艦隊
予期せぬ遭遇戦であった。
すでに敵艦隊は我が艦隊の横腹をつくような位置にいて、戦術的にどう考えても取り返しのつかない状況である。
司令室は騒然とするばかりで、軍議は迷走し、次の行動指標がなかなか示されない。
ついに総勢の目が一斉に司令官を振り返った。皆の顔が司令官の次の言葉に決断を求めているのだ。
もちろん、彼とて無能な司令官ではない。最後の判断をするのは、自分自身の仕事だということは十分にわきまえていた。もちろんこの場面での演出の基本は、常々尊敬するアドミラル・トーゴーでなければならないだろう。
彼はそう考え、瞬時に自らのたった一言が全軍に与える影響を計算した。
今こそ、歴史に残る時である。
「司令官。我が艦隊の旗色はとても悪いです。命令をおねがいします」
参謀長の言葉をうけて、彼はぶっきらぼうに答えた。
「ファイトだ」
…これでいい。
後はこの一言が、士気を高めながら全軍に伝播していくのみである。カリスマとはそういうものだ。
なんてことだ!
全艦隊に次々と明かりが点っていくように、瞬く間にマストに白旗が掲げられていった。砲口を閉じ、機関を止めることによって、艦隊は降伏の意を示したのである。
司令官はその光景を見ながら、我を失った。
「な、なんで、皆降参するんだ!戦えと言ったじゃないか」
それを聞いて、参謀長が不思議そうな顔をして答えた。
「だって司令官、さっき旗色はホワイトっていったでしょ」
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