ラウリーレンへの裁き2

『お前達は人族だが、精霊と契約したのだからお前達も精霊王の庇護下にあるのと同じだ。だからお前達も精霊王を敬わなければならない。軽んじてはならない』


 俺達を囲む枝についた葉がサワサワと揺れながら、トレントキングの言葉を伝えて来る。

 この枝もトレントキングだからおかしくは無いのかもしれないが、本体から離れているのに声が聞こえるのは不思議な気がする。人で言えば手から声が聞こえる様なもんだよなぁ。

 って、俺何余計なこと考えてるんだ? 今は精霊王の話だろ、俺しっかりしろ。


「庇護下にあっても無くても精霊王を軽んじたり出来ないが」


 軽んじるなんて考えたりしないのは精霊達の長である精霊王を敬う気持ちというよりも、精霊王を神の様なものと考えているからだ。

 例えばイシュル神と実際に体面する機会があったとしても気軽に会話出来ると思えないのと同じだ。精霊王は気さくに話しかけてくれたが、こちらも同じ様にするのは難しい。


『庇護下にあっても無くても? お前は庇護されている、精霊の契約者は等しく精霊王が慈しむ子供だからな』


 精霊王が慈しむ子供と言われても、はいそうですかと素直に受け入れるのは難しい。そもそもポポと契約していてもそれで自分達が精霊王の庇護下に入れるとは全く思っていなかったんだから。

 神と同じ様な存在の庇護下に入った等言われてすぐに納得出来る奴なんて、そんなにいるもんじゃないだろう。


「実感はないが、本当にそうならありがたい話ではあるな」


 正直な気持ちを言えばこれしかない。

 庇護下にあるのを実感する日がくるかどうかすら分からないし、想像も難しい。

 そもそも俺達はポポと契約してから精霊を見られる様にはなったが、それまではギルが見られる様にしてくれたから精霊であるラウリーレンやポポの姿が見えていただけだし、元々精霊そのものは遠い存在だった。

 だからポポの契約者になってもその感覚は抜けていないから、俺達が精霊王の庇護下にあると言われてもイマイチしっくりこない。


『それは正しい。精霊王は軽んじていい方では無い。あの方の庇護下に入るということはとてもありがたい事なのだ。人族のお前達には特にな』

「そうなんだろうな」


 精霊王の枝に導かれた時はあっという間に辿り着いた気がするしラウリーレンも同じくらいの速さで連れていかれてしまった様に見えたんだが、俺達を連れたトレントキングの枝はゆるゆると進んでいく。

 トレントキングが黙ると周囲を見る余裕も出て来る。

 精霊の国の門はまだ少し先で、眼下に見えるのは鬱蒼とした森の中をゆっくりと移動していくトレントと植物系の魔物達の姿だ。

 毒々しい赤が目立っているのは、毒大百合だろう。この迷宮にもあれがいるのかと思うと、怖い様な戦ってみたい様な気持ちになる。

 毒大百合は遠くからでも分かる赤い色と特大な花の部分が特徴で、あの花に呑み込まれたら人等簡単に骨まで溶かされてしまう。森系の中級迷宮の上層でよく出現する魔物だが、毒の花粉はまき散らすし呑み込みという恐ろしい攻撃はあるしで狩るのが難しい魔物なんだ。


「炎?」


 迷宮を見下ろすなんて経験は貴重過ぎて、ついつい見入ってしまっていると精霊の国の反対の方角、森型の迷宮の入口部分の方向で攻撃魔法の様な炎が上がった。


『馬鹿だな、火の魔法使って逃げ道を自ら塞いでいる』

「あの辺りの魔物は火属性は苦手だろう」


 あれは運悪くこの迷宮に紛れ込んでしまった冒険者達だろうか。

 そもそもここは人の世界と精霊の世界の境界、それは吟遊詩人が吟じる英雄の物語に出て来る只人には到底辿りつけない場所、境い目の森と通称言われているところだから、ただの人しかいない冒険者のパーティーが気軽に来られるところじゃない。精霊と契約しているエルフがパーティーにいるなら別だが、そうでなければ精霊の気まぐれでこの森に飛ばされて来る位しかここに来る方法が無い。

 俺達は前回ギルに連れてこられたから迷宮の最奥に来られたけれど、そうでなければ運よく? 運悪く? この迷宮に来られたとしても延々森の中をさ迷い続けるしかなかっただろう。

 境い目の森はおとぎ話に出てくるような場所だが、精霊の気まぐれでこの森に連れてこられてエルフに救われたという話は、冒険者の間では真実として語られる話だ。


『火属性を苦手なものが多いから、火で攻撃されると岩の魔物が周囲を囲むのだ。あの辺りは精霊の好きな植物が多く育っている』

「この森は精霊の国の守りの為に迷宮があるんじゃないのか」


 迷宮がある意味なんて考えたこともないが、これだけ深い森で魔素も多いなら貴重な植物も生えているだろう。

 精霊の存在が魔素と深く関係しているのなら、精霊の国を囲う様に迷宮があるのも納得だ。


『迷宮があるから精霊の国がある。精霊の国かあるから迷宮も育つ』

「迷宮が育つ」

「迷宮って、育つものなんですか? ええと、育つというのはどういう事を言うんでしょうか。迷宮が生きているみたいに聞こえます」


 緊張した様な顔で口を閉ざしていたユーナが思わずといった感じで疑問を口にしる。


『迷宮が出来それ以上にならないものが殆どだが、魔素が多いところは育っていく。精霊は魔素が必要、精霊が生まれる為、育つ為に必要。この迷宮は魔物も精霊も育てる。精霊王がそうしたからここはそういうところになった』

「精霊王がそうしたから」

『そもそも人族や獣人だけではこの森の迷宮は正しい道を進めない』

「そう言われているな」


 人の世界と精霊の世界の境界、一応迷宮扱いとされてはいるが現実にあると知らない者も多い場所でもある。

 エルフがパーティーにいるなら別だが、そうでなければここの森に入っても守りの魔物の場所まで辿り着けないだろうし、人族だけのパーティーで外に無事に出られたなんて話は聞いたことがない。それだけ特殊な場所なんだ。


『お前達ならこの森を正しく進めるぞ』

「それはポポと契約したからか」

『そうだ。お前達は精霊の契約者だから、森を歩く権利がある。お前達なら森から人族の世界に帰ることも出来る。それが精霊王の庇護下に入るということだ』

「成程」

『お前達は人族には珍しく精霊と契約をしているだけじゃない。精霊の友愛という契約精霊が契約者を本当に信用し信頼し大切にしている証まで持っている』

「そういえば称号を得たな」


 あれ、なんか俺忘れてないか。


『人族でそれを得られるのは珍しい。それだけでもお前達は珍しい存在となっていると覚えて置いた方がいい』

「珍しい存在」

『ラウリーレンの契約者が話していないか。お前達は人族でありながら精霊魔法を覚えられる』


 ああ、そうだ。確かギルにそう言われた。

 ついでにポポの覚えている魔法をユーナが使える様になるかもとも言っていた気がする。つまり、ユーナが迷宮で魔物の気配が分かる様になったのがそれに当たるんだろう。

 自分がいつの間にか魔物の気配が分かる様になったし、盗賊の職業の技を覚えられる奴なら使える様になるから深く考えていなかったが、これはギルに聞いておかないといけないかもしれないな。


「別に精霊魔法を覚えたくてポポちゃんと契約したわけじゃありません」

『はっはっは。それはそうだろう。そんな目論見があるなら精霊は側に近づかないからな。ラウリーレンみたいに生まれ変わりを重ねて狡猾になっていれば別だろうがお前達の精霊は生まれたばかりの純粋な存在だ。純粋であるが故に悪意には敏感だから悪意を持つ人に近づく等しない』

「悪意を持つ人に近づかない。その割に……」


 何度もラウリーレンに騙されているんだが、それはラウリーレンの方が上手だったってことなんだろうか。



※※※※※※

ちょっと説明回っぽくなってしまいました。

話が長くなってきて、ヴィオ達が覚えた能力も増えてきたし登場人物も増えてきたのでそろそろ人物紹介ページも作りたいと考えています。

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