走る二宮金次郎

学校帰りに寄り道して遊びすぎた二人の小学生が、夕暮れの校庭を歩いていた。家へ帰るには、そこを通り抜けるのが一番の近道だったからだ。

「ほら、あの二宮金次郎、月夜の中、学校を歩き回るらしいよ」

「そんな馬鹿馬鹿しい」

「勉強のやりすぎでみんなに嫌がられ、悪魔の呪いを受けて体を縛られてしまったんだ。本当は生きているんだぞ。月の光を浴びると、その魔法が解けるんだ」

 その二宮金次郎の銅像の前にきた。すでに周りは真っ暗で、夜空に満月が見えている。

 と、突然、二宮金次郎が「うううう」とうめき声を上げた。

 少年たちは血相を変えて走り出した。

 二宮金次郎は台座から飛び降りると、「見たな」と叫びながら少年たちを追いかけてきた。

「捕まえられると食われてしまうぞ」

「な、何で」

「いやそんな気がするだけだけど……でも大丈夫、学校を抜けたら人がいる。時間稼ぎをしよう」

 そう言いながら片方の少年が、ランドセルの中から教科書をつまみ出して後ろに投げた。二宮金次郎はそれを拾って立ち止まった。

「本を見ると読まずにいられないんだ」

 が、それもあっという間だった。すぐ本を読み終えて、再び追いかけてくる。

「何て読むのが早いんだ!」

「さすが、二宮金次郎。次の教科書を投げなくちゃ!」

 教科書を投げるたびに二宮金次郎は立ち止まるが、あまり時間稼ぎにならない。

 だが、校庭を抜けるまであともう少し……。

「わっ、僕の教科書は全部なくなっちゃったよ。今度は君が投げて!後、二三冊で逃げ切れるよ」

 が、となりの少年は泣きそうな顔をしていた。

「どうしたの?」

「ごめん、僕、どうせ家に帰っても勉強しないから……」

そう言いながら、ランドセルの中を恨めしそうに覗いた。

「教科書は学校に置きっぱなしなんだ!」

 その子のランドセルにはスマホと弁当しか入ってなかったのである。

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