ポポと離れる1
「お待たせして申し訳ありませんでした」
間が持たない。一人気まずくなっていた俺は、戻って来たギルに救われた気持ちになっていた。
「おいギルどこに行ってたんだ。あれ? ラウリーレンの檻はどうした」
「片羽を精霊の国に連れていくとややこしい事になりますので、ポポ優先にするためにラウリーレンはギルドの執務室に置いてきました」
ギルの答えに、ラウリーレンを置いてくる為にギルドに戻っていたのかと納得する。
それなら一言言っておいて欲しかった気がするが、まあ今更か。
少しもやもやしながら、ギルの肩にいるポポに目を向けると何も考えてなさそうな顔で首を傾げていた。
「ヴィオ、どうしたノ」
「ポポ、もう元気なんだな」
「ポポ、元気」
手を差し出すとふわふわと飛んで来て、俺の指先にとまる。
しっかりと指先に掴まったポポの、今まで感じたことの無い爪の硬さに戸惑いながらもこれが生まれ変わりということなのかと実感する。
全部がふわふわとしていた以前とは違う、生きている鳥と同じ硬さだ。
「ヴィオ、ユーナ、あなた達の能力を確認しましょう」
「それ、今必要なのか?」
「ええ、これから精霊王のところにポポを連れていきます。その前に一応調べておきたいのです」
「何のために?」
「ポポが能力全部を把握出来ていないのかもしれないと思いギルドの魔道具でポポを調べてきましたが、ポポが言っている以上の能力はありませんでした。ですが、爪やくちばしが硬くなる程の力を持っているならもう少し能力も増えていていいはずなのです」
ギルの説明に俺とユーナは顔を見合わせる。
力が弱いと言われていたポポに能力が増えただけで凄いと思っていたんだが、どうやら違うらしい。
だが、ポポの能力と俺達の能力に何か意味があるんだろうか。
「精霊と契約者の絆が深いと稀ではありますが、自分の能力を与えることがあるんですよ。本来自分が持つものを契約者の能力にしてしまうのです」
「精霊の能力を、契約者に」
「ええ、ポポは今まで生まれ変わりをしたことが無い初めて世に誕生した精霊ですから力はとても弱いのです。形を取り会話が出来るのがあり得ないのですが、逆を言えば生まれたばかりの精霊としてはポポはまだ力がある方だと言えます」
力が弱いというのは、ラウリーレンの様に人の形をした精霊を基準とした場合ということなのか。
「先程の件でポポは一度目の精霊の生を終わることなく生まれ変わりの様な経験を得ました。そして生まれ変わりの数だけ能力を得たのです」
「それは分かった」
だが、ギルの予想を超えた数分の生まれ変わりをポポはしていて、ポポは本物の鳥の様な体を持てるまでになったというわけだ。
「ポポの様な体になるには何回生まれ変わらないといけないんだ」
「そうですね。本来であれば四、五回は生まれ変わらないといけない筈です。力が弱い精霊の一生は短いですから四、五回の生まれ変わりを全部足しても人の一生程度の長さでしかありませんが。生まれてから一ヶ月程度のポポがその長さを生きただけの力を付けたと考えれば凄いことです」
人の一生程度の長さと言われると複雑な気持ちになるが、ギルは人族の何倍もの年月を生きる長命種のエルフだから人族の一生も短く感じるんだろう。
「じゃあユーナにポポの能力が与えられている可能性があるんだな」
「ユーナだけでなく、ヴィオもですが。可能性はユーナの方が高いでしょうね。どちらにも能力が与えられていないのであれば、生まれ変わりの回数関係なしにポポは本物の体を得たということになりますが」
「そういう場合もあるのか」
「ええ。ユーナ能力を見せて頂いてもいいですか。隠蔽の魔法は解除していてくださいね」
「はい」
ユーナは一度低い声で何やら詠唱した後、緊張した顔でギルが差し出した魔道具に触れた。
隠蔽の魔法で、ユーナの能力収納等まで現れていないだろうか、それだけが心配だが隠蔽前から魔道具には表示されていなかったから大丈夫かもしれない。
「ふうむ、この辺りは元々覚えていたものですね。精霊の能力らしきものは、ありましたね。これです、見えますか」
ギルが指さした場所には、精霊の光、精霊の棘という能力が増えていて、精霊の友愛という称号も得ていた。
「称号」
「精霊の友愛というのは、契約精霊との絆の深さを表すものです。これがあるからポポの能力を得たのでしょう。精霊の光は死霊や屍系の魔物に効果的な魔法です。これで攻撃すると弱い死霊等はすぐに消えます。精霊の棘は植物の棘の様な物で攻撃する魔法です。熟練度が上がると精霊の茨鞭という魔法を覚えるかもしれませんね」
「人族は精霊魔法の熟練度は上がりにくいんじゃないのか?」
「称号の精霊の友愛を得たのであれば別です。上手くすればユーナはこれから精霊魔法を覚えていけるかもしれませんよ。まあ、努力次第ではあるでしょうが」
精霊の友愛ってのはそんなに凄いものなのか。
「精霊の友愛っていうのは」
「契約精霊がそれだけあなたを信用し、信頼し、大切に思っているということです。そしてあなたも同じく精霊を大切に思っているということですね。では、ヴィオの能力も見てみましょうか」
「俺は無いだろ」
ポポが大切だとしても、ユーナ程ポポを思っているわけじゃない。
それは露骨に称号に出そうな気がする。
「いいから早く」
「はいはい」
ギルに急かされて魔道具に触れる。
「同じく精霊の友愛の称号があります……ふ」
「何笑ってるんだ」
「いえ、守りの魔物を狩り過ぎましたね。称号が出ていますよ」
「は?」
「ほら、ここ。精霊の友愛の前に守護者を討破する者という称号がありますよ」
「なんだって」
守護者というのは、守りの魔物のことなのか?
だが、たかだか一つ目熊とオークキングを大量に狩った程度で。
いや、トレントも狩ったか。
「ああ、守りの魔物を狩りすぎたせいではなく、この迷宮のトレントキングを一人で狩ったからかもしれないですね」
「どういうことだ」
「トレントキングが中級迷宮の守りの魔物の中で一番強敵だからです」
「そ、そんな筈」
だとしたら俺は、中級迷宮を一人で攻略したのと同じになってしまう。
いや、トレントも守りの魔物だったんだから、意味が違うのか。
「勘違いしてはいけません。迷宮の攻略は守りの魔物を狩るだけでは駄目なのですよ。下層から一層、一層を確実に上り十層毎にいる守りの魔物を狩る。そうしてすべての層を攻略して初めて完全攻略と言えるのです。ヴィオは境い目の森の最上層しか攻略していませんから、転移門もここにしか解放されていません。もっともこの森の転移門の存在を知っている人族などいませんが」
そうか、そうだよな、俺はギルの魔法でこの森の最奥に来ただけで迷宮の入り口から入って攻略したわけじゃない。
迷宮攻略し続けて、最後に守りの魔物と戦ったのとはわけが違う。
「それでもトレントをあれだけ狩った後にトレントキングと戦い勝ったのですから、それは十分誇っていいと思いますけれどね。それでこその称号なのですから」
「だが、俺はズルしてここに来て戦った様なもんだ」
「拗ねないで下さい。そもそもトレントを倒してもトレントキングは簡単には出てこないのですよ。連続討伐を千体以上して初めて出て来る守りの魔物なんです。分かりますか? トレントを続けて千体あなたは狩ったと言う事です。冒険者泣かせのトレントの攻撃を避け続け上位品を得ているのも凄ければ、トレントキングを呼び出したのも凄い事なんです」
凄いと言われてもなあ。
トレントキングは確かに狩るのが大変だったのは事実だ。
トレントを狩りまくって体力も精神力も限界だったところに出てきたんだから、辛かったしあれを一人で狩れたのは嬉しかったが、でも……。
「変な顔してどうしました」
「いや、どうせなら最初からこの迷宮を攻略したかったなって思ってさ」
そしなきゃ、攻略したって言えないのは事実だし、こうなると他の守りの魔物が何なのかも気になるし、攻略そのものも気になる。なにせ人が迷って当たり前の場所なのだ。
「……あなたって人は、根っからの冒険者なんですね」
「……そうなのかもしれない」
入ったことが無い迷宮なら入りたいし、それが攻略していない場所なら尚更だ。
それが冒険者だと言えば、そうなんだろう。
俺は骨の髄まで冒険者なんだ。
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