やつらの見分け方

複数の歩道と車線が絡み合う雑踏の中を、奇妙な歩調で歩いている少女がいる。優雅にも見えるが、時々足の出し方を忘れてしまったように佇む事もある。歩き方に初心者というものがあるとしたら、明らかに彼女がそうであろう。

 そのうち少女は、あるファッションビルのショーウインドウの前まで来て立ち止まった。中に展示してある服飾に興味を引かれたらしい。そこには、色とりどりの帽子やマフラーが千切り絵のように華やかにレイアウトされていた。

 彼女は、両手でガラスを抱えるようにし、ウインドウの内側をじっと見詰めた。

「何を見ているんだ」

 俺は少女の横に並んで話し掛けた。しかし、少女は答えない。

「欲しいか?」

 少女はただ頷いた。

「どのくらい欲しいんだ……」

 俺はさらに少女の耳元で囁いた。

「喉から手が出るぐらいか?」

 少女はもう一度頷いて見せた。俺の顔をうかがうように見つめる瞳が、不思議な色を含んでいる。

 次の瞬間、俺はその少女を力いっぱい突き飛ばしていた。

 少女はバランスを失って仰向けに反り、頭からウインドウガラスに突っ込んだ。ガラスが砕け、その細かな破片がきらきらと光りながら四方に飛び散ると、さらに雷鳴のような光と爆音が周りの空間を引き裂いた。

 俺が手にしているのは、銀色に光る巨大な銃だった。そこから放出された無数の火球が、ウインドウの裏に落ちていく少女の体に集中した。

 事はあっという間に終わった。

 街の騒音が掻き消え、群集が水に落ちた油のようにぱっと広がって、その中心にいる俺を身じろぎもしないで見つめている。俺は手にした銃を再びコートの下に戻した。破壊され尽くしたショーウインドウから、粉塵が舞い上がって、少女の残骸を隠している。

「皆さん、慌てないで。私は特殊捜査官です。今、人間に化けたボディスナッチャーを一体退治しました」

 言いながら、懐から取り出した黒色の証明書を高く掲げて人々に見せた。

「もう大丈夫。後始末は当局がしますから、そのままゆっくりとこの場を離れてください」


 巧妙に人間に化けていてもまだまだその言語能力は劣っている。奴らは人間の会話はわかっても、諺や格言などの突拍子もない言い回しは理解できずに、パニックを起こしてしまうのである。論理思考ができなくなるのだ。

 例えば「耳にタコ」といえば、思わず自分の耳からタコをだしてしまう。いや、これは冗談ではない。

 現にさっきの少女は、喉から手が覗いていたのだから。

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