第34話 MCUはお好きですか?

 旧名称ホノルル空港、現在はダニエル・K・イノウエ空港(旧名称のほうが断然いい気がする)に俺たちは7時間後に到着した。

 時差の関係で、夜に出発したのに、ハワイでは、その日の朝である。

 一日、得をした気がするが、帰る時には同じように損するので、プラスマイナスゼロである。

 「はー、やっと着いた」

 とはいえ、7時間前後でハワイまで到着するのだから、やはり飛行機はすごい。

 「……はあ」

 と、小石川はため息をつく。

 やはり、フライト中は元気がなく、すこし揺れるたびにびくっと身体をふるわせていた。

 「大丈夫か?」

 「めちゃ気持ち悪いです」

 「……結構、トイレに行ってたしな」

 1時間に一度くらいのペースで小石川はトイレに行っていた。

 全く眠れていないはずである。

 「飛行機のゆれってなんであんなに予測できないゆれなんですかね」 

 「まあ、空だからな……」

 「帰りもあれに乗るとなるとそれが憂鬱です」

 「まあ、元気だせって。ちょっと休んでくか」

 

 空港の中にあるフードコートに俺たちは入った。

 日本人観光客が多く、にぎわっていた。

「……先輩は元気そうですね」と、水を飲みながら小石川が聞いた。

 「え?ああ。俺は、酔ったりとかはしないしな。あと、飛行機は映画見放題だからいいよなー。結構新作もあるし。MCUシリーズも見直せてよかったわ」

 飛行機は、映画が観られるのが本当に素晴らしい。

 バスや電車にも同じサービスを取り入れてもらいたい。

 「マーベルなんちゃらかんちゃらですよね。あれ、意味わかんないです。なんでみんな好きなんですか?」

 「マーベル・シネマティック・ユニバースな。いや、あれはすごいんだって。一つ一つの映画が単独じゃなくて、大きな一つの世界を創り上げるっていう。しかも、単独で観ても完成度が高くて面白いから、みんな熱狂するわけよ」

 「へー。あ、私、あれは好きです。あの青いマスクの人」

 「キャプテン・アメリカな!いいところに目をつけるな!キャプテン・アメリカはマーベルでも特別な作品なんだよ。まさに、MCUの中心に位置する作品で、特に『ウィンター・ソルジャー』は傑作だよ。現代アメリカの社会風刺にもなっていて、ただのヒーロー映画にはないダークさもある。監督のルッソ兄弟の素晴らしいアクション演出は圧巻だ」

 「へ、へー」

 「特に俺が好きなのは、『シビル・ウォー』でさ。あれは、アベンジャーズっていうヒーローたちのチームが分裂するわけ。それで、さっきのキャプテン・アメリカチームとアイアンマンチームがバトルするんだけど。どちらも、自分の正義を貫くために対立してしまうんだよ。それで、どちらの言い分も頷けるんだよな。まあ、俺はアイアンマン派なんだけど。特にラストシーンは涙なしには……」

 「先輩、あの……」

 「ん?どうした?それから忘れちゃいけないのが、最近、話題になったから知ってると思うけど『エンドゲーム』でさ。あれは、ほんっとうに、ネタバレしていいならするけど、泣いたね。もう、がばがば泣けるよ、あんなもんは。あと、日本的な想像力っていうかさ。多元宇宙的っていうか、量子力学的っていうか、『君の名は』に通じるような、世界の救い方……!これには、脱帽だよね。よくぞ、この手法を考え付いたなと。……お前、大丈夫か?」

 小石川は、もう限界です。と言わんばかりの顔だった。

 「先輩、私……」

 「ちょっと、待て。うん、俺が悪かった。悪かったから……ここでは……」

 しかし、時はすでに遅かった。

 もし、タイムマシンがあるのなら、歴史を修正したかったが、それは現代の技術では不可能なのだろう。

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