戦車

ある日のうららかな昼下がりのことである。

 小さな町を横切る国道に、自衛隊の戦車群が陸続と行進し、町外れのガソリンスタンドに集結した。

 狭い空間に戦車がひしめき合って、一般車は近づくことも出来ない。

 スタンドのおやじは慌てて、司令官らしき人物に詰め寄った。

「ここで、何をするつもりなんだ」

「演習だ」

「なんだって。こんな所で大砲なんか撃ったら、大変な事になるぞ。誰の許可があって、こんな無茶をするんだ!」

 司令官はあくまでも冷静だった。

「戦車許可、という情報を聞いてここへ来たんだが?」

 おやじはやっと合点がいったようである。ため息をついて、おもむろに店の前につってあるボロ看板を指差した。

 そこには、曲がりくねった文字でこう書いてあった。


『洗車OK』と。

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