求愛

彼女の家へ続くこの長い一本道。

木漏れ日の中で、彼はある決心を秘めて彼女を待っていた。それは熱い思いを抑えるにはあまりにも長すぎる時間だった。

 そして、運命がやっと、その道のはるか先に、彼女を運んできてくれたのである。

「あら」

 彼女は小さな声を出した。

 一瞬逡巡する彼の背中をぽんと押したのは、あるいは天使だったのかもしれない。

 気がつくと、彼は彼女の目の前に立っていた。もはや、どこにも逃げ場所はない。

「帰ってきてくれないか」

 あまりにも唐突な問いかけだった。 

 彼女は笑っていた。

彼女には彼の言いたい事が分かっていたし、問題が何なのかも分かっていた。

「君とはいつも誤解の連続だった。でも君を失って初めて分かったんだ。これからは君とずっと一緒にいたい」

「でもあなたはいつまで待っても約束をしてくれなかったわ」

 彼は叫んだ。

「いや、今こそ言う、結婚しよう!これから僕の家に来てくれないか。君のこと、父も見たいと…」

 そのとたん、鼻に焼きごてを押し付けられたような激痛とともに、彼は地面に転がっていた。彼女の激しいストレートパンチが彼の顔面に見事にヒットしたのである。

「えっ、な、なんで……」

「あたし、そんな尻軽女じゃないわ!乳揉みたい、なんていわれて、のこのこ家へ付いていくと思ったの。馬鹿にしないで」


 はっきりいって、誤解をするのはいつも彼女のほうである。

 憎みきれない彼女。しかし今は、取りあえず気絶しておくしか方法がないな、と薄れる意識の中で彼は思っていた。

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