ポポと離れる2

「まあ、中級迷宮に入る冒険者の殆どはヴィオみたいな感じなんでしょうね」


 ギルがどうしようもない人間を見る様な目で俺を見ながら、大袈裟にため息を付き魔道具を指さす。


「あなたにも能力が増えていますよ。これは癒しの泉と同様周囲の魔素を使って発動するものですね。これはヴィオが剣で攻撃する際に魔物の魔力を生命力に変化させて吸収できるものですね」


 言われて魔道具を覗き込むと、精霊の爪というものが増えていた。


「爪」


 ユーナが覚えたのは精霊の棘だったか、ポポは防御系の能力しかないとギルが以前言っていた覚えがあるんだが、精霊の棘も精霊の爪も防御なのか?


「どうしました」

「これは防御系に入るのか?」

「入りませんね。ああ、最初のポポの能力と系統が違うと考えていますか? その疑問は正しいですよ。生まれ変わりというのは同じ系統を引き継いで能力が向上していく場合もありますし、他の系統を覚えていく場合もあるのです。ポポは後者なのでしょうね」

「へえ、そうすると今後ポポが攻撃魔法を覚える可能性もあるのか」

「ええ。ポポの魔力の器もかなり大きくなっていました。ユーナとヴィオは日に三回ポポに食事をさせていたようですが、以前は器以上与えていたことになりますが今はそれでも足りないかもしれません」

「そうなのか」

「ええ。でも精霊王のところで最終契約の儀式をしてくればポポも魔素から必要な魔力を得ることも出来る様になりますから、二人の負担はそれほど増えはしないと思いますよ」


 体の大きさは変わらず、ただ質感……と言えばいいんだろうか、が変わっただけに見えるポポは内面はかなり成長しているらしい。

 力が弱くてすぐに死にそうになるよりも、ある程度協力出来た方がありがたいが今までパーティーに従魔師がいたことはないし、それを考えると連携は慣れるまで難しいのかもしれない。


「ヴィオ、精霊の爪の使い方を教えましょう。能力は意識出来ますか」

「ん、そうだな。うん分かるな」


 能力はあると分かると意識が出来る。

 それまでは意識してもぼんやり何か増えた様にしか分からないし、あるだろうと思わなければ能力が増えたことすら気が付かない。

 この辺りは不思議だと思う。


「では剣を構えて、その能力を剣に纏わせる様に。剣士の能力でそういうのがありますよね」

「ああ、衝撃波は剣に纏わせて使う能力だ。そういう感じに使えばいいんだな」

「ええ。魔物除けの魔道具を解除しますから、トレントが現れたらその能力を剣に纏わせたまま狩ってください」


 剣を構えて精霊の爪を発動する。

 衝撃波とは違う、周囲の空気が一瞬揺れた後剣に緑色の膜の様な物が見えた。


「そうです。すぐに使いこなせそうですね。では魔道具を切ります」


 周囲に置かれていた魔道具を集め、ギルが魔道具の効果を解除する。

 

「ああ、現れたな。普通に狩ればいいんだな」

「ええ。精霊の爪は発動していますから、そのまま攻撃してください」

「分かった」


 返事をして現れたトレントに駆け寄り、一振りで屠る。


「軽い?」

「どうですか」

「剣の感覚がかなり違うな、軽すぎる」

「軽い?」

「トレントの堅い幹が、もろくなった様に感じる程なんだがあれは何なんだ」


 トレントの魔力量の多さが幹を堅くし攻撃から守っているから、安物の剣なら折れる可能性もあるというのに、この魔法を使えばゴブリンのボロボロの剣でもトレントを狩れそうだ。


「精霊の爪は魔物の魔力を奪いますから、トレントが自身の守りに使っている魔力を奪った為に簡単に狩れる様になったのでしょう」

「そうか、使い時を考えないとな」


 それは、普段は使わない方がいいってことか。

 こんなのに慣れたら、使えなくなった時に狩れなくなるかもしれない。


「あの、ギルさん。私の魔法は」

「そうですねえ。ユーナも使ってみますか。ユーナは精霊の光と精霊の棘でしたね。詠唱は頭に浮かびますか」

「いいえ。でも能力の名前だけで使えそうな気がします」


 無詠唱や詠唱短縮は、使う魔法の熟練度が上がるか本人が詠唱短縮や無詠唱の能力を得ていれば使える様になるのだと、パーティーの仲間だったトリアが言っていたことがある。トリアはどちらも使えなかったが詠唱短縮できる様になるのが目標だと言っていた覚えがある。


「そうですか、ここに死霊系の魔物はいませんが効果が落ちるだけで普通の魔物にも使えなくはありません。まず見本を見せましょう」

「お願いします」


 再度現れたトレントに右手を向けると、ギルが「精霊の光」と言い放つ。

 ギルが放った眩しい光がトレントの幹に当たると、トレントは大枝を揺すり暴れ始めた。


「次はもう一つの技です。精霊の棘」


 ギルは冷静に続けて魔法を放つ。

 精霊の棘は、トレントの周りに大人の腕位の太さのものが何本も浮かび上がったかと思うとトレントの堅い幹に容赦なく突き刺さるというものだった。

 あまりトレントには効いていない気がするが、どうなんだろう。


「どちらもトレント向きの魔法ではありませんね。トレントですとそうですね。精霊魔法ではありませんが雷属性の雷鳴とか。雷鳴!」

「あっ」


 ギルは何の苦も感じさせずに魔法を放つから忘れそうになるが、トレントの攻撃は素早いし攻撃範囲も広い。

 トリアが一人でトレントを狩ろうとした場合、トレントの攻撃に詠唱阻止され魔法を放てず終わりそうだ。


「凄いです。雷鳴、あんなに大きな雷が出来るものなのですか」

「魔力の込め方次第ですね。さあ、トレントの動きが止まりましたよ。ユーナ練習してご覧なさい」

「は、はい。精霊の光っ!!」


 ユーナは両手を前に突き出し精霊の光を放った。


「眩しいっ。ユーナ眩しいヨ」

 ユーナの肩に乗ったままのポポが、ぱたぱたと翼を羽ばたかせる。

 ポポじゃないが眩しかった、眩しすぎた。

 ギルの時よりも眩しい光がトレントを包みこんで、消えたんだ。


「ユーナ、続けて」

「精霊の棘!! 雷鳴っ!!」


 今度はギルの時よりも多い数の棘がトレントに突き刺さり、激しい雷がトレントを襲う。


「終わりですね。トレントを無事に狩れましたよ。ユーナ、初めて迷宮で狩った魔物がトレントなんて星の数ほど冒険者はいてもユーナくらいのものではありませんか」

「そうだな」

「少し魔力を込め過ぎですが、制御出来ているのなら十分でしょう。ヴィオ魔石をユーナに」


 にこやかにユーナを評価するギルに促され、ユーナの手を引きトレントのところまで歩く。


「ヴィオさん、私出来ました。魔物、ギルさんに手伝って貰ってですけれど、ちゃんと私の魔法でトレントを倒せました」

「ああ、凄かった。もう、立派な冒険者だ」


 倒れたトレントを見下ろし、動かないのを確認する。

 トレントの側に魔石が落ちていた。透明なトレントの魔石はかなり大きかった。

 このトレントは守りの魔物だ、つまりユーナは迷宮の初討伐で守りの魔物を狩ったことになるんだよな。こんなのどんな冒険者でも出来ないだろう。


「ほら、これがユーナが狩ったトレントの魔石だ。普通パーティーを組んでいない者と共闘した場合は素材をどうするか話し合って決めるものだが、初討伐者がいる場合は魔石はそいつの物になるんだ」

「初討伐の魔石、お守り?」

 

 ユーナに魔石を手渡すと、両手でそれを受け取った。

 ユーナの手にはトレントの魔石はかなり大きく見える。


「そうだ、初討伐の魔石は冒険者の守りとして取っておく奴が多いんだ」

「ヴィオ、まじないをしてやらないのですか」

「俺か」


 このまじない、力が強いものの方がいいとされているし、ギルは精霊魔法の遣い手としてユーナの師匠みたいなもんなんだから、ギルの方がいいんじゃないのか?


「おまじない、ですか」

「ええ、お守りの魔石に無事を祈るまじないをするんですよ」


 ギルは俺にさせたいらしく、詳しくユーナに説明しない。

 

「ヴィオさん、お願いしてもいいですか」

「俺でいいのか」

「ヴィオさんがいいです」


 ユーナに魔石を差し出され、仕方なく受け取ると両手で包み込む様にして持つ。


「本当にいいんだな」

「はい、お願いします」

「分かった」


 返事をして、両手を額につけ倒れたトレントに向かい目を閉じる。


「この石を身に着ける者、強くあれ、逞しくあれ、優しくあれ。その身を守り愛するものを守るため、心を強く逞しく育てよ。他者の痛みを知るための思いやりと優しさを育て続けよ。慈愛の神イシュル神よ。彼はあなたの愛しき子の一人、その身と心を幾久しく守りたまえ」


 俺の僅かな魔力を流すと、何故か他のところからも魔力が流れた様な気がした。


「ありがとうございます。ヴィオさん。大切にします」

「まあ、気休め程度、色が変わってる?」


 透明だった筈の魔石は、美しい緑色の魔石に変わっていたんだ。

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