迷宮攻略準備、ユーナの魔法の腕前は2
「ポポ、大きく育てよ」
フワフワした小さい頭をよぎる撫でると、いつもの何かがポポに吸われていく感じがした。
「ポポちゃん?」
「ポポ?」
けぷ。
これ、ポポから発した音だよな。
「沢山、ユーナの魔力、ヴィオの生命力沢山食べた」
「ポポは、今だにヴィオの力も食べているんですか。ついでの契約の割には貪欲ですね」
満足そうにユーナにすり寄るポポを、ギルはあきれたような見つめた後「ヴィオ体調は?」と聞いてきた。
「体調、うーん少し疲れた程度だな。ポポも加減を覚えたようだし」
「加減、ですか」
「ああ、最初の頃はユーナの魔力も俺のも食えるだけ食ってた感じだったが、今はユーナも余裕あるだろ」
「ポポ、あなたなんでそんなに二人から吸収しているのですか、そこまでは必要ない筈ですよね」
そうなのか? でもポポは朝戻ってきた時に俺達から食事してるし、夜も精霊の国に出掛ける前に同じく……。
「朝と晩は必ずあげてるぞ。ユーナ、昼間はどうしてるんだ」
「昼間、ポポちゃんのお昼ですかそれは勿論」
「ポポ、それは貰いすぎです。余剰の魔力を何に使っていたんです?」
「余剰?」
「ええ、精霊は貰った魔力を貯めてはおけませんから、自分の器よりも多く魔力を貰うことはしません。ポポは器がまだ小さいので、契約の時にあなた達から貰った力でまだ十分動ける筈なんです」
でもいつも嬉しそうに食ってたんだが、どういうわけだ?
「力使わナイ。魔法習うお礼ダカラ、ポポ使えナイ」
「魔法習うお礼。まさかっ!」
「おい、魔法って」
「ラウリーレンッ! お前はなんて恥知らずな真似をしたんです」
檻からラウリーレンを引っ張り出すと、ぐったりしたラウリーレンは「何が悪いのよ」と悪態をついた。
「こんなノロマの愚図に、ラウリーレン様が自ら教えるのよ。対価を貰って何が悪いの」
「騙した詫びに教えているというのに、何が対価ですか!」
「いいじゃない。力の譲渡を繰り返したからこそ繋がりも安定したのよ。悪い事なんてしてないわ」
「おい、ユーナの魔力はラウリーレンに渡せないんじゃなかったのか?」
怒るギルに反抗しているラウリーレンは、どうやったのか知らないがポポから魔力を貰っていたみたいだ。
「精霊同士は譲渡出来るのですよ。ですが、幼い精霊から魔力を譲渡されるのは上位の精霊にとって恥なのです。動物形にしかなれない下位の精霊から魔力を取り上げるなんて、人の形をとれる強い精霊だという誇りがあるのなら、機会があっても絶対にしないものなのですが」
誇りも何もかも忘れて、ラウリーレンはポポから魔力を騙し取っていたというわけか。
「いいじゃない。これは奪ったんじゃなく対価なんだから。人だって物を買う時お金を払うでしょ、それと同じ様にしているだけよ」
何が悪いんだとばかりに、ラウリーレンはギルに食って掛かる。
「あなたには飽きれるばかりです。しばらくそこに入っていなさい」
「嫌よ、檻は嫌いなのっ! ギルッ止めて!」
暴れるラウリーレンを、ギルは再び檻の中に戻してしまう。
どういう作りなのか、檻に入れられてしまうとラウリーレンの声は聞こえなくなる。
「全く、精霊王に仕置きをしてもらった方がいいかもしれませんね」
「ギル」
「申し訳ありません。ヴィオ、ユーナあの馬鹿は反省してポポに魔法を教えていたとばかり思っていましたが、まさかあそこまて恥知らずだとは思ってもいませんでした」
「恥知らずかどうかはひとまずいいが、ポポは大丈夫なんだろうな」
折角元気になったというのに、ラウリーレンのせいでまたポポが死にかけたら大変だ。
「ポポは十分な魔力を持っていますから大丈夫です。そうでなければ精霊の国に向かわせるなど出来ませんから」
「ならいいが。ポポ、今度から魔力を簡単に他のやつに渡したら駄目だぞ」
「そうですよ、二人はポポが大切だから力をくれるのです、簡単に他にやっていいものではないのですよ。何故ラウリーレンに渡したのですか?」
そんなに頭が良いわけではないポポにこんな事を言っても、これから何度でも騙されそうな気はするが、教えなければそもそも良いか悪いかの判断もつかないだろう。
「魔法教えるお礼、魔力でお礼スは当たり前言ってたヨ」
「お礼、いやそれは確かにお礼は必要かもしれないが、そこで魔力を渡すのは……」
ポポは、魔力をラウリーレンに渡すのが悪いと思っていなかった。
生まれたばかりで何も知らないポポを騙すなど、ラウリーレンには簡単だったろう。
だからこの間も騙されたんだから。
「ポポちゃん、今度誰かにそう言われたら私がヴィオさんに教えてくれるかしら。どうしたらいいか一緒に考えましょう」
「そうだ、それがいい。ポポ一人では判断出来ないだろ。俺達に聞くかギルに確認するんだ出来るか?」
約束したとして覚えていられるだろうか。
ポポの記憶力がどの程度か分からないのが難点だな。
「ポポ出来るヨ」
「よし、いい子だ」
とりあえず今はこれでいいだろう。
それにしてもラウリーレンの奴、まだユーナの魔力を諦めていなかったのか?
「なあ、ギル。ユーナの魔力をポポに食わせても魔力の質は変わらないのか?」
「よく気が付きましたね、その通りです。ユーナの清らかな魔力はそのままの性質でポポに取り込まれています。そしてポポは生まれたばかりで悪意などありませんから、この体にあるのは清らかで善良な魔力なのです。それは精霊が最も好むものなのです」
「だからラウリーレンは、諦めずに狙っているというわけなんだな」
「その通りです。ポポ、誓いなさい」
「誓ウ?」
「ラウリーレンに魔力は二度と渡さない」
「ポポ誓うヨ。ラウリーレンに二度と魔力をワタサナイ」
ポポの誓いの言葉の後、一筋の光がポポから檻に向かい放たれた。これで誓いが成立したのか?
俺達が見守る中、ギルは檻からラウリーレンを出し、両手でガッチリと掴んだまま無理矢理頭を下げさせた。
「精霊王から罰を与えられたくないのなら、三人に謝りなさい。ラウリーレン、出来ないのならお前の恥を精霊王に知らせますよ」
「嫌よ、ラウリーレンは高貴な上位精霊なのっ! こんな間抜けに謝ったりしないんだからぁっ!」
ギルに体を拘束されたまま、ラウリーレンら手足をばたつかせ暴れている。
「なら、片羽になりなさい」
冷酷に告げた途端、ラウリーレンの羽の片方がふわりと宙に浮かんだ。
「いやっーあーっー!」
「心を入れ替えると誓うまで、これは私が預かります。その学習しない頭で自分の言動をよくよく思い返すことですね」
「ギル」
ラウリーレンの羽は、ギルが作った檻に容れられ、その途端檻は姿が見えなくなってしまったんだ。
「痛みはないですよね、羽は預かります」
「反省する、反省するわ! お願い返して!」
「信用出来ませんね。ラウリーレンは私を二度も裏切った、契約者以外の魔力が欲しいならいつでも契約を解消しますよ。片羽の野良精霊に堕ちればいい。そうなればお前はどんな下位精霊よりも下の惨めな者に成り下がる」
冷ややかな声で、ギルはラウリーレンの体をぎゅううと握りしめる。
手のひらに乗る程度の大きさしかないラウリーレンは、ギルの容赦ない力に潰されそうになっている。
「許してっ! 許してーっ!!」
ラウリーレンの悲鳴のような声は、部屋の中に響くだけだった。
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