迷宮攻略とユーナの魔法6

「ギルさんに呆れられたのでちょっとおかしいことしているのかしらって思っていましたけれど、他の人に呆れられたとしても、ヴィオさんが大丈夫なら良いですよね」


 ユーナは、嬉しそうにそう言いながら歩いているが、俺を基準にしていいのかと焦る。

 俺は迷宮攻略出来れば満足で、だからこそ強くなりたいしその為なら殆どが大丈夫になってしまうんだが、いいのかな。


「収納は出来てるみたいだな」


 ユーナが狩った魔物の素材は、しっかりとユーナの収納に納められた様で魔物を狩った場所に辿り着いても何も落ちてはいなかった。

 これでユーナの収納の能力も距離に関係なく収納が出来ると証明された様なものだ。


「うーん、収納」

「どうした」

「私が狩ったものしか手で触れずに収納出来ないのかしらって思ったんです。ほら、さっき薬草は収納出来なかったでしょ?」

「そうだな。じゃあ、俺が狩ってみるか」


 狩ってみるかと言っても、周囲に魔物の気配がない。

 ここは階段からかなり離れた場所になるが、魔物の出方が少ない気がする。

 

「魔物いませんけれど、うーん?」


 ユーナが魔物の気配を探しても、俺と同じに見つけられないらしい。

 昨日一層で大量に魔物を狩ったせいだとは思えない。あの程度で魔物が出なくなるなら、俺が守りの魔物を大量に狩っていた時期なんて迷宮の魔物が全部消えてもおかしくなかった筈だからだ。


「他の奴が狩ったばかり、そんな筈無いよな」

「そんな筈無いというのは?」

「今朝は多分俺達が一番のりだろうからな」


 下級の迷宮でも泊まりで攻略を進めるパーティーはいるが、ここの迷宮は今のところそういうのはいない。

 ついでに言えば朝早くから入る奴らもいなくて、俺とユーナのパーティーは早い方に入る。

 朝早くは外で薬草採取や掃除などの依頼をして、終わってから迷宮に入るものが多いが一日入るだけの体力がないから早朝から入らないというのも多いらしい。


「皆早い時間から入るものだと思っていましたけど、違うんですね」

「依頼の受け方も迷宮の入り方も自分で考えていくものだからな」


 実力がついてくると俺みたいに迷宮に籠りっぱなしになるのと、適当な金額を稼いであとはのんびりするのとに分かれてくる。

 稼ぐだけなら中級迷宮の下層で十分だ、必死に命を掛けて上を目指す必要なんかない。


「そうですか、私は時間と体力が続く限り入って効率したいです。昨日みたいなのは嫌ですけどね」

「昨日のは駄目か」

「あれはヴィオさんしか頑張ってなかったって言うと思いますよ」


 でも魔物を狩ったのはユーナなんだが、あぁそう言えば昨日は走る俺に運ばれながらユーナは魔物を狩り素材を収納に仕舞っていた。

 最短距離で階段を目指していたし魔物との距離も近かったとはいえ、出現する魔物すべて攻撃魔法を外すことなく狩り続け、素材が落ちると即収納するというのは他の冒険者では絶対に出来ない方法だ。

 なにせ普通の魔法使いはあんなにポンポンと魔法を放てはしない。

 詠唱短縮を使ったとしても、あの勢いで魔法を使っていたらすぐに魔力切れを起こしてしまうだろう。

 

「ユーナが一人で魔物を狩り続けたんだから、頑張ったのはユーナだ。俺は運んだだけだぞ」

「……運んだだけって表現はちょっと嫌です。確かに運ばれましたけど」


 のんびりと話しながら階段を目指す。

 本当に魔物がいない。不自然な程いない。


「なあユーナ、ちょっとだけ試していいか」

「試す、何を試すんですか?」

「魔物が出なすぎるのが気になるんだ。魔物寄せの香使ってみていいか」

「……香、ですか」


 俺がトレントを狩った時を思い出したのかユーナは眉をひそめた後、むうとかううとか小さく声を出しつつも「私が攻撃します」と声を出した。


「ユーナが?」

「香、離れたところに置いて貰うことできますか」

「出来るが」

「今日は私が攻撃するってヴィオさん言ってましたよね。だから香で呼んだ魔物を狩るのも私です」

「怖いだろ」

「怖、怖いですけど、頑張るって決めたから逃げないです。でも囲まれたら怖いから離して香を……駄目ですか」


 怖いけど頑張ると言われて、駄目とは言えないだろう。

 まあ、仮にユーナの魔法が間に合わなくても俺が狩ればいいだけか。


「分かった。この層で出る魔物は分かってるな」

「はい。迷宮兎と迷宮狼と迷宮鼠です」

「そうだ。一度に複数出て来るがユーナの魔法の発動なら十分狩れるし、それでも間に合わなければ俺が狩るから。慌てるな、いいな」

「はい」


 マジックバッグから一番効果が短い魔物寄せの香を取り出す。


「香を離れたところで使えるかって話なんだが、実は俺の使い方が特殊で本当は火を点けた香を遠くに放って使うんだ。これは一番効果が短い物で大体三十数を数えた程度で火が消える。火を点けて煙が出始めたら魔物が出現し始める。いいか」

「は、はい」


 緊張した顔でユーナは俺に向かって頷いた後、深呼吸をした。


「よし、じゃあ火を点けるぞ」


 香に火を点け少し遠くに投げる。

 小石程度の重みがある香は草で編んだものに包まれている。火を点けるとすぐに香まで火が移るから火を点けたらすぐに投げなければいけない。

 いつもは足元に香を落とすだけだから、なんだかこうやって使うのは久しぶりだ。


「あ、魔物」

「魔物は呼べるのか」


 出現し始めた魔物をユーナは次々と狩っていく。

 風の魔法もユーナは素早く確実に使える様だ。

 でも、少し出現の間隔が離れている気がする。


「風の刃!」


 三十数える間程度の効果はすぐに切れて、魔物の出現も止まった。

 離れた場所に散らばる素材をユーナは息を切らしながら収納に仕舞う。


「魔石何個あったか分かるか」

「ええと、迷宮兎と迷宮鼠……迷宮狼は無かったですね。兎と鼠合わせて四十五個です。兎の毛皮が十枚程ありますね。あ、兎の肉も三つあります」


 かなり手際よく狩っていたというのに、四十五個の魔石では少ないし一番出やすい迷宮狼が一体も出なかったのもおかしい気がする。


「そうか。立て続けに出る魔物を狩って見てどうだった」

「迷宮兎と迷宮鼠は昨日で見慣れたので慌てずにすみましたが、初見の魔物は自信ありません。見た目怖いとちょっと……あの、ゴブリンの大群は嫌です」

「ああ」


 ゴブリンはユーナがこの世界に来てすぐに出会ってしまったらしいから、その恐怖が残っているんだろう。

 迷宮兎や迷宮鼠は体が大きく狂暴なだけで、普通の兎や鼠と見た目は変わらないがゴブリンは見た目が悪すぎる。


「ああ、じゃないです。ヴィオさんには何でもないのかもしれませんが、ゴブリンのあの見た目って酷すぎませんか。緑だし怖いし顔が凶悪だし怖いし声も変で怖いし」


 結局怖いとしか言ってないユーナについ笑いそうになって、なんとか堪える。

 本気で怖がり嫌がっているユーナを笑うのは、可哀相だ。

 でも緑で怖いって、何なんだ。可愛すぎだろ。


「ヴィオさん」

「……なんだ、落ち着いたら進むぞ」


 笑いたいのを誤魔化して、先に進もうと歩き始める。


「ヴィオさん。今笑いそうになってませんでしたか」

「……いや」


 なってたが、それは認められない。


「ヴィオさん、顔がそういう顔でした。私本気で怖いんですよ」

「分かってるよ」


 でも泣きながらでも逃げずに狩るんだろうなって思う。

 泣くし騒ぐだろうが、逃げないだろう。


「分かってます? 本当に? じゃあなんで笑うんですか」

「いや、あの笑ってないぞ」

「うーーそーーでーーすうぅ。笑ってましたぁ。もおっ」

「悪い悪い。ほら、膨れてないで行くぞ」


 拗ねて膨れているユーナを置いて歩き始める。

 魔物寄せを使うと効果が切れても比較的魔物が発現しやすいものなんだが、そういう気配すらない。

 これは何なんだ、何かがおかしい。


「もお、ヴィオさん酷い」


 まだ拗ねているユーナを連れて階段に向かい、次の層へと上がる。

 十二層、十三層、十四層、どの層も魔物寄せの香を使えば魔物は出て来るがそうでなければ殆ど魔物が出ない。

 不自然な程魔物が出てこない迷宮の階段を上り、俺達は十五層に辿り着いた。


※※※※※※

レビューありがとうございます。

鈍感ヴィオさんの言葉につい笑ってしまいました。


 


 

 



 

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