ初めてこの魔法を使うなら最初からまともな威力が出せる方が珍しいだろう。
「ギル、ポポの攻撃魔法はどうだったんだ」
「最初はトレントに遊ばれていましたが、魔素の濃い場所であればいくらでも攻撃魔法を放てるのが精霊の強みですから最後には狩れる様になりましたよ。最初の魔石はヴィオとユーナに祈りを込めて欲しいそうですから。ユーナが落ち着いたら二人でしてあげてください」
「魔石? ああ、でも精霊も同じ様にするのか?」
「いいえ、ポポはユーナの真似をしたいんですよ」
それはポポらしいと言えばそうなのか、そういえばポポもユーナの魔石のまじないに魔力を注いでいたんだったな。
最初の魔物がユーナもポポもトレントなんだな。
トレントが初心者に狩られるのか、ちょっと複雑な気持ちがするな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。