迷宮攻略準備、ユーナの魔法の腕前は1
「ユーナ、ポポを出しなさいっ! 痛っ!」
薬草採取からギルドに戻ると、チャールズにギルが呼んでいると言われて執務室にやって来たんだ。
扉を開けた途端目の前にを現れたラウリーレンをついはたき落としてしまうと、いつもの様にラウリーレンから抗議の声が上がった。
「ちょっと、ヴィオあんた毎回毎回乱暴過ぎだと思わないのっ! このラウリーレン様に向かって、何をす、痛たたたっ! ギルーーっ!」
「ラウリーレン、反省は?」
「ごめんなさいいいっ。檻はいやあっ!」
相変わらずギルはラウリーレンに厳しい。
ラウリーレンの小さな体を両手で鷲掴みにし、空中に出した檻に入れようとしている。
「ギル、俺達を呼んだのはラウリーレンの用事なのか?」
「そうよっ! 間抜けなポポへ指導してあげてるんだから、少しは敬いなさいよねっ!!」
ポポに魔法の勉強をさせてくれているらしいんだが、こんな態度で真面目に教えてくれているのかと疑いたくなる。
「ギル、ポポはどの程度魔法を使える様になったか知ってるか?」
ぎゃあぎゃあ騒いでいるラウリーレンに聞いても話が進まないので、静かに怒っているギルに尋ねると困ったような顔に変わった。
「聞いて驚きなさっ! うむっううぅっ」
ラウリーレンの口を右手で塞ぎながら、ギルはラウリーレンを檻に入れてしまった。
静かにはなるが、この扱いでいいんだろうかと悩んでしまう。
「ラウリーレンは一応真面目に教えてはいる様ですが、何せポポは生まれたばかりですから力は強くありません。癒しの風という回復魔法と精霊の輪という防御魔法と浄化の光という状態回復の魔法を覚えていますが、ヴィオの能力に出ていた癒しの泉はまだですね。あれは癒しの風の上位魔法ですから、癒しの風の熟練度が上がれば覚えると思います」
そういえば俺も回復魔法が使える様になったんだっけ、ここの迷宮じゃ怪我なんかしないからすっかり試すのを忘れていた。
「短期間に三つも使えるようになったのか」
「覚えましたが、まだ回復はかすり傷を治す程度ですし防御もさほど強くありません」
「それで、ラウリーレンは何がしたかったんだ」
「ああ、忘れていました。ポポとユーナの繋がりが安定してきた様なのでポポを数日精霊の国へ連れて行こうかと」
「夜だけじゃ駄目なのか?」
ポポは夜、精霊の国で体を休めているから俺達とは離れているんだが、足りないのか?
「ユーナここにいたの」
ふいに窓のところに現れたポポが、ユーナの姿を見てふらふらっと部屋の中に入ってきた。
「ポポちゃん」
「ポポ、昼間はユーナの近くにいなくてはいけませんよ。あなたはまだ周囲の魔素を集められないのですから」
「メッてしてきたの。メッー! ってしたの」
「め?」
ポポの話し方は相変わらず拙くて分かりにくいが、今日はいつも以上に分からない。
「メッとは?」
「ポポはユーナが好きだから、メッするの」
何が言いたいのかよく分からないが、ポポが得意そうなのは理解した。
「ポポちゃん、離れてたからお腹すいてるんじゃない? 魔力食べるかな」
ふよふよとユーナの方に近づくと、小さい目を細くしてユーナが差し出した手にすり寄る。
あれがポポの食事の姿だというのだから、精霊は不思議だ。
「数日精霊の国に行くのは何でなんだ」
ラウリーレンに対して向ける視線より、だいぶ優しげな目でポポを見ているギルに尋ねる。
「契約しても長く離れているとポポみたいな弱い精霊は契約者との繋がりが切れてしまうんですが、予想より早く安定してきた様ですから最終契約を終わらせようかと思いましてね」
「最終契約?」
「エルフなら常識ですが、二人は人族ですからね。私が近くにいるうちに済ませた方がいいかと思いましてね」
「それをしないとどうなるんだ」
ラウリーレンがユーナの魔力を欲しがったみたいに、他の精霊にユーナが狙われたりするんだろうか。
精霊契約は分からないことだらけだから、ギルが助けてくれるならありがたい。
「長い時間離れてしまった時に力の強い精霊にユーナが狙われた場合、その精霊がポポの振りをして魔力を奪う可能性が」
「契約は絶対なんじゃないのか?」
「思ったよりポポの力が弱かったのと、精霊魔法に長けていない人族との契約の為繋がりが切れやすいのですよ。エルフと精霊の契約でも最終契約まではしないのですが、ユーナとポポの場合はきちんとした方が安心かと」
「そうなのか」
「あの、魔力が奪われるだけなんでしょうか」
「一度他の精霊に奪われると、ポポとの繋がりが薄くなりあなたの魔力は多数の精霊に奪われ続けます」
なんだって、なんでそんなことが起きる。
「契約して繋がりが切れかけたところで他の精霊に魔力を奪われると、精霊側が契約を解消したという通常ではあり得ない状態になるんですよ、契約中に契約者のエルフが死ねば、精霊も一緒に消えます。これは精霊にとってはもっとも幸せな死です。だからこそ契約者に契約を解消されることを恐れます。幸せな死を迎えられなくなるのですから」
「それなのに繋がりが跡切れると契約を解消したと同じになるんですか?」
「精霊からは解消出来ないことが起きた時、その者は罰を受けるのです。不特定多数の精霊に魔力を奪われ続ける、それが罰です。魔力を奪われ続けた者は生命力まで精霊に奪われて市に至るのです」
淡々と話すギルの言葉に、俺達は無言になってポポを見つめた。
「最終契約というのは」
「精霊王に繋がりを固定してもらうのですよ」
「精霊王」
「互いに契約を切らず、最後の時まで共に生きると誓い、精霊王に承認されることで最終契約とするのです」
なんか、とんでもなく重い誓いなんじゃないのか。
あれ、でもギルはラウリーレンに契約を止めるとかなんとか言ってたよな。
「ギルはその最終契約まではしていないってことだよな」
「ええ、ラウリーレンは馬鹿ですが力はそれなりにありますので」
「ポポにはその力がない」
「一度消えかけたせいなのでしょうが、ポポは力が弱いのですよ。これから成長する可能性は勿論ありますが」
ユーナを助けようとして力を使ったから、ポポは消えかけたんだよな。
「成長か」
「ポポ育つヨ、大きく、ナルヨ」
ギルの話を理解してるのかどうか分からないが、ポポはそう宣言するとユーナの魔力を吸い込み始めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。