切れないナイフ

「今度の発明は何だね、出鱈目博士」

「これです」

 と言って、出鱈目博士がスポンサーの前に突き出したのは、一振のナイフである。

「このナイフはすごいですよ。見てください」

 机の上に金属板がある。出鱈目博士はその板にナイフを突き刺した。すると、まるで豆腐でも切るように、するするとナイフが動いた。そして、その軌跡がそのまま切れ目となって、金属板が二つに割けた。

「なんて凄い切れ味だ。なんでも簡単に切れるんだね」

「いや、実はですね」

 と、出鱈目博士はばつの悪そうな顔をした。

「固いものなら、超合金だって簡単に切れるのですが、柔らかいものはいけない」

 出鱈目博士は、今度は机の上にプリンを並べて、思い切りナイフを突き刺して見せた。ナイフはぼよよんと跳ね返って、それを突き通すことが出来ない。

「これはなんとも情けない発明だなあ」

「すみません、研究費の無駄遣いでした。この責任は……」

 そういうが早いか、出鱈目博士は手にしたナイフで自分の胸を突いた。

「まさか、博士!」

「なんちゃって……」

 出鱈目博士は茶目っ気たっぷりに片目をつぶって笑った。

「は、博士、悪い冗談はやめたまえ」

「ははは、すみません。この通り、人間の体は柔らかいからこのナイフでは突き通すことは出来ないんですよ。我ながら、なんてくだらない発明だと思います。とほほほ」

「いや、しかし」

 が、スポンサーは真顔になった。

「これは、なかなか面白い発明かもしれん。例えば、時代劇の殺陣の特撮などには利用できるかもしれないぞ。きっと他にも実用化の道があるはずだ。ちょっと拝借……」

 出鱈目博士は、ナイフをスポンサーに手渡しながら肩をすくめて見せた。

「そうですかねえ、あまり役には立たないと思いますが……」

 スポンサーは出鱈目博士の真似をして、そのナイフを自分の胸に刺してみた。

「あ……」

 小さな声を上げたスポンサーの胸から鮮血が飛んだ。

「さ、刺さった! 人間は柔らかいはずなのに……」

「ま、まさか、あなたの…実用化の決意が……」

 スポンサーは倒れながら、最後の一言をやっと口から漏らした。


「……とても固かったみたいだ……」 

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