ラウリーレンへの裁き6
「精霊王、愚かな精霊が捕まったと聞き参りました」
俺を連れ精霊の国に飛んだギルは、精霊王の前に歩を進めるとすぐに跪き頭を下げた。
「ギル、そんな情けない顔で強がるもんじゃないよ」
ギルの長い髪、その一房を精霊王が掴み立ち上がらせる。
乱暴に見える行動だが、精霊王の顔と声は行動に反して優しく見える。
「これを、精霊王の裁量にお任せいたします」
「それはラウリーレンの羽だね」
「こちらは私が奪いましたが、もう片方はあの精霊が自ら捨てたものです」
一対の羽はギルから精霊王へと手渡され、精霊王の近くで蔓性の植物に体の自由を奪われていたラウリーレンはそれを見て泣き喚いている様なのに声はこちらに聞こえてこない。
「自ら捨てた。ラウリーレン、この羽はいらないのかな」
精霊王が手を上げると、ふわりと羽が宙に浮く。
魔法に疎い俺は、それが風魔法なのか精霊魔法なのかも分からず見つめているだけだ。
「ヴィオさん、お帰りなさい」
三人の邪魔をしない様、俺の側にユーナはそっと近づいて来た。
「置いて行ってすまなかったな」
「ほんの少しの間ですし、ヴィオさん達を待っている間に私も精霊王から彼女の魔法を移されましたから。一人を感じる暇はありませんでした」
「そうか」
なんの魔法を移されたのか気にはなるが、今はそれよりも目の前の三人だ。
宙に浮いた羽を見ながらラウリーレンは更に嘆き涙を流すけれど、精霊王もギルもそんなラウリーレンを冷ややかに見つめているだけだ。
ギルはギルドの部屋で見せた様な弱々しい様子を消してしまっている。
あれが強がりだというなら、ギルの心はまだラウリーレンを自分の精霊だと思っているのだろうか、俺には判断が出来ないが。
「なあ、ユーナはどう思う?」
「え、私ですか」
「ああ、ユーナはラウリーレンの羽、どう思う」
「羽が無くなると生まれ変われなくなるんですよね。ギルさんは精霊王に羽を取られるのが一番の罰の様に以前言っていましたが、羽を失ってもどこか欠損があっても生まれ変わりは出来ないとも言っていました」
「そうらしいな」
精霊は、寿命を終える時に体のどこかが欠損していると生まれ変われなくなるのだと以前ギルは確かに言っていた。
精霊にとって生まれ変わるのは重大な事で、精霊と契約しているエルフにもそれは同じ。
だからこそ、自ら羽をむしり取り逃げたラウリーレンをギルは許せないのだろう。
自分と契約していて他者の魔力を望むのは恥ずべき事だとも言っていた、ラウリーレンはそれでもユーナの魔力に執着し、ギルから逃げる為羽を捨てた。
どちらもギルへの裏切りで、ギルはもういらないと言っているのと同じなんだろうが、俺にはそう見えないんだよなぁ。
「もしもポポちゃんがこうなったら私は羽を戻してあげたいって思います。でも、そもそもポポちゃんだったらこんな事にはなっていませんよね」
「そうだろうな。そもそもポポは他人を害するなんて考えもしないだろう」
ポポも生まれ変わりを繰り返したらラウリーレンの様に狡賢くなるんだろうか、そんなの想像もつかないが、今のポポにはそんな真似したくても出来ないだろう。
ポポはなにせ善良というか、無垢だからな。
だからこそ騙される。
「ラウリーレンが私達から魔力を奪おうとしたことは許せないです。もしもそうなったら私は魔力を奪われ続けてヴィオさんも生命力? を奪われ続けるんですよね」
「そうだな」
ユーナの魔力は綺麗だとギルも精霊王も言う。
綺麗な魔力、しかも魔力量も多い。だからラウリーレンはユーナの魔力をどうしても欲しかったとしても本当にそれだけなのか、なんだか俺達は大事な事を見落としている気がするんだ。
「ラウリーレンはどうしてあんなに魔力が欲しがったんでしょうか」
「精霊王がさっき言っていた通り、最上位まで格を上げたかったというのが理由な気がはするんだが、でも契約者のギルと精霊王をあんなに怒らせてまで望む理由が分からないん」
例えば誰かと次期精霊王の立場を争っていたとしても、精霊王の寿命はまだまだあるらしいし後釜を狙うなら神殺しする気持ちで挑まないといけないというのだから精霊が最上位になった程度では精霊王に敵うものではないのだろう。
自分の力に自信があるだけの馬鹿ならただ精霊王になりたいという思いだけで愚かな真似をしでかす可能性もあるだろうが、ラウリーレンは迷宮での策略を見ても綿密に計画し動いていた様に思うから、自分の力量も間違いなく把握していると思う。
「私の魔力が欲しかったんじゃなく、ただ力が欲しいと願った時に私が来てしまっただけなんでしょうか」
「どういうことだ」
「ラウリーレンが精霊王の地位を欲しがるとは思えないです。彼女と知り合って一ヶ月程度ですが、そういうものを望む子じゃない気がして。だからもしも格を上げたかったとしたら他の理由なんじゃないかって思うんです。ラウリーレンはどうしても格を上げたかった。そしてそこに都合よく魔力が多い私と生まれたばかりのポポちゃんが現れたから、暴走してしまった。そう考える方が自然な気がします」
やはりユーナも精霊王の地位を狙っていたとは考えていないのか。
でも、他の理由は分からない。
「羽を燃やそうか、ラウリーレン」
「嫌よ、止めて、止めて精霊王。ラウリーレンの羽を返して、それが無いと生まれ変われなくなる。もうギルの精霊じゃなくなっちゃう。それじゃ駄目なの、ギルの精霊はラウリーレンだけ、ずっとずっとラウリーレンだけなんだからあっ!」
突然ラウリーレンの声が聞こえて、俺達はハッとして三人を見た。
ラウリーレンは、やっぱり生まれ変わらなくていいともギルから離れていいとも考えていなかった。
それどころか、生まれ変わり後もギルの精霊で居続けるつもりなのか?
「ラウリーレン、それならばどうしてギルから逃げた。自ら羽をむしり取り格を落としてまでギルから逃げたのは何故だ」
「魔力が欲しかったの。あの綺麗で清らかな魔力、あの強い生命力、あれがあればラウリーレンは生まれ変わることなく最上位になれるって思ったから。そうしたらそうしたら」
泣いているラウリーレンは拘束されていた体を突然解放されて、精霊王の足元に落ちていった。
ラウリーレンの体は羽がないから飛ぶことは出来ず、小さな体を地面に打ち付けた後四つん這いになりよろよろと精霊王の足元へと辿り着いた。
「最上位になりたかった。生まれ変わりなんてもう嫌なの。このまま最上位になりたかったの」
精霊王の考え通り、ラウリーレンは最上位になりかたったのか、でもどうして。
「なぜ、そんな愚かなことを考えた。ラウリーレン、確かにお前は何度も何度も生まれ変わり力を付け格を上げた。なぜそれで満足しない」
「だってそうしたら、最上位になれたらラウリーレンはずっとギルといられる。生まれ変わりの度にギルに見つけてもらえ無いんじゃないかと不安になる事もなく。ギルの側に違う精霊がいるんじゃないかと怯えることもなくなる」
「そうか、お前は今世黒い薔薇から生まれたのだったな。その前はアイビーだったか、黄色い薔薇、紫のアネモネの時もあったな。初めて生まれたのは鈴蘭水仙からだったというのに、何と歪んだことだろう」
精霊王は悲し気にラウリーレンを見下ろしながら言うが、俺には意味が分からない。そもそも黒い薔薇なんて見たことがないがそれに意味があるんだろうか。
「花言葉?」
「なんだそれ」
「ええと、花に意味があるというか、花の性質とか神話とかそういうところから意味を付けられているというか。その花によって良い悪い両方の意味を持つものもありますが、鈴蘭水仙は確か純粋だったかしら」
純粋。
ユーナの世界とここの世界の花が同じなのか分からないが、花言葉というものの意味の通り純粋という意味を持つ花から生まれたラウリーレンが生まれたのか?
「アイビーは忘れちゃいましたけれど、紫のアネモネはあなたを信じて待つと言う意味もありますが、アネモネ全般は儚い恋とか、見捨てられたとかそういう意味もあります。そして黒い薔薇の意味は永遠とか滅びることの無い愛とかあなたは私のものとかだったかと」
「永遠」
愛というのが、ラウリーレンの行動の理由だったのか。
ギルと離れたくなかったから、だから最上位になりたかった。
「最上位になったらずっとずっと一緒にいられるの。ラウリーレンが死ぬことなく、生まれ変わることなく、ずっとずっとギルといられるの。お願いユーナ魔力を頂戴。ラウリーレンに魔力を頂戴、ヴィオ、生命力を頂戴。ラウリーレンに力を頂戴、二人が死ぬまで魔力と生命力をくれたらラウリーレンは最上位になれる。そうしたらギルとずっと一緒にいられるの。頂戴、頂戴よおっ!」
ふらふらと、ラウリーレンは俺達の方へと這いずってくる。
落下した時に折れたのだろうか、手首が不自然な曲がり方をしていて色が変わっているというのに、そんな事どうでもいいとばかりにラウリーレンは俺達の方へと近付いて来たんだ。
※※※※※※
100話になったというのにまだ次の町にすら行っていないヴィオとユーナですが、お話まだまだ続きますので今後も読んで頂けたらいいなあ。
ラウリーレンが生まれた時の花の意味はこんな感じです。
ラウリーレンは最初からそれなりに力があった精霊なので花から生まれていますがポポは弱々精霊なので、何から生まれたというのが特定出来ません。
鈴蘭水仙:純粋、けがれなき心
紫アネモネ:あなたを信じて待つ
アネモネ全般:はかない恋、見捨てられた、恋の苦しみ
アイビー:永遠の愛、不滅、死んでも離さない
黄色い薔薇:友愛、献身、嫉妬、薄らぐ愛
黒い薔薇:永遠の愛、貴方はあくまで私のもの、決して滅びることのない愛
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