ラウリーレンへの裁き3

『どうした』

「いや、悪意を察するならどうしてポポはラウリーレンに何度も騙されたんだろうと思ってな」


 ポポは、最初っからラウリーレンに騙されまくっている。

 まあ、それがなければ俺達は多分ポポと話す機会は無かっただろうから、ある意味ではラウリーレンのお陰でもあるんだが、ポポはラウリーレンのせいで死にかけてもいるからとても感謝できるもんじゃない。

 ああ、でもポポの舌につけられた魔法陣には確か従属の呪いも付いていたんだったっけ、そうするとポポは従属の呪いで従わされていただけなのか。


『ああ、お前達の契約精霊は下位も下位、生まれたばかりなんだろ。そりゃ上位精霊が気まぐれに騙すのすら簡単だろうな』


 気まぐれに騙すのが簡単、それなのにラウリーレンはポポを自分の思い通りに操る従属の呪いまでつけたのか。悪質だな。


「人の悪意は気が付くんだろ」

『人の悪意は纏う魔力が違う。色で言えば悪意ある人間の魔力は黒、善意は白それ位に違う。エルフにも精霊を利用しようと考える者はいるだろうが、エルフの魔力に惹かれて契約する』


 それって結局騙されているってことなんじゃないのか。

 いや、悪意があると分かっていてだから違うのか? 良く分からないな。


「魔力に惹かれるか、そのせいでユーナはラウリーレンに執着されてるみたいなんだが、契約している精霊はその相手以外の奴から魔力を貰うのは駄目なんだろ?」

『そうだ。出来ないわけじゃないが、それは命に関わる時以外行うのは恥ずべき事なんだ。契約は絶対、唯一と定めて行うものだからな』


 唯一、ポポの唯一になんで俺まで入っているのかが謎なんだが、まあポポだからなあ、俺はユーナのおまけ程度に思っているんだろうな。


『ほうら、着いたぞ。精霊王がおかんむりだ』


 話をしている間に俺達の体は精霊の国に入り、そこからは一気に精霊王の前まで移動した。


『じゃあな、人間。次は命のやり取りをしよう、楽しみにしているぞ』


 トレントキングはそう言うと俺達の体を精霊王の前に置いて、しゅるしゅると枝を引き上げていった。


「二人共よく来ました」

「突然トレントキングを呼び出して申し訳ない」


 俺達を出迎えた精霊王は、優しそうな笑みを浮かべてはいるがなんだか迫力がある笑顔だとも言える。

 精霊王の近くにはラウリーレンが入れられた籠が宙に浮いている。

 籠の中に座りこみ、ラウリーレンはこちらを睨んでいるがその顔色は青白い。


「この考えなしの精霊が迷惑を掛けましたね。申し訳ない事を」

「迷惑なんてもんじゃないな。ポポの振りをしてユーナから魔力を奪おうとしていたんだ。ポポが離れている状態でそんなことをしたら、ユーナの魔力はラウリーレンに奪われ続けるんじゃないのか」


 ポポとユーナの絆の話を聞いた時に、ギルがそう言っていた覚えがある。

 予想外に十五層で大量の守りの魔物を狩り続けた後で急に現れたポポに俺達は慌てていた。あの時のポポの姿は今にも死にそうで、本気で騙されかけた。

 ギリギリで気が付いたからいいが、そうでなければユーナの魔力はラウリーレンに奪われていたかもしれないんだ。


「ラウリーレンから話を聞きました。この愚かな精霊は迷宮の魔素を使い魔物を大量に狩り一時的に自分の魔力を底上げしあなた達二人をラウリーレンが作った偽の空間に飛ばし、精霊のみが作成できる特殊な魔物寄せの香で魔物を呼び襲わせた様ですね」

「特殊な魔物寄せの香」

「君も魔物寄せの香を使う様ですが、あれは威力が弱い。精霊が使うものは好きな魔物を好きなだけ呼ぶことが出来る。大量の魔力か魔素を使うので、ラウリーレンは迷宮を利用したのです」

「俺達がさっき迷宮にいた時魔物が少なかったのはそれに関係しているのか」

「そうです。迷宮のどこかの層に魔物を呼ぶだけならそんなに影響はありませんが、先程のラウリーレンの行いは、あなた達を転移させる空間を作る為とその空間に魔物を呼ぶため大量の魔素を使った為に影響が出てしまったのです」


 精霊王の話に顔が引きつる。

 つまり、昨日の魔物の大発生もラウリーレンが関係していたってわけなのか?

 昨日失敗したから、今日は偽の空間に俺達を飛ばして大量の魔物と戦わせたってことなのか。


「精霊ってのはそんなとんでもない魔法を誰でも使えるものなのか」


 転移の魔法はギルも使うが、偽の空間を作ってそこに魔物を集めておくなんて事を精霊が簡単に行えるもんなのか。


「ラウリーレンは精霊の中でも最上位近くまで魂の格を上げている精霊でした。今は羽を失っている為その格を落としていますが、それでも迷宮の中で魔素が使い放題であればラウリーレンの能力なら簡単に出来るでしょう。元々迷宮というのはそう言う空間が出来やすい環境にありますしね」

「出来やすい環境」

「あの迷宮は、迷宮としては能力が低いものですから存在していませんが、君は迷宮の中で突然どこかに飛ばされて、その飛ばされた先で大量の魔物と戦った経験あるのでは?」


 精霊王の言葉に眉を顰める。

 確かに迷宮の罠にはそういうものが存在する。

 階段だと思って一歩踏み出すと転移の魔法陣だったとか、地面に隠れていた罠を踏んだから転移したとかいう奴だ。

 それで大量の魔物と戦う羽目になり死にかけるパーティーは多いんだ。いいや、俺達が知らないだけで実際全滅したパーティーだってそれなりの数はいるだろう。

 それだけ迷宮の罠としては脅威の部類に入るものなんだ。


「確かにそういう罠は迷宮に存在するが、そんな罠をラウリーレンは作ったってことなんだな」

「そうです。大量の魔物と戦わせ疲労させることで二人の注意力を失わせ、目の前にポポの姿で現れたら簡単に騙せると考えた様ですね」


 その考え方は正しかったと言えるだろう。

 俺が一つ目熊やオークキングが大量に出て来る状況に慣れていたし、ユーナの魔法も連続で使用出来たから何とかなったが、そうでなければかなりヤバい状況だった筈だ。疲れ切っていたところでユーナがどれだけポポに魔力をあげられたか分からないが、ほんの少しの魔力でも偽ポポに渡してしまったらそこから後はユーナが拒否しても魔力を奪われ続けるしかなかったのかもしれない。


「何故そこまでユーナに執着する」

「大量の魔力が欲しかったのでしょうね。自分の器を超える魔力が」

「どういう事ですか。私、そんなに魔力があるとは思えません」

「確かにユーナの魔力はエルフに比べたら、少し多いと言える程度です。でも人としてならかなり多い、それに魔力の回復が早い様ですね。先程の状態でユーナがラウリーレンに魔力を与えたとすると、契約精霊のポポではなくラウリーレンにユーナの魔力が流れ続けることになります。契約精霊の場合は契約者であるユーナが与える魔力の量を調節出来ますが、ラウリーレンの場合はユーナから魔力を与えられるのではなく奪い続けるのです。ユーナの限界を超えてそれを延々とし続けることが出来るのです。ユーナの体は魔力を回復しようとする。食事や睡眠、魔力回復薬で魔力を回復し続けそしてまたラウリーレンに魔力を奪われ続ける。結果どうなると思いますか」


 ユーナの意思に関係なく、ラウリーレンに常に大量の魔力が流れ続けることになる。


「ラウリーレンは契約者であるギルから大量の魔力を与えられ続けるなんて出来ないから、ユーナの魔力を狙ったってわけか。もしそれが出来ていたとしたらユーナに抗う術はなく、何とかして魔力を回復し続けるしか無くなるのか」

「そうです。人は魔力を消費し続けると自分の中の器を無理矢理に大きくしようとしますから、ユーナの元々多い魔力量がさらに増える可能性もあります。ラウリーレンがユーナから奪う魔力を生命が維持出来るギリギリを狙い奪い続け、ユーナは自分の命を守る為魔力を回復し続ける。それが上手く循環出来る様になったとしたらラウリーレンは自分の魔力として使える器を一つ手に入れた様なものです。他者の魔力は精霊にとって自分を育てる栄養そのものです。大量の栄養を取り続けられれば精霊は自分の器を鍛えられ生きながら格を上げることも出来る」


 生きながら格を上げる、そんなことの為にラウリーレンはユーナを狙い続けたっていうのか。

 でも、そこまでして格を上げてラウリーレンは何がしたかったっていうんだ。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る