第36話 天国に一番近いホテル


 「ん~。めっちゃ美味しい」

 「マジでこれいくらでも食べられるよな」

 ヴィンテージコーヒーのアサイーボウルは、本当に素晴らしい食べ物だ。

 その名の通りアサイーのスムージーが中に入っているのだが、他にもバナナ、ブルーベリー、イチゴ、グラノーラ、豆乳が入っていて、たっぷりはちみつがかかっている。

 二人で食べるのにちょうどいいくらいの大きさで、さっぱりしているので、今の小石川が食べるにもうってつけの食べ物だった。

  

 「そういえば、今日ってどこ泊まるんでしたっけ」

 「ん。あー聞いてないのか」

 「はい。先輩についていけば分かるって言われて」

 ずいぶん、ざっくりとした指示である。

 美咲らしいといえば、美咲らしいが。

 それで、納得する小石川の対応力もすごいのだが。

 「あいつの謎の力によって、すごいところに泊まることになったぞ」

 「え。どこですか?どこですか?」

 「ハレクラニ」

 「……なんか、聞いたことあります」

 俺はスマフォで検索した写真を見せる。

 「これだよ。ほら、バラのプールで有名なところ。「天国にふさわしい館」とも言われる超絶高級ホテル」

 白い外観に、海の近くにある大きなプール、映し出される白い綺麗なバラ。

 数あるハワイのホテルの中でも最もいい場所に建てられているホテル。

 それが、ハレクラニである。

 「すごっ。いいんですか?こんなところ泊まって」

 「美咲のおかげで、そこまで高くない値段だったからな。普通は、新婚か外国の金持ちくらいしか泊まらないと思うけど」

 「めっちゃ楽しみですー。……ていうか」

 「なに?」

 「先輩、もしかして泊ったことあります?」

 こういう時、小石川の勘はするどい。

 「……まあ」

 「あー!何それー!ほんと、なんか……むかつく」

 小石川は、ぷくっと頬をふくらませた。

 「なんだよ。だって、新婚だったし。しょうがないだろ。定番なんだよ、定番」

 「ぶー。なんか納得いきません」

 「まーまー。ホントいいホテルだから」

 きっと、ホテルの中に入ったら、機嫌は直っているだろう、と俺は思っていた。


 「わー!!めちゃくちゃ海見えるじゃないですか!!」

 案の定だった。

 窓から見えるのは青すぎる海だけだった。

 やはり、とてつもなくいい場所を美咲は予約してくれたのだ。


 「だろ?このオーシャンビュー。ヤバいだろ」

 「ヤバいです!!あー!ここで一生、生活したい!」

 小石川はテラスの椅子に座って、腕をのばす。

 「うん。まあ、それは億万長者と結婚しないと無理かもだけど」

 「先輩、億万長者にならないんですか?」

 無理言うなって。

 「ならねえよ。いや、なれねえよ」

 「ちぇー。そういえば、新婚と間違われてましたよね?私たち」

 「……美咲が新婚だからいい部屋にしてくれって予約とったんだろ。いろいろな意味で、さすがだよ」

 「だけど、間違ってもないですよね?」

 「え?」

 「日本帰ったら、結婚しますし」

 小石川が事もなくそう言うことに、俺は少し面食らう。

 なにせ、まだ、正式に付き合っているわけでもないのだ。

 けれど、俺が言ったことを素直に受け止めてくれているのが嬉しかった。

 「うん。……だな」

 「先輩」

 「ん?」

 「好きです」

 「……なんだよ」

 「言いたくなっただけです」

 「うん」

 恥ずかしくて、正面から小石川を見ることができなかった。

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