第33話 飛行機はお好きですか?

 時間になり、飛行機に搭乗した。

 小石川に窓際の席を譲ろうとしたが、「いえ、通路側でいいです!」と拒否した。


 「先輩、飛行機って大丈夫なんですか?」

 小石川は、うつむいてそう言った。

 心なしか、顔が青かった。

 「え。別に大丈夫だけど」

 そもそも、飛行機が駄目なら乗っていないと思うのだが。

 『のだめカンタービレ』の千秋じゃないんだから。

 「……そう、ですか」

 小石川の手は若干震えていた。

 まさか、こいつ……。

 「お前、もしかして苦手なのか」

 「怖い、じゃないですか。飛ぶんですよ?」

 「まあ、うん。飛ぶよ。飛行機だもの」

 少し、相田みつをっぽく言ってしまった。

 「知ってますか?飛行機がなぜ飛ぶのか、それって、科学ではまだ明かされてないんですよ?」

 「ああ。そうらしいな」 

 確かに、何かの本で読んだ気がする。

 鳥がなぜ、飛べるのかもわかっていないらしい。

 それなのに、こんな巨大なものを飛ばすことができるって、本当にすごいと思った記憶がある。

 「怖くないですか!?なんで飛んでいるのかもわからないものに乗るって!」

 「うーん。まあ、でも飛んでるし」

 俺はあっけんからんと言ってしまう。

 ……しかし、そんなことを言ってしまえば、車だって船だって怖くない?

 「わかってない!先輩はまったくわかってないです!つまり、いつ落ちてもおかしくないんですよ!」

 小石川の声は大きかった。

 キャビンアテンダントさん「お客様大丈夫ですか?」と言われてしまう。

 「ははは。大丈夫でーす」と俺は答え、「何かありましたら言ってくださいね」とキャビンアテンダントさんは戻っていった。

 「おいおい、そういうこと言うなって。特に、ここでは言うな、頼むから」

 下手すりゃ、降ろされてしまう。

 小石川は反省したのか、小さな声で「先輩は飛行機事故の恐ろしさを知らないからそんなことを言うんです」とつぶやくように言った。

 「いや、まあ詳しくはないけど、そんなに頻繁に起こるようなもんじゃないし……」

 「じゃあ、今、この飛行機で起こる確率が絶対にないってどうして言い切れるんですか?」

 いや、全てのことは絶対とか言いきれないだろ。

 などという説得は全く効果を持たなそうであった。

 「いや、言いきれないけど。多分、大丈夫だから。頼むから落ち着け。な?」

 「ああー。怖いよ―怖いよー」

 小石川は頭を抱えた。

 「ったく……」

 と、俺は小石川の手を握った。

 「先輩?」

 「もし、なんかあっても、絶対助けてやるから、安心しろ」

 小石川のせいで注目されていたのか、「ヒューヒュー」などといった声が他の乗客たちから聞こえた。

 とてつもなく恥ずかしい。

 「先輩……」

 「なんだよ」

 「こういうところで、言うと、その、聞こえるんで、恥ずかしいです」

 ……誰のせいだよ!!

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