ポポを迎えに7

「トレントキング、門を開いて精霊王のもとへ」


 ギルの転移の魔法で精霊の国の門の前まで飛ぶと、ギルがトレントキングに話しかけた。話しかけてるその横顔がなんだか険しいんだが、ユーナの状態もしかしてかなり悪いんだろうか。


『なんだ嬢ちゃんの魔力が揺らいでるな』

「トレントキング、余計なことをしてくれましたね。ユーナは魔力は多いですが、魔法は覚えたばかりだというのに」

『なんだ、トレントキングは精霊の台所の使い方を教えただけだ。嬢ちゃんはエルフ並みにおっとりしてるが、筋は悪く無かったが何か問題か』


 トレントキングはのんびりと話をしているが、ギルはため息をついてトレントキングを見上げている。


「問題ですよ。ユーナは一度に魔素を吸い過ぎて魔素酔いになってしまったんですからね。魔石に魔素を吸わせても意識が戻らないんですから、重症です」

『嬢ちゃんは人族で体も育っているのに魔素酔いなんて起きるのか、エルフの幼児じゃあるまいし』


 魔素になれていない子がなる症状は、魔素酔いというのか。

 トレントキングの話ぶりだと、エルフの幼児が掛かるものなんだろうか。


「ギル、重症なのか」

「ええ、これは魔素酔いとも魔力酔いとも呼ばれているもので、エルフの幼児は魔法を覚えたての頃になるんですが、それでも意識を失ったりはしないんです。ユーナは高熱を出している様ですし、意識も無い。魔石に魔素を吸わせても意識が戻らないのですから、かなりユーナの中に魔素が溜まっている状態なのだと思います」

「それはユーナが迷宮で魔素を使って魔法を使い過ぎたからなのか」

「迷宮は元々魔素が濃い場所です、その濃い魔素をユーナは魔法を使う為に大量に体内に取り入れて魔物を狩り続けました。魔物を狩る事で人はその魔物の魔素を体内に取り入れ自分の能力を上げますから、ユーナは迷宮の中で活動している間呼吸により魔素を取り込み、魔法でも取り込み、魔物を狩ることでも取り込み続けたことになります。ヴィオの様に長年迷宮の中で魔物を狩り続けていれば、多少魔素を取り込んだ量が多くても慣れているので問題はありません。むしろヴィオの場合は元々の魔力量が少ないですから精霊魔法を使う為に魔素を体内に取り込むことを繰り返す内に魔力量が増える可能性もあります」


 魔力量が増えるなんて、そんな可能性考えたことも無かったが、迷宮外で一回だけでも魔力切れ無に転移の魔法が使える程度には魔力が増えてくれれば、何かの時には助かるかもしれない。


「俺は問題ないが、ユーナは駄目、そういうことか」

「ええ、ユーナ自身の魔力を使い魔物を狩るならば、徐々に迷宮に慣れていくだけですし、行く行くは魔力を全く使わず魔素だけを使用して魔法を一日使っても問題なくなるでしょう。ですが、まだユーナは迷宮に入り始めて三日目ですからね」

「まあ、慣れたとは言えないな」


 迷宮の魔素に慣れるどころか、迷宮攻略をちょっと見学して魔素が濃い空気を感じた程度しかない。


「魔素を大量に吸う事で、今のユーナはお酒を飲んで泥酔しているのと同じ様になっています。気を失う前におかしな感じはしませんでしたか」

「ああ、していた。そうだな泥酔。俺は酒を飲まないが、確かにあれは熱を出したというより酔っぱらってわけが分からなくなっているという状態に近かったかもしれないな」


 妙に気が大きくなって、こちらの話を聞いているのかいないのか分からない。

 声が大きくなり、はしゃいでいる様な様子だった。

 そうか、魔素酔いは、本当に魔素に酔っぱらった様な状態なんだ。


『そうか、それは嬢ちゃんに悪い事をしたな』

「知らなかったのですから、仕方ありません。私もユーナにきちんと話をしておくべきでした。知らなければまさか使わないだろうと思い込んでいたのが良く無かったのですから」

「なあ、精霊魔法だけに使っていればここまで酷くならなかったのか」

「そうですね、精霊魔法は少し特殊です。ユーナもヴィオも、自分で魔法を使っている様に思っているかもしれませんが、精霊魔法は離れていてもポポを経由して魔法を使っているので、魔素を体内に取り入れる量は人族の魔法の半分以下でしょう。エルフの幼児の場合、契約する精霊の力も弱いので魔素を処理しきれずに余った魔素を吸い込んでしまう為魔素酔いを起こすのですが、ポポは今格が上がっていますからユーナが精霊魔法だけを使っていたのなら、こんな風にはならなかったでしょうね」


 ギルの説明に、そうするとトレントキングだけが悪いんじゃないと分かって、ついつい苦笑いしてしまう。


「ヴィオ、何を笑っているんです」

「いや、トレントキングは魔素を使うのに慣れたら普通の魔法にも使えると言っていたんだが、ユーナが試してみたら出来たと言って魔法を使いまくってたんだ」

「なんですって?」

『さすが嬢ちゃんだな、探求心がある』


 ギルは驚き、トレントキングは喜んでいる。

 何て言うかトレントキングって、好戦的というか戦うのが好きというかだ。


「探求心がある、じゃないですよ。ユーナ、なんでそういうところヴィオに似なくてもいいでしょうに」

「どういうことだ」

「こんな育ちの良さそうな子を、あなたと同じ魔物狩り狂いにしなくても良さそうなものですが、まあ、番なら長くいれば似て来るのも仕方ないのかもしれませんし、他人がとやかく言う事ではありませんね」


 呆れた様に俺とユーナを交互に見ながら、ギルは変な事を言い始めた。

 魔物狩り狂いは兎も角、番ってなんだ。俺とユーナはそんな関係じゃないぞ。


「ギル、勘違いするな」

「なんですか」

「俺達は番じゃない。番って人族じゃ言わないが、夫婦どころか恋人ですらないからな。間違ってもユーナにそんなこと言わないでくれよ」


 俺の言葉にギルは心底驚いた顔で、口をぱかりと開いている。

 ギルのこんな顔、始めて見るんだが俺何かおかしなこと言ったか?


「恋人ですら無い、本当ですか」

「ああ、違う。俺は何て言うか、その、保護者だ。十歳も下なんだぞ」

「ですが、え、本当に?」

『本当か、お前。嬢ちゃんと番じゃないのか』


 なんでそんなに意外そうな顔でギルは、いいやトレントキングまでが驚いているのか分からない。


「今はそんな話どうでもいいだろ。トレントキングまだ精霊王から許可は出ないのかユーナの意識このまま何てことにはならないよな?」


 重症というのがどの程度危険な状態なのか分からない。

 ポポが戻ってくればすぐに良くなるのかも分からないのが、困る。


「ポポが魔素を吸い出してくれたら意識はすぐに戻ると思います。それでも足りなくても精霊王の助けを借りれるでしょうから、大丈夫だと思います。ただ、ここまで酷い魔素酔いだと明日は起きられないでしょうね」

「起きられない?」

「ヴィオはお酒を飲まないみたいですから経験が無いかもしれませんが、深酒をしすぎて二日酔いになると起きられなくなりますよね。あれは状態回復薬を飲めば良くなりますが魔素酔いをして状態回復薬を飲むとまた魔素酔いしますので、状態が良くなるのを待つしかなんです」


 なんてこった。

 つまり、魔素や魔力を含んでいる薬が飲めないっていうのは魔素を体内に取り込み過ぎているところに更に追加することになるからってことなのか。


「一日で良くなるのか」

「そうですね、ここまで酷い魔素酔いを見たことは無いので何とも言えませんが、ユーナはエルフではなく人族ですしね」

「そうか、知らなかったとは言え止めなかった俺も悪いんだが、可哀相な事をしたな」


 腕の中でぐったりとしているユーナが、魔素酔いが治まっても二日酔いの様になるというのは気の毒以外のなにものでもない。

 しかも本人は魔法を沢山使える様になったと喜んでいたんだ。


「まあ、明日以降ちょっと辛いでしょうけれど、魔素酔いは悪い事だけではありませんよ。魔素酔いをする事で体内の魔力量が上がりますから、ユーナの魔力量が上がっている筈です。これだけの魔素酔いですから、相当上がっているでしょうね」

「そうなのか」

「ええ、ポポも最終契約が終わり二人との絆もしっかりと繋がった筈ですし、これからユーナから大量の魔素と魔力も吸うのですから、ポポの力もしっかりしたものになるでしょう。後はポポの知識力がもう少し上がると良いんですけれどね」

「ポポの知識力」

「ええ、魔素酔いは小さいものだと何度か繰り返す子供もいますが、ユーナは今回限りでしょう。ですからポポが一緒なら迷宮でどれだけ魔素を使って魔法を放っても大丈夫です。同じ魔法を使っても魔素を使って魔法を放つ場合熟練度が数倍上がりますので、魔素を使った方が今後のユーナの為にもなります」


 結果的にはいいのか? どうなんだ。

 自分のことなら、力がつくならそれで良いと思えるんだが、ユーナがこうしてぐったりしている様子を見ていると、とてもそんな気持ちにはなれない。

 

「ユーナは大丈夫なんだな」

「ええ、大丈夫です。ヴィオは過保護ですね」

「心配するなって方がおかしいだろ。突然こんな風になったんだぞ」

「まあ、そうですけれど。ほら、精霊王の迎えが来ましたよ。トレントキング、ユーナへの埋め合わせちゃんとしてくださいね。ヴィオいきましょうか」

『嬢ちゃん悪かったな。トレントキングが考えなしだった』


 そういうのとは違う、どちらかと言えば俺とユーナが考えなしだったと言うべき話だろこれは。


「トレントキング気にするな」


 精霊王の迎えの枝に身体を包まれて浮き上がった体を、凄い勢いで引っ張られながら、俺はトレントキングにそう言うと、トレントキングは見送る様に自分の枝を大きく揺すったんだ。


※※※※※※

現在アルファポリスさんのBL小説大賞に「ひとめぼれなので、胃袋から掴みます」という小説をエントリーしておりまして、この小説大賞のミリオンボーナス対象になれる様に一ヶ月で五万字書きました。

以下の条件を満たすとボーナス対象者になれるというものです。

・アルファポリス内部投稿作品で「第10回BL小説大賞」にエントリー

・エントリー時点からキャンペーン開催期間終了までに5万字以上の追加更新

・大賞の最終順位が100位以内


エントリーしてても、大賞なんて夢のまた夢なので、私にとってはミリオンボーナスが本命なんですが、なにせ私遅筆なもので、アルファポリスでBL小説書いて、カクヨムでこの作品書いてしてたので十一月は死にそうでした。

仕事もそこそこあったので、カクヨムの更新頻度ちょっと落ちてて申し訳なかったです。

もうちょい早く書けるようになりたいものです。

アルファポリスの方、本日時点では四十九位という微妙な位置にいたりしますが、最終的にどうなるかなあ。

来月はカクヨムメインで更新していきたいと思ってますので、今後ともよろしくお願いします。

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