天使な男
「ぺっ!」
なんて汚いやつだ。所かまわず唾を吐く。しかも、ここは僕の病室だ。ベットの足元に片尻をのっけて、まるで与太者のような風体である。
「な、とってもいい話だろ。たった十万円で、1箇月分の命が買えるんだ」
「信じられないな、そんな話。第一あんた誰なんだ」
「オレは天使。ぺっ!」
「天使だって」
「天使だから、こんな取引ができるんだ。あんたの命はオレの見立てでは後わずか。命を助けてやりたいが、オレにはそこまでの力はない。ただし、死んでから1箇月だけ延命させてやることはできる。あの世の入り口の前で、門番にこのお札を見せるだけでいいんだ。ぺっ!」
「そうすれば、1箇月だけこの世に戻ることができると…?」
「その通り。それだけの時間がありゃあ、未練をたちきるためにいろいろなことができるぜ。死なんて突然やってくるものだからなあ。なかなかちゃんとした準備ができるものじゃない。ぺっ、ぺっ」
「わ、わかった。わかったから唾を吐くのはやめてくれ。十万円でいいんだな。そのお札買うことにしよう。」
本当に人の死なんて突然のことである。天使と名乗る男からお札を買って三日目に急に病状が悪化してしまい、僕はあっけなく死んでしまった。そうなると、遣り残したことの多さに今更ながら困惑してしまう。あの時お札を買っておいてよかった。僕は心底からそう思った。
あっという間にあの世の入り口だ。門番らしい男が立っている。頭に丸いわっかをのっけているのですぐにわかった。
「実は…」と僕は切り出した。
「ここにお札があります。これで、後1箇月だけもとの世界に戻してもらいたいんですけれど」
「なんのことだ」
「なんのことって、これをあなたに見せれば、元の世界に戻れると聞いたのですが……」
「この入り口で、今までそのような例外を認めたことはない。いったい誰がそんな話をしたんだ?」
「天使って、名乗っていました」
「天使だって、どんな感じのヤツだった?」
「うーん」と僕は考え込んだ。そうだ。思い出したぞ。
「なんか、平気で、すぐにぺっ、ぺっって唾を吐く、汚らしい格好の男でした」
それを聞いて、門番はとっても同情的な顔つきになった。
「君も騙されたのか。最近、その男による被害が多くて困っておるのだ。そいつは天使じゃないぞ」
「ええ、じゃ、何者だったんですか?」
「ぺ、天使だ」
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