そんな顔で言われても
「なんだか私、薬草を採るのが早くなった気がします。もうこんなに集められましたよ」
午後俺はまた子供達の相手、ユーナは資料室の仕事を行ってからいつものようにユーナの薬草採取に付き合い町の外に出た。
ユーナは慣れた手付きで薬草採取を始めると、今日の納品分と自分の保存用をあっという間に集めてしまった。
「確かに早くなったな。採取に慣れてきて、薬草を見つけるのが早くなったんじゃないか? ユーナ毎日頑張っているからな」
「気のせいじゃないなら嬉しいです」
嬉しそうに薬草を十枚ずつの束にしていくユーナの様子が微笑ましくて、つい目を細めてしまう。
ユーナは薬草についての知識を資料室の本から集め、それで足りないものはライやチャールズに確認していた。
受付でも売店でも疑問に思ったらその都度尋ねているようで、短期間でかなりの事を覚えていた。
その努力が実を結び他の見習いよりも綺麗な採取の仕方をしていると、ギルドからはそれなりの評価を得ているようだった。
「ヴィオさん、木を削って何を作っているんですか」
俺の答えに満足したのか、ユーナは作業を終えると俺の側にしゃがみ込み手元を覗き込んで来た。
見習いの仕事である薬草採取を手伝うわけにはいかないから、最近の俺はユーナを待つ間に細々したものを作っていた。
冒険者登録したばかりの子供でもこられる場所なんだから、本当ならユーナ一人で行ってもいいというのに俺が側にいるのは、誰から見ても過保護だが門の近くとはいえ町の外にユーナを一人きりにするなんて心臓に悪いこと、俺に出来るわけがない。
ユーナにすら過保護と思われているかどうかまで分からないが、何か起きてから後悔するより余程ましだ。
「これか、孤児院の子供達が使えるように的を作ってるんだ」
「的、ですか?」
「そうだ。昨日作った弓と矢があるだろ、あれの練習用に丁度いいと思わないか?」
小さな子供のか弱い力でも使えるおもちゃみたいな弓を、昔採取した素材を使って数人分作っていた。
矢の先は矢じりは付けていないから、的に当たっても刺さることはない。
見習いにも登録できない年齢の子供が使うものだから、危険は少ない方がいいと考えた末の作りだ。
「この大きさなら石の的にもいいですね」
「だろ」
何が武器として使えるのか、幼い子供達からは判断がつかない。
小な木剣や、弓、投擲武器として小石等を用意して、孤児院に行く度に少しずつ神官に渡している。
残念ながら魔法は俺では教えられないから、それ以外の戦い方だ。
遊びの延長で覚えていければいい。幼い子に必要なのは技術ではなくそれを行えるだけの体力と興味だ。
「子供達ヴィオさんと遊びたくて仕方ない感じですものね。こんな立派な的を作ってもらえたらきっと喜ぶと思います」
「だといいが」
的はある程度の形に木を削ったら、触っても怪我しないようにヤスリを掛ける
ここまで作れば後は孤児院の庭に設置するだけだ。
「これでいいか」
出来上がった的と、木工の道具をマジックバッグにしまい、木くずは穴を掘って埋める。
「なんでも作ってしまうんですから、ヴィオさん器用ですよね」
「この程度誰でも出来るさ。ユーナの料理の方が余程凄いぞ」
俺なんて、肉を焼くか適当な味付けでスープを作る程度しか出来ない。
まあ冒険者の料理なんて、男女関係なくそんな感じだ。
「私のはただの家庭料理です。自分が食べたいものを作っているだけですし」
「俺は、ユーナが店を出してもやっていけると思うんだが、女将も褒めてただろ」
「お店なんて出来ませんよ、褒め過ぎです」
「そうか、今日の弁当も美味かったぞ」
立ち上がり、手を繋いで門に向かって歩き出す。
こうやって歩くのも、もう慣れてしまった。
誰に対してしているのか分からない言い訳をすれば、手を繋いでくるのはユーナの方だ。
好意からではなく、信頼からなんだと言うのは彼女を見ていれば分かる。
不安そうな顔をして周囲を見ている時があるからだ。
元々ユーナと俺との出会いが、彼女がたちの悪い男に追われていたところを助けたというところから始まっていることもあるし、ユーナがこの世界に慣れていないというせいもある。
ギルドでライやチャールズ達とは親しくなってきたし、市場で親しげに声を掛けられることも増えてきたとは言ってもユーナにとってここは知らない町で、知らない世界だ。
ユーナの様な顔立ちの人は誰もいないし、同じ言葉を話す人もいない。
それがどれだけ不安で、孤独を感じるのか俺には想像することしか出来ないが、ユーナはそれを表に出さないようにしているのは理解しているつもりだった。
「でもヴィオさん、毎日お弁当はつまらなくありませんか?」
「つまらない?」
「どこかお店に食べに行ったり、屋台で売られているもの買ったりとか」
「俺は弁当で十分満足してるんだが、作るの大変だったか?」
ユーナも仕事をしているというのに弁当まで作っているんだから、疲れて当然か。
やっぱり俺気が利かないな。
「作るのは楽しんでしていますから、大変なんかじゃありません。ただヴィオさんが」
「ん?」
「他の人と過ごす機会を、私が奪ってるのかなって」
さっきまで嬉しそうに笑っていたのに、きゅうにションボリとし始めたユーナに俺は内心首を傾げながら、他人と過ごす機会について考えたが、ユーナが気にする理由は思いつかなかった。
「ユーナが何を気にしてるのか分からないんだが、何かあったのか?」
「何かって、あのお昼の時」
「昼?」
「ヴィオさんを誘いに来たのに、私」
そこまで言われて、やっと思い出した。
思い出しついでに、彼女とユーナを比較してしまうのは俺の性格が悪すぎるだろうか。
「あのさ」
「はい」
「ユーナと食べる弁当と、他の誰かどの食事なら、俺は迷わずユーナを選ぶ」
それは当たり前だ。
俺にとって優先順位の一番はユーナだ。
「それにあの場合、俺とユーナが一緒にいるのに俺だけ誘うのはおかしいだろ。彼女と個人的に親しいわけでも無いし、何か理由があるわけでも無いのにさ」
「それは、まあ」
「だから気にするな。というより、そういうのを気にしてるだけなら弁当作らないとか止めてくれ。子供らの相手して疲れてる時に、楽しみにしてるユーナとの昼が無くなったら悲しすぎる」
嘘でもお世辞でもなく、ユーナと過ごす昼の時間は楽しみなのだ。
弁当が美味いだけでなく、ユーナが仕事でこんなことをしたあんなことがあったという話を聞くのが楽しいし、それを話すユーナの顔を見ていると疲れが吹き飛ぶ。
「お昼、楽しみにしてくれてたんですか」
「ああ、ユーナに手間を掛けさせてるが」
「楽しみと言われたら、作らないわけにはいかないですね。明日も明後日も作ります。美味しいもの沢山、期待していて下さいね」
「ありがとう」
落ち込んだ顔よりも、ユーナはやっぱり笑顔がいいな。
そんな呑気な考えをしている横で、ユーナは何か考え込んでいたなんて俺は気付きもしなかったんだ。
※※※※※※※※※※
ギフトありがとうございます。
更新おやすみ続いて、申し訳ありません。
残業と暑さでバテてました。
忙しいのが終わったので、通常通りの更新に戻ります。
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