ポポと再会2
「そう長い期間ではありません。一度私と一緒にエルフの国に転移すれば次からは自力でヴィオが転移出来るでしょう」
「つまりユーナが魔法を習っている間中エルフの国にいる必要は無いということか」
俯いてポポがユーナの額に自分の額を寄せ魔素を吸い出している様子を見るが、まだユーナは目を覚ます気配が無い。
ユーナならギルに魔法を習いたいというだろうが、もしそちらを優先するとなると他の迷宮に行くのが遅れてしまう。
まだ三十層のあの文字を実際にはユーナは見ていないから、あれを見てから決めたいかもしれないし、あれを見ずに魔法を習う方を優先したいと言うかもしれないが、それはユーナが起きてみないと分からない。
ユーナには必要だと思うからと俺が勝手に返事を出来るものではない。
「そうですね。新しいギルマスが来てから引き継ぎをするので早くても半月は先の話になりますが、その時ユーナが魔法を習いたいというなら私と一緒に二人もエルフの国に来るといいのではと思ったものですから」
「ギルはエルフの国に戻りたいのか」
エルフはあまり自分の国から外に出てこない。
たまに用事があって出て来る者はいても、人族の国に定住はしないのが普通だと言われている。
ギルみたいに、ずっと人族の国で暮らし人族の国で仕事を持つ者等稀なんだ。
「いいえ、私はエルフの国は好きではありません。人族の国に生き続けるつもりでしたが、私がラウリーレンの契約者として償いをするならエルフの国に戻るのが一番だと思ったのです」
「好きじゃない場所で暮らすのが償いになると?」
「ええ、好きでないだけでなく、戻れば私はエルフの国の次の王となるべく生きることになります。それは私の本意ではない」
エルフの王? ギルってそんな立場にいたのか。
知らなかったな。
「戻ってすぐに王になるわけではありませんが、エルフの国の王となればもう人族の国に自由気儘に来る訳にはいきません。私は人族の国で暮らすのが好きでした。エルフに生まれながら私は人族に関わるのが好きでした。だからこそ、その生き方を捨てる事こそが私の償いになるのです」
「そこまでの償いをユーナは多分望んではいないぞ」
勿論俺だって望んでいない。
ギルが自分の望む生き方を捨ててまで償って欲しいなんて、そんな事思わない。
「そうは言ってもね、契約精霊の愚行を契約者であるギルは止められなかったのだから、償いは必要なんだよ」
精霊王はギルの償いは当然だと思っているのか、ラウリーレンから俺達は魔法を受け継いだ。あれで俺達は償いは済んだと思っていたんだが、ラウリーレンの償いとギルの償いは別だってことか。
でもなあ。
「王になるのが償いになるのか」
「……王になった後は精霊との新たな契約が出来なくなる。つまりギルがエルフの王になるとラウリーレンが生まれ変わってもギルの精霊にはなれなくなる。互いに契約を望んでいるから十分な償いになるだろう。精霊と契約したまま王になったら精霊は王の寿命が尽きるまで共に生き続けられたが、精霊がいない状態で王になるということは二度と精霊と契約が出来なくなるということなんだよ」
精霊王は何故か楽しそうな顔で俺に償いの内容を説明してくれるが、これはきっとユーナがが一番望んではいない償いだ。
そんな償い、ユーナなら気に病んでしまうだろう。
「精霊王それじゃ、ユーナの気持ちはどうなる」
「ユーナの気持ち? ヴィオにそれが分かるのか」
「確実に分かっているわけじゃないかもしれないが、少なくともギルが償いの為にエルフの王になって、ラウリーレンと契約が出来なくなる。そんな未来を望んでユーナはラウリーレンに羽を返したわけじゃないのは分かる」
ギルとずっとに居たいと願っていたラウリーレン、その気持ちをユーナは理解していたからこそラウリーレンが消えることなく生まれ変わり出来る様にと、ユーナは羽を返したんだと思うんだ。
「ですが、それでは」
「ラウリーレンが罪を犯した相手はユーナだ。そのユーナが望まない償いなんて償いとは言わないんじゃないのか?」
償い云々の前に、今すぐにエルフの王の代替わりが必要なら仕方ないのかもしれないが、エルフの国の事情が俺には分からないからそこは判断材料にしない。
俺が判断するのは、ユーナの気持ち、それだけだ。
「面白いね、人は。寿命が短いからこそそんな考えをするのだろうか」
俺がギルと精霊王が望む、ギルがエルフの王になるという償いを否定したというのに、精霊王は機嫌良さそうに面白いと言う。
「俺が面白いかどうか、今はどうでもいいだろ。それよりもギル、エルフの王の代替わりは至急なのか」
「いいえ。彼はまだ老いていませんから、まだまだ彼が王で問題はありません。ですが、彼自身も王になりたくてなったわけではないので、替われるのであればすぐにでもと言い出すでしょう」
言い出すでしょう? つまりまだギルは向こうに話をしていないのか。
「それならば、今ギルが償いとしてエルフの王になるなんてやめてくれ。それでお前が生まれ変わったラウリーレンと契約出来なくなるなんて、そんな事ユーナに背負わせないでくれ」
「ユーナが背負う、一体何を」
「ユーナはラウリーレンがお前と一緒に居たいと言う気持ちを理解して、ラウリーレンが生まれ変わりが出来る様に羽を返した。体を癒し、羽を返した。それはすべてラウリーレンが生まれ変わってまたお前と会える様に、そのためだとギルだって分かるだろう」
ギルと離れたくないと、ユーナの魔力を欲しいと願い、俺の生命力を欲しいと願った。
それが間に合わないと分かって、ラウリーレンは羽が無いまま命が尽きるのを受け入れようとしていた。
そこを止めたのがユーナだ。
ユーナは、ラウリーレンが自分にしたことも、羽を返す意味も理解した上で返したんだ。
ラウリーレンを許さないと言いながら、生まれ変わった後は自分はもう生きていないから反省していようといまいとどうでもいいと。
それは生まれ変わったラウリーレンに希望がある様に、そう考えての事だと思う。
今はラウリーレンを許せないと言っているギルが、百年、二百年後にラウリーレンを自分の精霊と望むことが出来る様にと考えての事なんだ。
「自分への償いのせいで、ラウリーレンの希望を失わせた。そんな罪悪感をユーナに負わせるつもりなのかって聞いてるんだよ」
「なぜユーナがそんな。ユーナは害されかけたのですよ、ラウリーレンは決して許されない罪を犯したのです。ですから契約者である私も……ユーナが何か罪悪感を感じることなど何もありはしません」
この辺りは人族とエルフの感じ方の差なんだろうか。
それとも俺の言い方が悪いのか? ギルには全く通じてはいない様だ。
「理解出来なくてもいいが、ギルが今エルフの王になる事は償いにならないとだけ覚えておいてくれ。どうしてもそうしたいなら、ラウリーレンが生まれ変わったら即契約をして、その足でエルフの王になりに行ってくれ」
「ヴィオ」
「ヴィオ、君は本当に面白いね」
ぽかんとしたギルの顔と面白そうに俺を笑っている精霊王、二人と話すのに疲れた気がするのは気のせいなんだろうか。
「面白いってのは今は関係ないだろ。それよりもユーナはいつになったら目を覚ますんだ。ポポ、魔素はまだ吸い出さないといけないのか」
「ユーナ、まだ駄目、魔素たくさんたくさん吸わないと駄目」
ポポの返事に俺は深く息を吐くしかなかったんだ。
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