第13話無能の抵抗

 絶対防御魔法を晒す貴族エルフ。


 「だが、貴様の様な奴隷の相手をしている暇は、もう無い……!」



 間合いを詰められ、長剣の先が俺の心臓位置に届く。

 そのまま貫通して、背中から長剣が生えてくる……いや、鉄を切った鋭さが感じられない。

 切れ味は良いが、普通の剣といった感じだ。



 そして、引き抜かれる。



 「………くうっ!……ぐはっ!」


 ゆっくりと痛みが傷口から全身に広がり、激痛が走る。

 傷口を隠すように抑えながら、両膝をつく。


 「さぁ、雑魚は消えた。魔導士カールイ、お相手願おう!」


 俺に背を向け、貴族エルフは爺さんの方に長剣を向ける。


 ミリヒルの援護で手一杯な状況で爺さんに、こんな奴の相手をさせられるかよ。


 「クソエルフ!……ハァハァ……俺は生きて……いるぞ!」

 「何?心臓を貫いたはずだが?」


 確かに心臓に刺さったが、生きている。

 俺の中に血液が循環していないから、心臓が壊れようが関係ない。


 「ちゃんと狙って……刺せや。そんな甘い突きじゃ……俺は殺せないぜ……はぁ…はぁ」

 「虫のようにしぶとい奴隷だ……」


 長剣に血が付いてない事に気付かないでくれ。

 傷口が塞がり、全身の痛みも引いてくる。


 「なら次は外さん!……いい加減死ぬが良い!」



 俺も死ねるなら死にたいよ。

 エルフの男の狙いは俺の心臓だ。

 目的が分かっているなら、避けるのは難しくない。

 エルフの男の剣は空を切るが、動きが鈍った俺は数回心臓とは別の部位に当たる。

 指にあたり、右指の数本が飛ぶ。



 体の一部が体から離れると、回復も遅いみたいだ。

 心臓を貫かれた時は、ほんの数十秒で完治した。

 しかし、指は目視で確認できる速さで再生しているが、一分で二センチ程度の速度だ。

 なるべく、身体から切り離さないほうがいいのだろう。



 長期間、水も食事も取っていない体では体力もすぐにそこをつく。

 さっき避けられた攻撃は避けきれない。



 頼むぜ……爺さん、次は避けきれない。

 長剣が俺の胴を真っ二つにしようとした時、



 「『………』ハック・マジック!」



 爺さんの声が部屋に響き渡った瞬間に、エルフの男の長剣は粉々に消し飛んだ。



 「貴族エルフおぬしの魔力を解読する……のに、ちと……ハァ、ハァ……時間がかかったわ」

 「我の魔力をこんな短時間で……素晴らしい。貴方の魔法の前ではこの剣も鈍と同じか!」



 自分の剣を壊されて喜んでいるよ。気色悪い。


 「やはり、魔法でお相手しなければ失礼にあたる!」


 そう言ってエルフの男は詠唱を始める。


 「そうはさせ……ん?」


 妨害に向かおうと思った瞬間、部屋全体が揺れる。

 天井の梁はミシミシときしみ始め、不安を煽る。


「どうした……何が……」


 俺が疑問を嘆こうと思った瞬間、



 ―――ズッドォン!―――



 と天井が落ちてきた。


 そこには、盗賊のリーダーがミリヒルを床に投げつけながら落ちてくる。


 ミリヒルが床に激突する直前に魔法陣が現れ、衝撃を吸収する。爺さんの魔法だろう。



 「逃しはせんぞ!お前は俺の性処理道具なのだからな!」



 ミリヒルが起き上がる暇を与えず、彼女の半身ほどの長さもある盗賊のリーダー足の裏で押さえつける。

 ミルヒルは生きているのか?



 「……ぐはぁっ!……カールイ…ごめんなさい。……ミスったわ」

 


 ミリヒルは、生きていた。

 ミリヒルも盗賊のリーダーも体の至る所にある傷が上階の戦闘の激しさを物語る。

 どちらかと言うと盗賊のリーダーの方が傷は深そうだ。



 「もう我慢ならん!」



 盗賊のリーダーはミリヒルを持ち上げ、俺たちに見せつけるように彼女のローブを剥ぎ取る。

 その下には、ヒップを強調するようなホットパンツが最初に目に付いた。

 あんなの日本で着ていたら痴女だ。

 ヘソの周りにはくびれが見えて、男性を誘うには十分な体系である。



 「触るんじゃないわよ……この豚!」



 盗賊のリーダーに抵抗するように手足を動かす。

 何発も鈍い衝突音を響かせながら、盗賊のリーダーの傷口を広げるが、興奮状態の盗賊の男には意味がない。


 「ちょこまかと……だが、それくらい抵抗されたほうが絶望を覚えさせるのに丁度いい」


 盗賊のリーダーの股間は膨れ上がり完全に勃起していた。

 五メートル以上の身長だ。

 こいつのナニの長さも太さも規格外である。俺の足よりデカいのではないだろうか?



 「ふふ……この姿の俺の犯された女の腹は限界まで膨らみ、痛みでもがき続ける。最後は、腹が破裂し血袋となるのだ.……!」



 ミリヒルの恐怖を煽るように語りかける。

 このままだと、ミリヒルは犯された挙句、惨殺される。

 爺さんも、魔法で攻撃しようとするがエルフの男の魔法で妨害を受けて助ける事が出来ない。


 盗賊のリーダーの意識をどうにかして、ミリヒルから離れさせないと。

 こんな体だけが丈夫な俺に出来る事は一つだ。



 「おい!……図体だけの豚!こっちだ!こっち!」

 「ん?……なんだお前、まだ旦那に殺されてなかったのか?」

 「俺があんなクソ雑魚野郎に簡単に殺られるかよ」



 よし、気づいてくれた。煽ってこいつの意識を俺に集中させる。


 「てめーの部下の仇は俺だろう?」

 「ふん……」


 「面白かったぜ、最初はイキがって俺を舐めた態度を取っていたんだ。だがな……目をえぐってやったら、やめくれって何回も言ってくるんだぜ。しょうもなかったぜ。あんなイキがっていたのに形勢逆転されると子犬みたいに許しも乞う姿は……」



 もう適当だ。相手の沸点を限界までに上げてやる。



「てめーも、同じようにおもちゃにしてやるよ。豚パズルだ!」

「黙れ……」

「黙ってられるかよ……テメーも、テメーの部下も手足もいで交換してやる。そしたら、直ぐに飽きて、ゴミ捨て場に置いて廃棄してやるよ」

「これ以上……しゃべるな」


 盗賊のリーダーの顔は真っ赤になっている。

 ミリヒルを犯すことを忘れ、ミリヒルを握るだけになっている。


 潰されないのは、爺さんの魔法のおかげだろう。


 「どうした?このチキン野郎……こんな平たい顔の格下相手に金玉縮こまったのか?テメーのナニもチキンかよ!いや、豚だったな。ブタちんこが!」

 「……もう許さん……俺は猪だ!ひき肉にしてやる……!」

 「ひき肉になるのはテメーだ!」



 中学生でももう少しマシな口喧嘩をするだろう。

 だが、こんな頭では動かない野郎をキレさせるには、これ十分だ。


 ……だが、体が動かないな。五メートル越えの怪物を目の前にすると体が震える。

 


 最初から勝つ見込みはない。

 俺の役目は時間を稼ぐことだ。

 ネフィルが魔法陣の解除を終わらせるための時間を一秒でも長く稼ぐ必要がある。

 この世界で無能な俺にぴったりの役割だ。



 盗賊の男はミリヒルを掴んだ手とは逆の手で俺を握る。


 俺は腰の刺したナイフを使い、盗賊のリーダーの手を刺していく。

 盗賊のリーダーは頭に血が上って、興奮し続けている。手に起きる痛みなど感じていない。


 「無駄な、足掻きだ……!」


 そのまま、俺は床にたたきつけられた。

 爺さんの魔法の恩恵を受けられない、俺は全身の衝撃を浴びる。

 内臓が曲がる、無傷な骨はあるのか?

 全身が壊れた、痛みすらはっきりしない。


 「……豚!……テメーも……部下と…同じで弱いんだよ!」


 俺が強がっていたのは誰にでもわかる。


 「……なら、さっさと死ね!」


 その後、何度も踏みつけられる。

 内臓は混ざり、折れた骨が肉を裂くのがわかる。


 「やめなさい……この!……この!」


 ミリヒルもこの惨状を見て、盗賊のリーダに攻撃を仕掛けるがが握られた状態では無力だ。


 俺の事を思ってやってくれているのか……ミリヒルの叫びが俺の生を感じさせる。


 「団長、何をやっている。そんな奴隷さっさと殺してしまえ!」

 「旦那、すまねえ………こいつなかなか殺せなくて……なんで、ここまでして死なないんだ?」


 俺も知るかよ。


 ああ、俺の体は徐々の人間の原形を崩しているのか……いや、体の破壊と回復が均衡している。

 壊しては回復し、壊しては回復しが続いている。

 もし、体を切断されていたら、こうもいかなかっただろう。

 この豚が単純な頭で、潰すしかできなくて良かった。


 「もう見てられん、この我の魔法で殺してやる!」


 痺れを切らした貴族エルフが、爺さんとの魔法合戦をやめ詠唱を始める。

 それを妨害する爺さんの魔法は絶対防御魔法にはじかれていた。



  まずい……まだ魔法陣は解除されないのかよ。俺が、貴族エルフや盗賊のリーダーを引き付けた時間が無駄だったのかよ!


 魔法も使えない、時間稼ぎもできない……なぜ、こんな役立たずの俺を……この世界によんだんだよ!

 あんなクソチートな絶対防御魔法を突破する手段なんてあんのかよ。

 無能の抵抗はここまでかと思った瞬間だ、



「………うっ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 貴族エルフは突如と詠唱をやめ、叫び始めた。


 何が起こった?


 貴族エルフの足元をみると、血で水たまりが出来ていた。

 爺さんの魔法は効いたのか?

 違う……もっと単純な事だ。


 ナイフを持った小さな少女……ネフィルが貴族エルフの背中を何度も刺していたのだ。

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