ポポと再会1

「おやおや、ユーナはエルフの幼子の様になっているね」


 精霊王の前に辿り着くと、穏やかな笑みを浮かべながら精霊王は俺の腕に抱かれぐったりとしているユーナに触れた。

 魔素酔いはエルフの幼い子供が魔法を覚えたばかりの頃になりやすいと、ギルがさっき言っていたが精霊王の口ぶりを考えるとよくある症状なんだろうか。

 エルフにはよくある症状で、普通であればそんなに焦る事は無いのかもしれないんが、ユーナのはかなり症状が重そうだ。

 そもそもユーナはエルフじゃなく人間な上、この世界で生まれ成長していない。

 なにせこの世界に来てまだ一ヶ月と少ししか経っていないんだから、生まれたばかりの赤ん坊並みに魔素に馴染んでいないというのに、魔法を使う為に魔素を短時間に大量に吸い込んだんだからこうなって当然なのかもしれない。

 人族にはあまり現れないとはいえ、そういうものがあると知っていたのにユーナに

それを話していなかったのも、ユーナが魔素をつかって魔法を使いまくっているのを止めなったのも悪かった。

 完全に俺の失態だよな、これ。

 俺がもっと気を付けておけばこんな風にはならなかっただろうに、ユーナに悪い事をしてしまった。


「精霊王、ユーナは」


 後悔しながら尋ねると、精霊王は穏やかな顔でユーナの額に触れながら答えてくれた。


「心配する事はありませんよ。少しばかり魔素を吸い過ぎてはいますから明日は辛いでしょうが。ポポがすぐに魔素を吸い出せば良くなるでしょう。それにポポとの繋がりはより強くなるかもしれません。愛しい子、愛らしい子、おいで我が子我が幼子よ」


 ひらりと空に右手を向けながら精霊王が空を見上げると、精霊王の指先から枝がしゅるりと空に向かい伸びて行く。

 枝が伸びていく先を見つめていると、光がほわりと現れた。

 ふわふわした光、その光に向かい枝は伸びて行く。

 あれがポポなんだろうか。


「私の愛しい子、可愛い可愛い我が子よ、契約主がお前を待っている。おいでここに我がもとに」


 しゅるしゅると伸びた枝は光を包み込み、精霊王のところに戻って来た。


「ポポ」


 思っているよりも光は大きかった。

 手の中に入るような小鳥の様な大きさだったが、それよりも大きくなったのかもしれない。


「ポポ、お帰り。俺が分かるか」

「ヴィオ、ヴィオ。ポポだよ。ぽぽ、帰った? 帰る?」


 精霊王の枝に止まっているポポの話し方は、前とあまり変わってはいない様だ。

 精霊としての格は上がったと聞いていたが、相変わらずな様子についつい頬が緩んでしまう。

 思わずギルと見ると、苦笑しながら頷いている。


「ヴィオ、ユーナは、ユーナはポポおぼてる?」


 やはりところどころポポの口調は拙い感じのままらしい、この辺りは精霊の格とは関係しないのだろうか。

 そういえばギルが、ポポには知識が足りないから精霊王から教えられていると言っていた。その為俺達のところに戻って来ても夜は精霊の国に行かないといけないんだったか。


「勿論覚えてるさ。俺達ポポが帰って来るのを待っていたんだぞ」


 ポポに向かって精霊王が手を伸ばすと、翼を広げポポは精霊王の手に舞い降りて来た。

 翼を広げるとかなり大きいと分かる。

 体の大きさに翼の大きさがあっていない様に思う程の大きさだ。


「ユーナどこ」

「ポポ、ユーナはヴィオのところにいますよ。いま魔素を体内に取り込みすぎて眠っているのです。ユーナの額にお前の額をつけて、余分な魔素を吸い出しなさい」


 きょとりとした顔で精霊王に聞いているポポを見ていると、なんだが気が抜けて来るようだ。

 ポポを見ているだけで、時間がゆっくりと流れていくような気がする。


「ポポ、ユーナは今話すことが出来ませんが、お前はちゃんとユーナから魔素を吸い出せますね」


 精霊王は淡々とポポに告げているけれど、これでポポに伝わるんだろうか。


「分かった。ユーナ、ポポ来たよ」


 精霊王の手からポポは俺のところへと飛んで来て肩に止まる。

 肩に止まっても、ポポの重さは殆ど感じない。

 体は大きくなったのに重さが元のままなのは不思議だが、これが精霊って事なんだろう。


「ポポ出来るか」

「ポポできるよ」


 ポポの返事に安堵して、俺はその場に胡坐を組んで座り込むとユーナを膝の上に座らせて左腕で背中を支える。

 

「ポポ、頼む」


 ポポが自分の額をユーナの額に触れされやすい様に、俺の右手にポポを移動させユーナに近づけた。


「ユーナ、ポポだよ。魔素、ユーナいらない魔素と魔力ポポすうよ」


 ところどころ流暢に話、ところどころ拙く話ながら、ポポは自分の額をユーナにこすりつけ始めた。


「ん……」

「ポポが光っている?」

「それは、ユーナの魔素が大量に移動しているせいだね。本当に呆れる位ユーナは魔素を吸い込んだようだ。多分必要以上に魔素を使って魔法を放っていたのだろうね。下級魔法を上級魔法を放つ位に過剰に魔素を使ったのかもしれないね。困ったことだ。ギル、元気になったら使い方を教えなければ駄目だよ」


 精霊王は光り始めたポポを見て、ユーナがなぜ魔素酔いを起こしたのか把握したんだろう。

 ギルにユーナの指導まで指示し始めた。


「ユーナに魔素を使わせる気は無かったのですがねぇ、まさかトレンドキングに言われただけで人族の魔法まで魔素を使おうとするとは思いませんでした」

「ユーナはなかなか面白い子の様だね。ラウリーレンの件では迷惑をかけたというに、あんな温情を掛けるのだから」


 温情? 羽を返したことか。

 あれが無ければラウリーレンは生まれ変われず消えていったのだから、温情といえば温情なのか。

 まあ、ユーナは人がいいからな。


「ヴィオは分かっていないようだね。ユーナはラウリーレンに魔力を渡さないといいながら、回復薬に無意識に魔力を込めてラウリーレンの傷を癒やしたんだよ。エルフの薬ならともかく人族の薬では精霊の傷は癒せはしない。あれだけ酷い怪我をしていたラウリーレンを癒やすには相当な魔力を使ったはず。それをユーナは無意識にしていた。それは彼女が心の底からラウリーレンの体を心配し治したいと考えた故の行いだ。私はそれを良しとはしなかった。あの怪我も羽がもがれた事もラウリーレンの罪ゆえのこと。だからギルは願えなかった。ラウリーレンの罪を許せという様な恥知らずな願いを口には出来なかった」


 ギルはラウリーレンの契約者だった。

 表面上は平気そうにしていたとはいえ、怪我を癒やすことも、羽を戻すことも本当はギルこそがしてやりたかっただろうに、それをせずに罪の償いをさせようとしていた。

 ユーナが行動しなければ、ラウリーレンはあの場で消えていただろう。

 それは悲しいが仕方がないことだと、精霊王もギルも、俺も考えていた。

 

「ユーナはお人よしだから、ラウリーレンには酷いことをされたが、憎いから消えてしまえとは考えなかったんだろう」

「そうだね、だからこそユーナの魔力は清々しく優しく、とても澄んでいる。本当に精霊が好む魔力をしている」


 魔力がどんなものかなんて俺には全く分からないが、優しく澄んだ魔力をユーナが持っていると言われるのは何となく分る。

 ユーナ自身がそういう雰囲気を持っている。

 ユーナには、この世界の人間とは違うものがある気がするんだよな。

 何ていうか、頭が悪い俺には上手く言えないが、あったかい陽だまりで微睡んでいる、そんな穏やかな気持ちになるような、優しさがユーナにはあるんだ。

 俺には無い、穏やかな空気と優しさ、俺はユーナのそういうところに惹かれいつの間にか好きになっていた。

 

「ユーナの纏う空気は魔力と同じ澄んでいて優しい、ラウリーレンは、あの子は愚かにも力が欲しいと願い続けて疲れ切っていましたから、力を求めながらも心の何処かで癒やしを求めていて、その結果ユーナの優しく澄んだ魔力に惹かれたのでしょう」

「ギル、だからと言ってラウリーレンの行いは許していいものでは無かった。お前は契約精霊に罪を犯させてしまった。それを忘れてはいけないよ」

「分かっています。私は私の償いをしなければならない。精霊王、私は一度エルフの国に戻ります。そうして己を鍛え直します」


 エルフの国に帰ることが償いになるのか、ギルがどういう気持ちでいるのか分からないが、エルフの国に帰るということはギルもあの町からいなくなるのか?


「ヴィオ、私がエルフの国に帰る時あなた達も一緒に来ませんか。ユーナに精霊魔法を教えるのはエルフの国の方が良いと思うのです」

「俺達がエルフの国に?」


 思いもよらない話に、俺はすぐには返事が出来なかったんだ。


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