土管
学校帰りの小さな公園に滑り台のついた小山があって、土管のトンネルが貫いている。遊具といえばそれぐらいだし、今頃の子供はTVゲームに夢中になるから、土管では遊ばない。そこ、昼間でもあまり人を見かけない、とても寂しい場所だった。
「とても信じてもらえないだろうけど…」
夕暮れの通学路で、一緒に歩いていたユウ君に僕は勇気を出して打ち明けた。
ユウ君は瞳を輝かせながら僕の方を見た。秘密めいた話なら、子供はみんな大好きだ。
「昨日、今みたいに暗くなりかけた頃に、僕はここを通りがかった。すると、あの土管の中から奇妙なものが出てきたんだよ」
「奇妙なものって?」
「何かわからないよ。人間みたいな形をしているけど服を着ていないんだ」
「何それ?」
「ううん、なんていったらいいかな。ただ体中が緑色だった。全身くらげみたいにぬるっとした感じで、顔には目も鼻も口もなかった」
「お化けか」
僕は大きく頷いた。
「ていうか、宇宙人みたい」
いいながら、二人はすでに土管の前に立っている。
「それが土管からずるっと這い出て、辺りを見回した。僕が見ているのに気づかないで、すぐに中へ引っ込んだんだ。怖くて怖くて一目散に逃げ出したよ。この中に宇宙人の基地があるのかもしれないよ……」
「ははは、そんなものないよ。この土管は昔よく潜っていたもん」
ユウ君は笑って土管の中を覗いている。
「よし、僕見てくる」
あっという間にその中に入ってしまった。
…このままユウ君を置いて逃げようか。
土管の中に恐るべき陰謀が隠されているようで、僕は恐くて我慢できなくなった。子供の力ではどうしようもない、しかも大人は信じてくれない…きっとそういう種類の陰謀だ。
しばらくユウ君が出てこないので焦っていると、突然、土管の奥から陽気な声が聞こえてきた。ユウ君の頭が土管の口から覘いて、ニコニコ笑っている。
「ははは、やっぱ中には何もないよ。バケツのおもちゃが転がっているだけさ」
ユウ君は出てきて、砂だらけのズボンを叩いた。
「さ、帰ろう。全部君の見間違いだったんだよ」
「ねえユウ君」僕は大変な事に気づいてしまった。「君、裸足だよ」
「しまった……靴を中に忘れてきちゃった。ちょっと取りに行ってくるから待ってて」
そう言って四つん這いになり、再び土管の中に入っていこうとするユウ君。
なんで中で靴を脱いだりしたの?
お尻を向けた君の足の裏だけ、まだ緑色のままだよ。
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