帰ってからの俺達は

「ユーナ、どこかで食事して帰ろう。何が食べたい? 向こうで色々あった上に最後がチャールズの相手で疲れたろ」


 ギルドに戻ると執務室にチャールズが待っていた。

 精霊の国に入った時空はまだ明るかったが、ギルの執務室は灯りの魔道具が煌々と室内を照らしていた。

 冒険者ギルドだから魔道具に使用する魔石はそれこそ売る程あるのかもしれないし、ギル自身が魔力を補充しているのかもしれないがそれにしても無駄に明るすぎるんじゃないかと思う。

 一度能力鑑定の魔道具を取りに戻った時、ギルはチャールズにトレントの買い取りの件を話していた様でトレントの上位品を見られると知ったチャールズは興奮した顔で薬草選別をしながら待っていたというわけだ。


「私は大丈夫です。チャールズさんあんなに元気な方だって知らなかったので驚きましたけれど、本で読んだだけの素材を間近で見られたのは楽しかったです」

「チャールズは珍しい素材を鑑定するのが好きなんだよ。俺が出したものは全部買い取りして良いってギルの許可もあったみたいだから、それで余計に浮かれてたんだろ」


 最初に一つ目熊の上位品を大量に持ち込んだ時よりも、さっきのチャールズは浮かれて興奮しまくっていた。

 買い取りしたとしてもチャールズの物になるわけではなく、ただ鑑定するというだけなのにあんなに楽しそうにするものなんだろうかと不思議な気持ちになるが、あれがチャールズの幸せなんだろう。


「そうなんですね。チャールズさん楽しい方なんですね」

「悪い奴ではないな」

「ふふふ、ヴィオさんも楽しそうでしたよ」

「ん?」

「チャールズさんと素材の話をしてる時、楽しそうでした。私の父と兄は釣りが趣味なんですけれど、沢山釣れた時とかさっきのヴィオさんみたいに話していたなって思い出して、なんだか懐かしくなっちゃいました」


 興奮したチャールズを相手して買い取りをして貰った俺達は、ギルドを出てすっかり日が暮れた町を宿に向かって歩いていた。

 繋いだ手をぶらぶらと小さく振りながら、ユーナは笑顔で話すけれど俺はどんな顔して返事をしたらいいのか内心困りながら、繋いだ手をぎゅっと握った。


「私もヴィオさんとそういう会話出来る様になりたいなあ」

「そういう会話?」

「釣りの楽しさって良く分からなくて、父と兄の会話は楽しそうだったけれど私はそれより魚を料理する方がいいって思って、二人の会話は半分聞き流してたんです。家族旅行でも二人は釣りしてて、私は母とそれを見てたり二人で違う事してたり。釣りをしてみないかって言われても、餌の虫を触るのが嫌で逃げ回ってばかりだったんですよ。そのうちねって言いながら、一度もまともに付き合った事なくて」


 ユーナの声が段々小さくなっていく。

 この世界にどうして来てしまったのか、そんなの俺にもユーナにも分からない。

 ずっと続く筈だった、当たり前の日常は急に奪われて家族とも離れてしまった。


「一回位一緒に釣りをすれば良かったです」

「ユーナ」

「でも、ヴィオさんとはこれからいくらでも会話出来ますよね。迷宮行って魔物を狩って、今日は上手く狩れたねとか、ここ駄目だったなとか」

「そうだな。ユーナ攻撃魔法使える様になったもんな。あれだけ出来れば下級迷宮の魔物、狩り放題だ」


 ユーナの話を、俺は無理矢理明るい方へ変える。


「狩り放題? ふふ、楽しみです」

「ポポが戻ってきたら、ユーナが魔物を狩るのが上手くなってて驚くかもしれないぞ」

「ユーナ、凄いヨ。ポポ驚いたヨって言ってくれるかしら」

「ああ、きっとパタパタ飛びながら大喜びするさ」


 俺は気が利いた言葉の一つも言ってやれないけれど、本当はこんな時どんな風に言ってやるのが良いんだろう。

 リナにも言われてたなあ、俺は優しいけれど優しくないって。

 呆れた顔して言われても、俺はそういうもんだと開き直っていたんだ。


「ヴィオさん、私が魔物狩るの上手くなったら頑張ったなって褒めてくれますか」

「勿論」

「ふふ。ヴィオさん、今日は私が自分で迷宮の魔物を狩って初めて収入を得た日ですよ」


 立ち止まりユーナは俺の顔を見上げる。


「うん、頑張ったな。迷宮で初めて狩った魔物がトレントなんて凄いぞ。魔法も上手に使えてたな」

「それだけですか?」

「ん?」


 話の流れで褒めれば、ユーナは少し不満そうにした後ずいっと頭を俺に向けた。

 ん? 頭?


「ここは?」

「ん?」

「え、わざとですか?」


 じとりと上目遣いをした後、ユーナは「褒めるの足りませんよ」と俺の手を取り自分の頭に導いた。


「ぷっ」

「ヴィオさん、私の頭すぐに撫でるからこれが無いと物足りないです」


 なんというか耳が赤くなっているユーナを見下ろしながら、頭を撫でる。

 片手は繋いだまま、もう片方で頭を撫でる。

 道の真ん中で何をやってんだ、俺達は。

 あちこちから視線を感じるのは、気の所為なんかじゃない。何せギルドを出たばかり冒険者達も町を歩く奴らもチラホラいるんだから。


「ククク。恥ずかしいなら催促するなよ」

「ヴィオさんがちゃんと褒めてくれないから悪いんですよぉ」


 頭を撫でていると、今度は拗ねた風に手を払い除けた。


「お腹すきました。早く宿に帰りましょ」

「食べていかないのか」

「沢山作りたい気分なんです、時間遅いから調理場使わせて貰えなかったら作り置きになっちゃいますけど」


 繋いでいる手を引っ張って、ユーナは耳を赤くしたまま歩き出す。


「ユーナが作るのは何でも美味いから、作り置きでも嬉しいよ」

「そう言われると嬉しいです」


 家族の話をしてしんみりしかけた空気を変えようとして、急に褒めろなんて言い出したんだろうか。ユーナらしくないおねだりだったな。


「ユーナ」

「はい」

「今日は頑張ったな。怖い思いもさせたが魔物を自分で狩ったユーナはもう立派な冒険者だ」


 繋いでいる手と反対の手を伸ばして、ユーナの頭を撫でて手を離す。


「冒険者」

「あぁ、旅をする身分証の為の登録のつもりだったんだが、ユーナはちゃんと自分で考えて努力して見習いから下級になれた」


 チャールズがユーナの下級のギルドカードを用意して待っていた。

 下級からはパーティーが組める。

 ギルドカードには、俺とパーティーを組んだ旨が記してあった。


「俺とユーナ、二人だけのパーティーだがこれからよろしくな」

「ポポちゃんもですよ」

「そうだな二人と一羽だ。俺達に似合うパーティーの名前考えないとな」


 手を繋ぎ町を歩きながら俺達は、思いつくまま色んな名前を言い合ったんだ。

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