櫓(やぐら)

 村中の期待を集めて三日三晩不眠不休、飯も食わずに雨乞いをし続けていた祈祷師が、最後の深夜ついに狂ったような悲鳴を上げた。その神業も天に届かなかったらしい。

 そのまま物の怪に取り憑かれたように乱舞し、周りを取り囲む村人たちの結界を破って抜け出した。

「どこへ行くのじゃ」

 村人たちは慌てて追いかけた。

 祈祷師は村の外れにある櫓に取付き、両手両足を使ってもがくように上を目指した。

「逃げるのか、ペテン師め」

 村人たちは約束を果たせない祈祷師の無様さを腹の底から笑った。

「役立たずめ、懲らしめてやる」

「生かしては帰さんぞ」

 なおも延々と、村人の罵倒と嘲笑が夜空に向けて放たれた。



 それから幾ときも経ず、はるか沖から迫り上がった大津波が、あっという間に海岸を飲み込んでさらに奥の山を襲った。村にあるものは人々を含めて跡形もなく流され、櫓だけが残った。

 しばらくしてその天辺で惨状を見渡していた祈祷師は、「ざまを見ろ」と一言呟き、不器用に櫓を降りた。

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