宇宙の空気漏れ

 宇宙船マーキュリー号のクルーたちはいまや絶望の淵にいた。

 流星が船体に接触するというアクシデントの後、あきらかに船内の空気の密度が薄くなっている。もはや、口を金魚のようにせわしなくパクパクして、少しでも多くの酸素を体内に送り込むことだけが、彼らのできるすべてであった。

「救援はこないのか」

「通信機器もすべて故障し、こちらからアクセスをすることは無理のようです」

「このままでは、窒息死を待つだけか!」

 その時、通信機の着信音が狭い船内を走った。

「助かった、地球からのアクセスだ」

「船長の奥さんからです」

 操縦室のモニターに人のよさそうな女性の笑顔がアップになった。しかし、一難去ってまた一難である。音声がまったく聞こえないのだ。

 船員たちはできそこないの無声映画のような画像をにらんで、歯軋りするばかり。しかも、あまり感のよくない女性なのであろう。異変に気づくそぶりもない。

「一言でいいから、せめてこちらからのメッセージを送ることはできないのか」

「無線の出力がどんどん落ちてきています。しかし、消える前に、ただ一言なら、なんとかなりそうです」

「そうか、ではたのむ!」

「いきますよ、どうぞ」

「助けてくれ、空気がない!」

 次の瞬間、モニターの画面が一本の光の筋を残して、真っ暗になった。

「切れたか」

「いえ、向こうが切ったようです」

「なんだって!」


 宇宙船マーキュリー号の船長の妻は、癇癪をおこしてテレビ電話を切ってしまった。

「ママ、何を怒っているのよ。お父さんとけんかでもしたの?」

 一人娘が、表情を曇らせて、彼女の顔を見上げた。母親の怒りは静まらない。

「だって、ひどいじゃないの。今度の郵送船で、作りたての手料理を冷凍にして送るっていったのに、お父さんったら……」

「お父さん、なんていったの?」


「食う気がない……ですって!」

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