ユーナの気持ち

「つまりどういうことなんだ」


 ユーナは確かに私達と言っていた。

 でも、ポポがユーナのその言葉を叶えようとしたからなんだと言うんだ。

 ユーナは自分の血を使いポポと契約したが、俺は何もしていないんだぞ。


「そうですねえ。これは推測でしかありませんが、あなたがユーナの体を支えていたから契約が成立してしまったのかもしれないですね。確認方法、ああそうだ」


 説明にイマイチ納得出来ずにいる俺達に、ギルはにこやかに笑って何かを呟いた。


「ヴィオ、まだポポの姿が見えますか」

「見える」


 相変わらずユーナの手のひらの上にふわふわの鳥の姿で乗っている。

 緊張感の欠片も無い顔で俺とユーナを交互に見ている。


「今まで私の魔法でポポの姿を見せていましたが、それを解除しました。ポポと契約出来ていないのであれば姿は見えなくなっている筈ですが、ヴィオはポポの姿が見えるのですね」

「見える。なあ、見えてるってことは」


 ポポの頭に手を伸ばし、ふわふわした羽根に触れる。

 指先に感じるのはポポの羽根の感触だ、間違いなくポポがここにいる。

 

「ヴィオとポポの精霊契約が成立しているということですね」

「私も見えていますけど」

「ユーナは契約したのですから当然ですね」


 意味がわからない。

 俺は魔力なんて殆ど無いし、魔法を使う才能もない。

 魔導書が開けないんだから、それは確かだ。


「ポポ、あなたは二人と契約したのですか」

「駄目だっ、たの?」


 コテンと首を傾げて、ポポはギルに聞いている。これで偶然じゃなくポポ自身が、俺達二人と契約したくてそうしたんだと確定した。


「駄目ではありませんが、何故です?」

「ユーナ好き、ヴィオも好き」

「それだけですか」

「ユーナの魔力綺麗、優しい、ユーナ好き側にいたい」


 魔力が綺麗とか優しいって、さっきギルも似たような事を言っていたが、それに何の意味がある。ラウレーリンが言っていた様に、美味しそうな魔力というだけなのだろうか。

 ポポの拙い話じゃ理解できない。


「ギル、どういう意味なんだ」

「精霊は魔力で人を判断するんですよ。魔力というものは、人の心の奥底にあるものを映していると言われています。それを見て精霊は相手を好いたり嫌ったりするのですよ」


 ユーナの心が綺麗で優しいところにポポは惹かれたとして、それ俺は関係ないじゃないか。


「ユーナの魔力を気にいっているのは知っていますが、ヴィオは何故なんですか」

「ヴィオ? 好き」

「それだけですか」

「ヴィオ、あたかい、安心する」


 なんだかよく分からない。

 あたかいってなんだ?


「それにユーナ、ヴィオと一緒にいたい、思てる。ユーナとポポずっと一緒。だからヴィオもポポとずっと一緒」


 ますます分からなくなってきた。


「ポポ、あたかいというのは?」

「ポカポカする。おひさまみたい」

「成程、温かいと言いたかったのですね」

「ギル」

「つまり、ポポはヴィオのことも気に入っているということですよ。まあ、ユーナとの契約ありきのようですから、こういうこともある程度に考えていればいいのではありませんか。そうだ魔道具で確認してみましょう。持ってきますからここで待っていてください」


 ギルは機嫌良さげに部屋を出ていくが、俺はなんだか納得できずにポポの頭を突く。

 

「ポポ、俺はお前にあげられる魔力なんてないぞいいのか」

「ヴィオの魔力はいらない。ユーナ、ヴィオといるの嬉しい、だからポポも嬉しい、ユーナの嬉しいはポポの嬉しい。ユーナは寂しい、ヴィオが離れたら悲しい」

「ポ、ポポちゃん!」


 慌てたようなユーナの声に横を見れば、顔どころか耳まで赤くなったユーナがこっちを見ていた。


「ユーナ」

「ちが、ええと、あの。ポポちゃんそういうことは言ったら駄目なのっ」


 ポポに抗議するものの、否定はしない。

 そういえば、俺が戻ってくるか不安だったって言ってたんだよな。悲しいってのは不安だってことか。


「ユーナ」

「は、はいっ」


 ただでさえ不安だったところに、迎えが遅れて追い打ちをかけたんだから可哀想なことをしてしまった。

 この世界に来たばかりで何も分からないユーナ。外よりは安全だとはいえ一人になるのは心細かっただろう。

 だが、こればかりは我慢してもらうしかないんだよな。


「見習いの依頼に、俺が付きそうのは出来ないんだ。だから明日からもユーナ一人で依頼を受けるしかない」

「はい、それは理解してます」

「だけど俺は必ず戻ってくるから」


 さっきも同じ話したんだがなぁ。


「……はい」


 はい。と言いながらユーナが本心では納得していないのは、見ていれば分かる。

 分かるんだが、どうしようもない。


「ユーナ悲しい、ヴィオ、ユーナ嫌だって」

「ポポちゃん! 言ったら駄目だってばぁ」


 ポポに抗議しても、ポポは知らん顔で俺を睨んでいる。鳥の顔なのに、睨んでると分かるのは何故なんだろう。

 

「ユーナ、ポポにバラされたくないなら自分で言わないとな。昨日した約束も忘れちゃったのか」


 隠さずに思っていることを話すと、そう約束したというのになんで我慢してるんだか。


「だって、ヴィオさんに言ったら呆れられちゃいます。こんなに親切にされて、沢山気を遣って貰ってるのに、寂しいとか一人になるの不安だとか、そんなの甘えすぎだって分かってるんです。それにこれは私が一人でするべきことです」

「寂しいとか心細いとか、俺以外誰も知ってる奴がいない場所だっていうのに一人にしたんだから、当たり前だろう」


 ユーナは繊細すぎる気がする

 彼女と比べたら、この世界の子供達の方がたくましいかもしれない。

 そう考えると旅暮らしなんて本当に出来るのか心配になるが、そう決めたからには我慢して貰わないといけないこともある。


「でも、寂しいと思うのは我儘です」

「我儘とは思わないが、頑固だとは思うぞ。俺が良いって言ってんのに我慢するな」

「頑固」

「まあ、寂しくても依頼はユーナが一人で受けなきゃいけないもんだし、俺も迷宮に行かないといけないから、これは仕方ないんだが」

「はい。分かってます」

「だけど、俺は絶対にユーナのところに帰ってくるから。沢山稼いでこいよ位の気持ちで待っててくれないか。俺が帰ってきたら美味いものでも食いにいこうってな」


 一人が寂しいという気持ちより、俺が戻ってくるか不安という方が大きいんだろう。

 俺に対しての信用が、そこまで無いともいうんだろうな。


「稼いでこいですか」

「そうだ」

「美味しいもの、ヴィオさんが帰ってきたら何食べようかなって?」

「嫌か?」

 

 なんだか困った様な顔でユーナは黙り込んだ後で、ためらいがちに口を開いた。


「あの、迷宮、私も入れませんか」

「ユーナが?」

「そうしたら、ヴィオさんと一緒にいられますよね、駄目ですか」


 思いがけないことを言い出すユーナに、目を見開く。

 魔物が怖いのに迷宮行くつもりなのか。


「その辺り歩くのと全然違うんだぞ」

「はい」

「魔物が沢山出るんだぞ。魔物、怖いんだろ」

「慣れます、頑張りますから」


 冒険者登録をさせても迷宮なんて無理だろうから、無理強いなんてするつもりは無かった。

 ユーナの安全地帯という能力がどれほどのものか分からないし、そもそもユーナは角兎にも怯える程だ。だからギルドカードは旅をするための身分証明と考えていたんだ。


「だが……見習いのうちは入れない」

「依頼沢山受けて早く下級になります。魔法も早く使えるようになりますから」

「ポポも入る! 迷宮一緒!」

「この件は下級になってから、もう一度話そうか」


 ユーナが下級になっても俺が入る層は無理だろう、それが分かっていてもユーナには何故かそう言えず誤魔化すしか出来なかった。


※※※※※※※

子供達には遠慮なく言えるのに、ユーナには甘いヴィオでした。


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