金勘定が好きなエルフ2

「なんで隠していたのを話す気になったんだ」

 

 俺に話してもいいのなら、さっき教えられて当然の情報だ。

 それを敢えて今話す理由が分からない。

 

「さっきはチャールズがいましたから、彼は王宮の近くにあると信じていますのでね」

「ギルマスだけが知る情報ってことか、冒険者にはどう伝わっているんだ」


 ギルマス以外は知らない情報、それなら益々俺に話す理由が分からない。

 何か裏があるのか、このエルフの表情からは何も得られそうにない。


「このギルドで新しい迷宮の話を知っているのは、私とチャールズだけです。ただし彼は正確な場所は知りません、冒険者で知っている者は君以外にはいないかもしれませんね。チャールズには私が許可しない限り他言出来ないという契約をしていますので、本人が話そうとしても声にはならず書くことも出来ません」


 契約というのはエルフが行う精霊契約という魔法のことだろう。

 エルフは精霊を使役し精霊魔法という物が使える。その中に確かそういう契約魔法があった筈だ。それにしても、そこまでして隠すものなのか?


「なのでヴィオも秘密にするのが難しいのであれば、同じ契約を行いますよ」


 行いますよと気軽に言われたくない。

 そんなに隠したいなら、教えないで欲しかった。


「普通新しい迷宮、しかも名付きになりそうな中級なら、ギルドで周知されていていいはずだがそれはしないつもりなのか」


 その手の情報は各ギルドで情報を共有し、冒険者達に提供される。

 新しい迷宮は魔物の出現数が多い為、なるべく多くの冒険者に入って欲しいからだ。

 それを今していないのなら、この先も情報開示しないつもりなのか?

 さすがに王宮の地下にあるんじゃ、冒険者の出入りは難しいのか。


「騎士団はどれ位の人数で動いているんだ」


 情報はどこまで知られているものなのだろう。冒険者には知らせず騎士団のすべてが知っているのか、それとも騎士団も携わっているものだけが知るのか、それでこの情報の価値が変わる。だが、どっちみち俺が知っていていいものではないものだ。

 ギルが何故俺に教えたのか、理由が分からない。


「今は、五人から八人の騎士と荷物持ちという組み合わせで作った班が五班だそうですよ。最初はもう少し多かったそうですが石化するものが多数出て数を減らしたそうです。石化解除の薬がなければ全滅ですからね。ポーションも全然足りていませんから攻略もそろそろ止まるかもしれないですね」

「騎士団はもしかしてそんなに強くないのか」


 目を閉じてバジリスクを狩るというのは、森林の迷宮ではそれなりに行われている方法だ。

 最初に試したのは俺だったが、ポールはすぐに出来るようになったし、他の奴らも今は苦せず出来る。

 そして俺達の真似をして、他のパーティーもバジリスクはそうやって狩り始めた。


 騎士達だって最初は戸惑うかもしれないが、出来ないわけはないと思う。だがそれは、中級迷宮に入り攻略を進められるだけの実力があればの話だ。

 ギルはさっき、騎士団は出来ないだろうと言った。荷物持ちは兎も角迷宮攻略を任されている騎士団が出来ないだろうと、はっきり言ったんだ。

 それはつまり、実力が低いってことだ。


「よく気が付きましたね。迷宮に入っているのは王宮の騎士団の中でも弱い者たちが殆どの様ですよ。彼らよりも上の実力がある者達は、迷宮の魔物より外の魔物を狩る方が上だと考えている様です。なんでも、迷宮の様な下賤な空気がする場には居られないとか」


 それを聞いて思い出した。

 冒険者の中でも、迷宮に入りたがらない奴はいる。迷宮独特の空気が駄目なんだそうだ。

 迷宮のあの空気は、その迷宮に出てくる魔物の強さそのものみたいなもので、空気が合わないという奴らは強い魔物の気配に常時まとわりつかれている様になるのが嫌なんだろう。


「成程、それじゃ石化解除の薬は延々と必要になるな。ついでに回復薬系のポーションも今後必要数は増えるだろうな。王宮なら専属の薬師がいるだろうが、薬草が足りなくなりそうだな」


 王宮の騎士達の感覚にため息をつきながら、その迷宮の今後を考える。

 五十人前後しか一日に入らないのだとしたら、迷宮の魔物を屠るには人数が全く足りていない。

 森林の迷宮には二百人近い人間が日々入っているし、この町の迷宮だって一日の人数が五十人ということは無いだろう。

 迷宮完全攻略が出来ていない迷宮の下層をうろちょろしかしないとしても、大ぜいの人間がその迷宮で魔物を狩ることに意味があるんだ。


「さすがヴィオは話が早いですね」

「俺に何をさせたいんだ。言っておくが俺はこの町には長くいるつもりはないぞ」

「何かさせたい、そうですね。ヴィオが狩れるのであれば熊の手を二千は取ってきて欲しいですね。一つ目熊の皮も出来るだけ多く欲しいです。それが最低限の望みですね」


 二千という数に俺は目を見開く、熊の手一つが金貨三枚だというのにそれを二千欲しいだなんて誰が支払うんだ。


「お前、領主に全部売りつけるつもりだろ」


 王命ということは、献上させられるってことなんじゃないのか?

 それとも王宮で領主から買い取りするんだろうか。

 貴族のそういう事には疎いからその辺りが分からない。


「私は領主に売り儲ける。領主は王宮に必要数以上に納品し、その結果陛下から褒美を賜る。どこにも損はありませんね。まあ、一度にこれだけ集められたという実績は今後に悪影響ですから、最低限の必要数三百以外は徐々に出すつもりですが」


 喜々として話すギルの様子に、こいつの目が金貨に変わっているような錯覚をしてしまう。

 以前から守銭奴っぽい感じはしていたが、更に磨きが掛かっていないか?


「やりすぎたら王宮から恨まれないか?」

「ありえませんね。石化解除の薬は高価なものですが、必要経費です。迷宮の攻略が進めば素材売却でかなりの利益が出ますから、薬代など苦にもならない筈ですよ。それに迷宮攻略を進められなければ、魔物が外に溢れ出る可能性が出てきます。名付けになる可能性がある迷宮で魔物が溢れたら、王都が一夜で消えてしまいますよ。それを考えたら熊の手にかかる費用などゴミみたいなものでしょう」

「ゴミねえ」


 俺に支払われるのが、熊の手一つにつき金貨三枚だけれど、王宮に収められる時の価格は分からない。

 分かるのはギルがこの機会に大儲けを企んでいるということだけだ。


「魔物寄せの香がなければ無理だぞ」

「それはこちらで用意します。効果時間が一番短いものでいいんですよね」

「ああ。後は頼みたいことがある」

「なんでしょう」

「今日冒険者登録したユーナという女性、俺が迷宮に入っている間彼女がギルド内での依頼を受けられる様にして欲しいんだ」


 この世界のことを何も知らないユーナに、子供でも受けられる依頼とはいえ外での依頼を受けさせるのは心配だった。

 あの容姿は田舎の町では目立ちすぎる。宿の女将が一目で訳ありだろうと勘繰った位なんだからフラフラ一人で町を歩いていたら何が起きるか分からない。

 自分の身をある程度守れて、この世界について少し慣れが出てくれば違うだろうが今は駄目だ。


「ああ、今日資料室整理をしてくれている彼女ですね」

「あの子はちょっと世間知らずでさ、所謂箱入りなんだ。外の依頼は出来るとは思うんだが」

「ふふふ、いいですよ。貴族令嬢と言われても納得の外見と立ち居振る舞いだとか、それでは一人にしておくのは心配でしょう」


 すでにギルドの中でそんな認識になっているのか。

 舌打ちしたい気持ちで、でも見習いの依頼を俺が一緒には受けられないのだからと、自分を納得させる。

 ユーナは貴族の娘ではないし、誰かに追われる立場でもない。ただこの世界に来たばかりで何も知らないから心配だというだけだ。


「貴族とかではないんだが、諸事情で世間知らずなんだ」

「そうですか、分かりました。では君が熊の手を集めている間は資料室の整理を続けて頂きます。それでいいですか」

「ああ」

「彼女はかなり魔法を覚えている様ですが、あの能力は魔導書で覚えたものですか」

「そうだ。雷は一度使えたらしいが無意識で使ったとかで、自分の意思では使えないらしい。生活魔法は問題なく出来る」

「成程、彼女魔力がかなりありそうですよ。私の精霊が彼女がギルドに来てからずっとそわそわしていましてね。魔法の使い方を教えてあげてと言ってくるんですよ。私の精霊はあまり親切な子ではないので、こんな事珍しいっ。こら痛いですよ、髪を引っ張るのはやめなさい」


 ギルが話している途中で、突然ギルの髪が一房持ち上がり何かに引っ張られた様にグイッと動いた。

 これ、精霊がやってるのか?

 

「痛い、痛い、痛いって。私が言うよりお前から話した方が早いでしょう。姿を見せなさい」


 ギルの言葉に、手のひらに乗りそうな小さな女の子が俺の目の前に姿を現したんだ。

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