目覚めてそして3
「それにしても、ユーナは誰から恨みを買っているんでしょうね」
二人が迷宮で初めて狩った魔物がトレントなのかと、考え込んでいたらギルが不思議な事を言い始めた。
「恨み? ユーナが?」
「ええ、魔素酔いが完全に抜けていないから酩酊になる。酩酊というのは魔素を短時間に大量に吸った場合に起こるもので、魔素酔いの軽い状態なんですが今のユーナは魔素酔いが治まっている筈なのにまだ酩酊しています」
「それと恨みに何の繋がりがある」
そもそもユーナを恨む様な者がいるとは思えない。
ユーナはこの世界で知り合ったのは冒険者になってから奴ばかり、その中で恨みそうな者なんて思いつかない。
「恨みなのか妬みなのか。ユーナの魔力は元々精霊に好かれやすい類のものですがそういう魔力は精霊だけでなくありとあらゆるものも引き寄せるのです」
「ありとあらゆるもの、例えば?」
「そうですね、単純に言えば霊の類ですとか、魔族とか亜人の類ですとか。そういう意味ではエルフにも好かれ易そうですねぇ」
なんで霊にまで好かれなきゃいけないんだか、良く分からない。
それが異世界から来たせいだとすれば、リナだって同じ筈だがリナはこんな事起きたことが無い。ということは、異世界から来たからという理由ではないんだろう。
「それで、その好かれやすいというのと恨みを買うというのの繋がりは?」
「好かれやすい分、恨みも買いやすいのですよ。恨みというか妬みでしょうかね」
好かれやすい分恨みも買いやすいというのは、要するに目立つからそうなるということなんだろうか。
それとも理由無しに恨まれるということなんだろうか。
ユーナの魔力に惹かれたせいでラウリーレンはやらかしたわけだが、似た様な事が今後もあるかもしれないし、同じ様に理由も無しにユーナを恨む奴が出て来るかもしれないってわけか。
「それで、恨みを買っているのと酩酊はどんな繋がりがあるんだ?」
「恨みと魔素が結びついて、ユーナにまとわりついているんですよ。迷宮で呪いを受けることがあるでしょう? あれみたいなものです。自然には呪いが解呪出来ない様に今のユーナには恨みが呪いの様にまとわりついていて、それが魔素に絡みついているのです」
「なんでそんなこと」
「誰からのものか分かりませんし、ユーナも気が付いていなかったのかもしれませんが、大量の魔素を今回吸い込んだせいでユーナにまとわりついていた恨みが活性化してしまったのでしょう。ポポが魔素を吸いこみ魔素酔いは解消されていますが恨みが絡みついた魔素はポポに吸い込まれずにユーナに残っているんです」
魔素が酩酊の理由で、それが抜けない理由が恨みだから状態回復と浄化を一緒に行わないといけないということなのか。
「普通であれば、恨みの方が目立つのですぐに分かるものなんですが、今回はユーナが吸った魔素の量が多すぎて恨みを超えてしまったから魔素酔いが解消出来るまで分からなかったのではないかと思います」
「なるほど」
ユーナの魔素酔いがそれだけ酷かったと言う事なんだろうが、それにしても恨みは誰から買っているんだろう。
「確実に恨みなのか」
「恨みか妬み、もしくはそれに近い悪しき感情です」
「悪しき感情」
そんな風な感情をユーナに向ける奴が分からない。
そもそも宿の女将や料理人、ギルとチャールズとライ、後は孤児院の子供達とかその程度しか親しくしている者はいないし、そう親しいわけではないが市場の店主達や冒険者達はユーナに好意的だと思う。
「ユーナにそんな感情を向ける相手が分からないんだが」
「そうですね、私もです。ユーナは人当たりも良いですしねえ」
「ユーナが善人だから相手が良い感情を抱くとは限らない」
「精霊王?」
「人もエルフもドワーフも、自分の感情が一番大切それは変わらない。ユーナが相手に誠実な対応をしていてもそれを相手が誠実だと思わなければ、恨みの原因になる場合もあるだろう。……ああ、ポポそれでは力を入れすぎだ。過剰に力を入れても発動しないし、それで発動したらユーナに負担が掛かる、少し落ち着きなさい」
俺とギルが話をしている間もポポは何度か魔法の発動を繰り返していた。
清めの雫は難しいのか、あまり成功してはいない様で見かねた精霊王がポポを指導し始めた。
「だって、ユーナがかわいそう。ユーナ、大丈夫? ポポがんばるヨ」
「ポポ私の話を聞きなさい」
「魔法上手く使えないヨ。どうしよう、ポポどうしよォ」
バサバサと翼を広げ、ポポが慌てている。
ユーナは目を開けているものの、ぼんやりと宙を見ていてポポの声には反応しない。さっきは自分で起き上がったというのに、ぼんやりと宙を見ながらたまにポロリポロリと涙を流している。
「ポポ落ち着きなさい。お前は未熟なのだから慌てたら余計に失敗する」
「でも、ユーナが、ユーナが」
「ポポ、落ち着け。ユーナは大丈夫だ」
バサバサと翼をはためかせながらユーナの名前を繰り返し読んでいるポポを摑まえて、落ち着かせようと話し掛ける。
「ヴィオ、ユーナ泣いてる、泣いてるヨ。どうしよう、ポポどうしよう」
「落ち着け、ポポはユーナの為に力をつけたんだろ。ポポとユーナの繋がりは強いんだぞ。だから大丈夫だ。自分がユーナの為に覚えた魔法を信じろ。ポポ自身の力を信じるんだ」
「力、ポポ馬鹿だよ。覚えたのに上手く使えないヨ。ポポユーナを守るって約束したのに、出来ないヨ」
ポポは俺の手の中でしょんぼりと俯いて、小さく首を横に振る。
こうして見ると、以前のポポよりも少しだが知能が上がっているのが分かる。
以前なら、こんな風に自分の力の無さを嘆いたりしなかっただろう。
「ポポは出来る。俺は信じている」
「ヴィオ?」
「大丈夫だ、ポポは出来る。力を付けたんだ、いいかポポトレントは簡単に狩れる魔物じゃない。それをお前は自分で狩ったんだろ?」
「ポポ狩ったよ。トレントを狩ったから魔石あるんだよ。ヴィオ、ポポねトレントを狩れるんだよ」
落ち込んでいたと思えば、急に得意気に俺にそう言うポポは幼い子供の様だ。
「そうだ。お前はトレントを狩ったんだろ。そんなの冒険者のなりたてには出来ないんだぞ。凄いことなんだぞ」
「ポポ凄い? ヴィオ、ポポ凄い?」
「ああ、凄い。だから自信を持て。お前はユーナの為に強くなったんだろ、ユーナを守る為に力をつけた。それが出来た自分を信じろ」
幼い子供が初めて剣をまともに振れた時の様に、俺はポポを褒め励ます。
まだ生まれて二か月も経っていない幼い精霊のポポが、人の魔法であれば中級魔法級の魔法が使える様になるまでの力を付けた。
ユーナを守る為に力を付けると約束したポポは、その約束を守る為に力を付けたんだ。
「ポポ力ついた? ポポ強くなった?」
「ああ、強くなった。お前は凄い。ポポはユーナと俺の自慢の精霊だよ」
「ポポ自慢? ユーナとヴィオの自慢?」
「ああ、自慢だ」
俺がしっかりと目を合わせながら頷くと、それに応える様にポポは大きく翼を広げた。
「ポポやるよ。ユーナにちゃんと魔法掛けるヨ。ヴィオ、ユーナのところ」
「ああ、分かった。頼むぞポポ」
そっとユーナの前にポポを下ろすとすぐにポポは俺の聞き取れない言葉で詠唱を始めた。
ギルの言葉は精霊魔法でも聞き取れるのに、どうしてポポの言葉が聞き取れないのか分からないが、ポポはユーナの顔を見つめながら必死に詠唱を行い、そして魔法を放ったんだ。
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