第38話 小石川と妻

 写真撮影の後、春香に美味しいガーリックシュリンプのお店があると誘われて、俺たち三人は夕飯を取り始めた。

 「はは。いやー、いい写真撮れたよ!めちゃくちゃいい表情。小石川さん、ほんとかわいいね」

何の含みもなく、春香はそう言った。

本当にそう思っているのだろう。

 「へへ。ありがとうございます。あの、奥様も美人です」

 小石川の言葉にも何の含みもない。

 こいつは、根っから、思ったことしか言えない人間である。

 「何さっきから暗い顔してんの?ったく、隅に置けないねー。こんなかわいい子に手を出して」と、春香は俺に、肘をぶつけてくる。

 「ちなみに、失礼だけど、お歳は?」と、春香は小石川に聞いた。

 「18です」

 「じゅ、18?えええ。高校生?大丈夫?犯罪じゃないの、それは!?」

 俺は頭を抱えたくなる。

 ……やはり、小石川を連れてきたのは間違いだったような気がした。

 春香は、3年前以上にパワーアップしているというか、ハワイアンな感じになっていた。

 要は、ぶっちゃけて物を言いすぎである。

 「大丈夫です。あの、就職もしてますので。今年で19になります」 

 「私たちから一回りも違うじゃない。……すごいわね」

 はいはい。そうですよ。すいませんね。ほんと。こんな若い子に。

 ……しかし、今までそういう普通のツッコミを聞いてなくて、あらためて自分のやっていることに驚く。

 「すごいんです、三寿さん」

 あくまで、小石川は素直に受け止めていた。

 「あー。なんか、私までときめいちゃう。何この子。何だろう。小悪魔感あるって言われない?」

 やめろやめろ。そのワードを言うな。

 「あ!それ、三寿さんに言われました!ていうか、なんですか小悪魔って!よくわかんないけど、なんか嫌です!」

 夫婦で同じこと考えるって。やっぱり、似てきてしまうものなのだろうか、とちょっと複雑だった。

 「あ、そうなの。ごめんねー。まあ、魅力があるってことよ。いい意味よ、いい意味」

 「本当ですかー?じゃあ、いいですけど」

 「大丈夫?さっきから、一言もしゃべってないけど」

 「そうですよ。先輩、どうしたんですか?お腹痛いんですか?」

 そう、さっきから一言もしゃべれないでいた。

 別にお腹が痛かったわけではないが。

 ……いや、あなた方の会話のスピードってなかなか入れないんですよ?

 そして、それよりも。

 「……あの、ちょっと、二人きりになってもいい?」と、俺は春香に聞く。

 「えー。もっと、奥様とお話したいのに」と、小石川は文句を言った。

 「そうよー。私も梓ちゃんともっとお話ししたいわー」

 ……どれだけ、この短時間で意気投合してるんだよ。

 「……マジかよ」

 「ふふ。わかったわよ。じゃあ、ちょっとだけ席外すから、待っててね梓ちゃん」

 「ごめんな、小石川」

 「……はい。あの、早く、戻ってきてくださいね?」

 心配そうに小石川は言った。

 「うん。わかった」


 しかし、早く終わることができる自信はまったくなかった。


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