ポポと再会3
「おやおや、まだ魔素が吸いきれないのか。短時間で随分吸い込んだものだ」
「迷宮で魔法を使いまくっていたからなあ」
魔素を使って魔法を使い、狩った魔物の魔素も吸っていたのだから大量だ。
「ユーナの場合、迷宮初めて入った日に一層とはいえ大量の魔物を狩っています。そして次の日には守りの魔物を大量に狩っていたので、元々魔素過多にはなっていたのかもしれませんね。迷宮入り始めたばかりで大量に魔物を狩れる魔力を持つ者は稀ですから、ユーナは特殊な例ですね」
「まあ、下級冒険者になったばかりであれだけ狩れる魔法使いはいないだろうな」
ユーナが調子よく狩っていたからついそのままやらせていたが、普通なら迷宮内で魔力切れを起こしておかしくない程、ユーナは魔法を使い続けていた。
何かあれば自分が対処すればいい、そう自信過剰に考えていた結果がこれだ。
「まあ、ヴィオがけしかけたわけではないみたいですし、どちらか言えばラウリーレンのやらかしが招いた結果ともいえるでしょう。それにユーナは頑固なところがありますから、ヴィオが止めてもやると決めたら引かない気もしますし」
「それは、確かに」
ユーナは確かに頑固だ。
俺が躊躇してても「やってみたいです、駄目ですか」と言いながら押し通してしまう。
ちょっと無茶だろうと思う事も、ユーナのあの上目遣いで言われると頷いてしまう俺も悪いんだ。
「やる気になってるのが分かるから、ついやらせてみるかって気持ちになってしまうんだよな」
「まあ、ヴィオは元々努力を尊ぶ傾向がありますから、そういう意味では似たもの同士なんでしょうね」
ギルは仕方ないなという顔で俺達を見ている。
努力を尊ぶというか、俺は天才じゃないから努力するしかなかったから、他人に何かを教えるのもそういう風になってしまうだけなんだ。
ポールみたいなのは天才型とでも言うのか、一つ教えれば十理解するというかものにしてしまう。
まだ辛うじて俺の方が強いのかもしれないが、俺の強さ何て地味な努力を重ねた末に勝ち取ったものと、長年の経験から来るもので、ポールの強さとは違う。
魔物と対峙した時、戦う時の感の様なものがポールは俺とは段違いなんだ。
あの強さが俺にあれば、あの感の良さが俺にあれば、そして俺がもっともっと若ければ俺はまだポール達と共に居続けただろう。
「努力を尊ぶというか、俺にはそれしか無かったからな」
「元々能力が高い者が努力し続けると化け物になるというのが、人族の面白いところだね。精霊もエルフも己を高めることなどどうでも良いと考えているところがあるが、人族は強くなることに貪欲だ」
それは精霊にしろエルフにしろ、長い時を生きるからだろう。
すぐに終わりがくる人族との差だ。
「ヴィオは特にそうかもしれませんね。初めて会った時もそれなりに強かったですが今のあなたの強さはあの頃とは比べ物にならない程強いですから」
「そんな事はないさ」
「以前、年齢の事を言って自分が衰えたと言っていましたが、名無しの下級迷宮とはいえ最上層の守りの魔物を相手に十体まとめて狩ろう、それを繰り返し繰り返し狩ろうなんて、普通の人は考えませんよ。それを最上位品まで落とす程狩るんですから正気とは思えません。ちなみにあなたが使っていた聖剣の舞は大きな魔物等を狩る為の技であって、決して複数の魔物を一度に屠れるものではありませんよ。それに聖剣の舞は連発出来る技でも無かった筈です。それを連発し一つ目熊の最上位品を得られるまで狩り続ける。その実力がヴィオにはあるってことです」
「あの程度、中級冒険者にはざらにあることだろう」
初めて会ったのは十代後半だったし、今の俺は三十歳。
さすがにあの頃より弱くなってはいないだろう。いつかそんな日が来るんだろうがさすがにそれは今じゃない。
「最上位品を、へえ。それは凄い。ヴィオは根性があるね。トレントキングが気に入るわけだ」
「そんな事言うが、下級迷宮の守りの魔物の話だぞ」
「境い目の森の森でトレントを狩り続けてトレントキングまで呼び出したあなたが
何を言いますか、龍刃の波や剣神の憤激まで連続で使いトレントキングを狩れた者が、他の冒険者も出来るなどそれは謙遜が過ぎるというものですよ」
「そうだね。ヴィオは自分の能力を低く見過ぎている。己の実力を正しく把握していなければ、冒険者という職業は上手く行かなくなることもあるのではないのか?」
ギルと精霊王の言葉に、俺は反論出来ない。
自分の実力がどの程度か、それを一番知りたいのは俺自身だからだ。
本当に衰えてどうしようもないのか、それともまだまだ上を目指せるのか、それすら分からない。
だが、ユーナは諦める必要なんて無い、もっともっと俺は強くなれると信じていると言ってくれた。
だから、俺は諦めないと決めたんだ。
「実力がどうかなんて俺には分からない。ただ昔みたいに動けなくなった、これからどんどん弱っていくんじゃないかって、だからそういう言う意味で自信がないんだ。長く生きるエルフには想像も出来ないかもしれないが、人族の肉体の衰えは早いんだ。町に来た頃俺は本当にそれを感じていて、冒険者を辞めた方がいいのかとも思っていた。だが、一つ目熊を狩っていて、俺は辞められないって気が付いた。まだまだ迷宮に入って魔物を狩って、上の迷宮を目指したい。その気持ちは捨てられないって気が付いた」
そしてユーナに励まされて、やっぱり強くなりたい。もっともっと強くなりたいという気持ちが生まれてしまったんだ。
「ユーナに励まされて、俺はまだ諦めなくていいと言われて、救われた気持ちになったんだよ」
何を語っているんだと思いながら、ポポが魔素を吸い続けている様子を見守る。
ユーナは俺に助けられたと言っていたが、助けられたのはきっと俺の方だ。
一人だったら、今何をしていたか想像もつかない。
父親の墓参りをして、その後は何をしていただろう。
目的もなくぼんやりと旅をしていたかもしれない、どこかの町で未来に悲観して酒浸りになっていたかもしれない。
何をやっていたのか分からないが、多分今より良い結果にはなっていないだろう。
「そうですか。あなた達二人は良い組み合わせなのかもしれませんね」
「そうなんだろうな」
ユーナにとって良いか分からないが、俺にはユーナの存在は日に日に大きくなっていく。
好きだという気持ちも、大切だという気持ちも、守りたいという気持ちも大きくなっている。
そして、ユーナの存在に癒されて、勇気を貰って励まされているんだ。
「ユーナには弱いところを見せられるんだ。十歳も下なのに、そうするのは情けないが、何故か出来るんだ」
「おやおや、のろけですか」
「違う、そういうのとは違うと思うが、何だろうな。今までも信頼できる仲間とは居たんだが、俺は弱いところは見せてはいけないって思い込んでたんだよ。仲間の中で俺だけが年が離れていて上だったからなんだろうが、それが今とは違うところなんだろうが、自分でも何故ユーナにはそう出来るのかは分からない」
好きな相手に弱みを見せるなんて、昔なら考えられなかった。
好きな相手どころか誰にもそんな事考えられなかった。
「そうですか、理由は分からなくてもヴィオにとって良い事かもしれませんね」
「そうだな。ユーナには感謝している。そういえば、ユーナの能力が一つ増えたみたいなんだ」
自分語りをしているのが恥ずかしくなって、無理矢理に話題を変える。
精霊王とギルが一緒にいる機会など、そう何度もないだろうから聞きたいことは聞いていおいた方がいい。
「能力が増えた?」
「ポポが精霊の眼という能力を覚えていただろ、どうもそれっぽいものをユーナは使える様になったみたいなんだ」
俺の言葉に、精霊王はユーナを凝視し考え込んでしまったんだ。
※※※※※※
ギフトありがとうございます。
十二月に入った途端寒すぎて、小さな電気ストーブしか置いていない私の部屋での執筆が辛い季節になってきてしまいました。
すでに寒さに負けて風邪っぽい感じがしてたりします。
寒さ対策を何か考えないといけないです……。
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