ユーナの秘密3

「……ヤロヨーズというのは、私がヴィオさんと出会った町ですよね」


 ヤロヨーズの町に指を置きながら、ユーナは眉をひそめている。


「そうだ、ユーナが大丈夫ならあの町の迷宮に行くという手もある」

「私が大丈夫?」


 言っていいのかどうか、悩みながらそれでも話さないわけにはいかず気持ちを決める。


「ユーナを追いかけていた奴らがあの町にいるだろ。あの町の迷宮はここより大きいから攻略するには最短でも数日かかる。これは俺がユーナを抱えて走った場合でそうでなければ一ヶ月近く掛かるかもしれないしもっと掛かるかもしれない。この町の迷宮は守りの魔物を狩れる奴がそもそも少ないから俺達の都合で独占出来るが、あっちはそうじゃないからな。十層毎の守りの魔物を狩って文字が出るかどうかの確認だけでも時間が掛かるだろう」

「つまり、私があの町であの人達に見つかるかもしれないというわけですね」

「あれから一ヶ月以上経っているから、まだ探しているとは限らないがヤロヨーズにいる間はそれなりに注意していなければならないだろう」


 この町だってヤロヨーズからはそう遠くない、あいつらが絶対に来ないとは言えないから、ユーナを一人にする事は殆どしなかった。

 けれどそれが出来たのは、この町のギルドにギルとライが居てユーナが見習いだったから出来たことだ。

 他の町では俺が単独行動しようとすれば、ユーナは一人になる。

 ずっと宿にいろとは言えないし、常に一緒に行動するなんて無理だろう。


「注意していれば?」

「まあ、どこの町でも悪い奴はいる。注意するというのはどこに行っても同じだ。女性が路地裏を安心して一人歩き出来る場所は無いと覚えておくべきだし、人が多い場所ではスリが居て当たり前と考えて置いた方がいい」

「そんなに危ないんですね。そうですよね、だからヴィオさんいつも手を繋いでくれていたんですものね」


 まあ、それはユーナが最初の頃不安そうにしていたからというのもあるんだが、俺が側にいることで周囲を威嚇していたというのは間違いない。


「ヤロヨーズだから余計に危ないわけではない、ですか?」

「ああ、だからユーナがまずヤロヨーズがいいというのであれば、この町の迷宮攻略が終わったら、次をヤロヨーズにしてもいいと思っている」

「……ヤロヨーズに行くのは不安です。あの人達とのこともありますけれど、なんていうか、怖くて」


 怖いというのは、あいつらがいるからじゃないのか? ユーナの様子を観察しながら続きを促す。


「ヴィオさんが、どうしてもヤロヨーズの町の迷宮を先に確認したいという理由が無いのであれば、他の町の迷宮が良いというのは我儘になりますか」

「いいや、そもそも他の迷宮にもこういう文字があるのかどうかも分からない。だからどこから始めても構わない。強いて順番を決めるというなら国の北側に向かうのを優先したいという程度だな。ユーナが入れるのは下級の迷宮のみだしな」


 何故か下級迷宮はこの国の北側に多い。

 だが最北の町にある迷宮は、真冬は町に向かうことすら難しいんだ。


「北側ですか」

「まだ夏の終わり位だが、すぐに寒くなってくる。そうなると雪が降るからな。北のこの辺りは豪雪地帯と言われている程降るんだ。とても移動出来ない。だが北側は下級迷宮が沢山あるんだよ」

「そんなに降るんですか、それじゃ移動が大変ですね」

「移動もだが、食料品を調達するのも難しいから宿もやっていない場所もある。そもそもこの辺りは国境を守る砦の奴らが訓練の為に迷宮に入っているのが主だから宿がそもそも少ないんだよ」


 この町に行ったのはだいぶ昔だが、砦が無くなるわけはないし、迷宮が無くなったとも聞かないから状況は変わらないだろう。


「一般の冒険者も入れたりはする?」

「そうだな、隣国との関係が悪くなっているとは聞かないから、制限はされていない筈だ」

「隣国の関係、そういうのもあるんですね」

「まあ、国を広げたいという思惑はあるんだろうが、この辺りはどちらも冬が厳しいから奪ってもそれ程旨味があるわけじゃないから、心配する程じゃない」

「どんな国なんですか」

「獣人国だな。獣人は見たことないか」


 リナは確か驚いていた覚えがある。

 けれど獣人もエルフもドワーフも居ないといいながら、どういう奴らなのかは知ってたのは不思議だった。

 でも、エルフは肉を食わないとか間違った知識を持っていたんだよなあ。


「獣人、分からないです」

「半分人で半分動物、だから獣人と言われている。大きな違いは獣体といって完全に同ブウと同じ姿になれる。獣人族は種類が多く鳥や猫犬、狼、竜等はこの国にも住んでいるから、今後会うこともあるだろう」

「半分人、半分動物。え、猫って例えば私の姿で頭の上に猫耳があって、シッポもあるみたいな感じですか?」


 なんだ、知ってたのか。


「よく知ってるな。会ったことあるのか」

「いえ、漫画で突然猫耳が出来たという話を読んだことがあるだけで、向こうの世界にはいなかったですし。でもそうですよね、ギルさんはエルフですし、ライさんはドワーフですし」

「エルフもドワーフもいなかったんだろう」

「はい。でも、ファンタジー物の映画とかに出てくるので、あ、映画はお芝居、お芝居はありますか?」

「あるぞ」

「あるんですね。そのお芝居を何度も見られるように記録していて大きな画面に映すものなんです。漫画は紙に絵で物語を描いてあるものです。それが私のいた世界の娯楽なんです」


 映画が何なのか良く分からないが、つまりは作り物ということか。

 元々いないものを想像で作り出すとは、凄い世界だな。


「精霊や魔法というのも映画や漫画に出てくる時があったんです。私はあまり詳しくありませんが、そういうお話が好きな子も沢山いたんですよ」

「そうか」


 魔法がない世界があるというのは、俺には驚きなんだがユーナは逆なんだよな。

 

「話がそれてしまいましたね。獣人の国が隣の国なんですね」

「あぁ、向こうにも迷宮があるからこの国で足りなければ向こうに行ってもいいな」

「はい。じゃあ優先順位は北方向、こっちですね」

「今言った国境近くの迷宮は、ここからだと馬車で三ヶ月以上掛かる。雪が多く降るのはこの辺りからだここに山があって、そこを堺に雪が酷くなるんだ。この山までは二ヶ月は掛かるかな」


 二ヶ月というのは、馬車に延々乗り続け移動した場合の話だ。

 山まで行く間、迷宮が幾つもあるからそれを攻略しつつ行くなら半年以上掛かるだろう。

 冬の間迷宮を攻略しながら移動し、山の手前にある迷宮で越冬し、雪解け後山越え出来るようになったら移動するのが理想だ。


「二ヶ月、遠いんですね」

「まあな、馬車はそんなに早く走らせられないからな。どうしても時間が掛かる」

「分かりました。じゃあ、この町で迷宮に入りながら旅の準備をしないといけないですね」

「そうだな、ユーナがよく料理に使う野菜もそろそろ手に入らなくなるから、買いだめするなら今だろうな」


 今はまだ辛うじてトマトなんかも手に入るが、そろそろ終わりの時期だ。


「え、野菜が手に入らなくなるというのは?」

「トマトとかよく使ってるだろう。あれは暑い時期に採れる野菜だから」

「ええっ。あ、そうかハウスがないんですね。そうすると何を買わないといけないのかしら」


 ユーナは驚いた後一人で納得し、考え込み始めた。

 ユーナの世界ではどんな野菜も季節関係なく収穫できるのか? 

 それこそ魔法じゃないのか。

 俺とユーナの生きてきた世界の違いに、今更ながら驚いていたんだ。


※※※※※※※※※※※※※※※

ユーナはゲームとかラノベを読んだことがなく、漫画も学園恋愛物を読む程度。

後はディズ○ーのアニメ位。

猫耳は、漫画のネタやハロウィンのコスプレのイメージで話しています。

エルフや魔法が出てくる映画というのは、ロード・オブ・ザ・○ングを子供の頃に見たな位の認識です。

リナは、ゲームもラノベもアニメもそれなりに好きな高校生だったので、異世界転移したのも早々に理解して帰れないんだろうなあと諦めるのも早かったわけです。

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