道草
学校の帰り道。
友達がすごいものを見つけたと言うので、ついて行くことになった。
「みんなには内緒だぞ。お前の他には誰にも教えていないんだからな」
と耳打ちされて、僕は何だかわくわくした。
友達に連れられてきたところは、小さい頃よく遊んでいた公園。端っこの藪の中に置きっぱなしにされたポンコツ車の前だった。
「むかし誰かが捨てたもんだと思う」
「見りゃわかるよ。タイヤもないし、ガラスも割れている」
どこでもある普通車だが、黒塗りの所々が無残に剥げ落ちているし、野ざらしにしている間に部品も方々に持っていかれたらしく、とても痛々しい姿。
「僕、帰るよ。道草食ってて暗くなると、親がうるさいから」
なんだか拍子抜けだった。すごいっていうから、のこのことついてきたのに、ただの粗大ゴミじゃないか。
それに僕の母親はしつけが厳しい。帰宅時間もきっちりと決められていて、少しでも遅れると後が怖い。
ところが、友達はお構いなしだ。
「絶対、びっくりするよ。いいかい」
そう言いながら、運転席側のドアを開いて中へ入ると、そのまま隣の助手席に移った。
「それから、このドアを向こうに開くと……ほら!」
僕は、運転席のドアの外から、車の中を覗いている。
助手席側のドアの外は、どこまでも続く砂漠だった。焼けた日の光がまぶしく目に飛び込んできた。
「なあ、すごいだろ」
友達は鼻息を荒くして言った。聞いている僕のほうも、何がなんだかわけがわからなくなって興奮した。
「これが反対から入るとこうはいかないんだけどね。どうやら、この車を中継にして、ドアの向こうが砂漠と繋がっているらしいんだ」
友達は助手席側のドアを開け放って、そのまま外へ出ていった。
慌てて僕も車に乗り込み、這うように反対のドアのところへ。
すごい……半開きのドアから外に首を覗かせると、本物の砂漠が果てしなく一面に広がっている。
「どこなんだろう、この砂漠は。やっぱり、地球上にあるどこかなんだろうか」
友人はすでに砂漠の上に立っていて、カンカンと照る日差しの中で目を細めていた。
「サハラ砂漠じゃないか」
もっとも砂漠といえばそれしか思い浮かばない。
「お前も出てみろよ」
「ああ。しかし、これはすごいなあ」
僕もドアをくぐって砂漠に降り立った。太陽熱をたっぷり吸い込んだ砂の熱さが靴底を通して伝わってきた。
「本物の砂漠だ。警察に届けなくちゃ」
「ちょっと待てよ。誰かに教えるのはもったいない話じゃないか。なにかこの砂漠を使ってできることないか考えようよ」
それもそうだな、と僕も思った。
砂って売り物になるんだろうか。もしこの砂を売ることができるなら、物は無尽蔵にある。きっと大もうけができるに違いない。それよりもこの砂漠をゴミ捨て場にするってのはどうだろう。産業廃棄物などは捨て場に困っていて、処理業者はすごく儲かると聞いたことがある。
瞬間いろいろなことが思い浮かんだが、じっくりと事を考えるには、ここは熱すぎる。あっという間に全身が汗だくになって、もう立っていられないほどだ。
「今日はとにかく家へ帰って、あとでゆっくり考えることにしよう。門限に遅れるとお前の母さん恐いからな。ただしくれぐれも言っとくけど、これはふたりだけの秘密だぞ」
「ああ。わかったよ。また明日、ここへ来てみよう」
「あれ……」
その時、友達が素っ頓狂な声を出した。
「どうしたんだ?」
「車のドアが開かないぞ!」
ごめん。
なにしろ、僕の母親はしつけが厳しい。
車を離れるときは、必ずロックをしなさい、といつも言われていたんだ。
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